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流れる星のように③

 同じ教育実習の身の上でありながら、この差はなんだと落ち込む流星に、遠藤良子は、屈託なく笑いかけてくる。

「おはようございます!」

「おはよう……ございます」

 努めて冷静な声音を作りながら答えると、遠藤良子はさらに「いい天気ですね」と続けた。

「ふふ、私。昨日は興奮しすぎて眠れませんでした」

 にこにこ笑いながら生徒たちを教室に送り出す手際のよさに感心していると、遠藤良子は指定の席に荷物を下ろし、すぐにカップを手に立ち上がった。

「持ってきました?」

 首を振る。

 遠藤良子は、隣にいた若い先生に話しかけ、すぐに流星のために来客用のカップを確保してきてくれた。

「お茶淹れますね。あっ、コーヒーがいいです?」

「えっ、いいえ。あの、はい。どうも」

 流星のどっちつかずのくだらない返事にも腹を立てたりせず、さらに居合わせた先生たちの分までコーヒーを淹れる。

 流れるような、自然なしぐさだ。

 先ほどまでの凍てついた空気は、もうどこにもない。森野指導教諭までもが、彼女の淹れた温かいコーヒーに舌鼓を打っている。

「北島先生? もう体調はよろしいの?」

 末永校長が、声をかけてきた。

「はい、ありがとうございます。昨日はご迷惑を……」


 ――『本当よね。これ以上、面倒は起こさないで欲しいわ』


「あら、何かしら?」

 あまりに見つめ過ぎたのか、末永校長はまゆをひそめた。

「いえ、あの……すみません。もちろん、以後気をつけます」

 ぎょろり、と目玉を動かした末永校長は、しばらく視線を天井の辺りにさまよわせてから、愛想笑いをしながら校長室へと消えていった。

 やがて始業のチャイムが鳴り、ざわめく生徒の波が教室へとなだれ込むと、ノートの束や教科書を入れたカゴを抱えた教師陣も職員室を出て行った。

 残ったのは、授業のない教師や学級外の面々、そして「教室への出入りを禁止されている」流星だけだった。

 借り受けた教科書と指導書を机の上に広げ、筆記用具を取り出す。

 教科書を開いてみるが、指導教諭から何の説明も受けていないので意味がない。



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