流れる星のように②
穏やかならざる会話をしていた集団は、流星が自転車小屋に入り、職員玄関をくぐったあともずっと立ち尽くしてにらみ続けていた。
何食わぬ態度で、流星も彼らの顔を盗み見る。
もし仮に、だれかしらに相談しなければならなくなったときのために、彼らの特徴を覚えておく必要があるからだ。
考え込みながら職員室に入ると、そこにいたすべての視線が流星に注がれた。
「おはようございま……す」
あいさつすると同時に、すっと人波が引く。
中にはわざわざ流星の顔を見てから、無言のままゆっくりと顔を背ける先生までいたのだから、驚きだ。
無視は、いじめじゃないんですか、先生。
心の中で毒づきながら、流星は自席に向かう。
確かに昨日の朝会は、例の生徒がいつまでも調子に乗って騒ぎ立て、学校全体が落ち着かない雰囲気に包まれた。
元々、大人の言うことにあれこれ疑問を持ち始める年ごろでもある。
鬱屈した思いを消化できずに、暴れ出す者、目立つことに異様なまでの執念を燃やす者もいるのだ。
それを、日頃から「少しでも良い方向へ」と、熱心に指導している教師陣からしたら、昨日の不用意な騒動は、許しがたいことだったのだろう。
荷物を置き、椅子を引く。
自然とため息がもれた。
「北島流星先生」
振り向くと、クマのような大柄な体躯の男が流星を見下ろしていた。
「はい」
「昨日はゆっくり話もできんかったが、わしがあんたの指導教諭の森野です」
「あ、よろ、よろしくお願いします」
どもりながらあいさつすると、森野指導教諭は、大きな手でガリガリ頭をかいた。
「校長に聞いてるだろうが、あんたにはしばらく教室には入らないでもらいたい」
「どうし……」
「どうしても、だ。あんたのよぉく知ってる前田のやつが、やっかいでな」
前田、と口の中で繰り返すと、そういうことだ、と森野指導教諭は流星の肩を力強くたたく。
バランスの取れない体勢で立っていた流星は、必然的によろめいてしまう。
かろうじて椅子の背をつかんでこらえると、ちょうど職員室に入って来た遠藤良子と目が合った。
彼女はすでに、両手にぶら下がるようにまとわりつく女子生徒を従え、楽しげに笑っている。




