その時に聞こえたのは君の歌②
「着ぐるみじゃないんですか」
本物だよ、と清々しいまでに、無精ひげの男は信じ切っている様子だ。
「おれ、成瀬。あんたと同じ大学に通ってる。今日はね、あんたを、未確認生物・UMA研究会に勧誘しようと思います!」
それまで笑っていた流星の目が、写真からそれて、何もない空中をさまよった。
「こんなところで?」
言われた成瀬も、急に真顔になって身を起こす。
「え、おお。うん」
「わざわざ?」
追い討ちをかけるように流星が言いつのると、成瀬は大仰に首を垂れた。
たとえばこのカフェが、大学近くで営業しているであれば、同じことを言われても、なんら不審には思わなかっただろう。
だが、ここは大学からほど遠い、流星の地元の店なのだ。
たどり着くには、数時間バスに揺られる必要がある。
百歩譲って同じ大学に通っているのが本当だとしても、なぜ流星がそうなのだと分かるのか。
「あのさ、別におれ、仲間を集めて尾けてきたとかじゃないから。ほら、あの人らは、このカフェで出会ったばかりの気のいい人たち」
よくよく見れば、年代も服装も、ちぐはぐな集まりだ。すでにバラバラになって、自分の時間を過ごしている。
「謝ろうと思って近づいたら、大学で見かけた顔だなって気づいてね」
成瀬が笑うたび、ゴマを散らした無精ひげがちらちら揺れる。
「うちらはさ、人数こそ少ないけど、確かな情報と豊富な知識を持っていて、真剣に情報の交換を……」
「結構です。入部はしません」
流星が遮ると、成瀬は大慌てて立ち上がり、店じゅうに響くがなり声で「そこをなんとか!」とテーブルに両手を付いた。
大柄な成瀬の全体重が、みしり、とのしかかる。
薄い天板が飛び上がり、載せていたクリアファイルが床目がけて一気にすべり落ちた。
「後悔させない。なんだかあんたとは、うまくいくような気がするんだ。絶対に、楽しいから。いっしょに、UMAの研究しようぜ。な?」
流星の荷物を拾いながら、成瀬はテーブルの下から顔を出す。
差し出されたクリアファイルを受け取るとき、中に挟んでいた紙片が、ぬるりと落ちた。
成瀬がすばやくその紙片を拾い上げ、そこに記載されていた流星の名前に目を落とす。