いつでも君のそばに⑥
一歩下がり、礼をする。
体育館は静まり返っていた。生徒たちの視線は皆、流星に注がれている。
流星はステージの端まで来ると、振り返り、再び一礼した。ステージに架けられた短い階段に足を掛け、用意された椅子に戻ろうかというとき、急に廊下に続く奥の引き戸が開いた。
「おはようございま~す」
遅刻の生徒の一団が、どかどかと体育館に入り込んできた。
末永校長のまゆが、ぴりり、とつり上がる。
近くいた教師陣に背中を押され、彼らは早々に廊下に追い出されていく。それを緩慢に目で追っていると、中のひとりがぐるりと首をめぐらせた。
「あれ? そこにいるのはウソツキの冷血漢じゃね?」
背の高い生徒だった。
彼は長い指先を、まっすぐに流星に向けている。
「あ~、ははは。あんたさ、何もしていないオレを警察に通報してトンズラした、昨日の人でしょ? もう忘れたの?」
背筋がひやり、と震えた。
周りの教師陣が黙らせようとすればするほど、彼は面白がって飛び跳ねる。
「おまえら、信用するなよ。ご大層なことばを並べ立てても、あの男は、オレたちのこと警察に売るつもりだぞ」
冷たく叫ぶその声には、絶対にどこか聞き覚えがあった。
たくさんの視線が、流星とその生徒との間を行き来した。
そこに、騒動を聞きつけ、佐々木顧問……鬼佐が戻ってきた。
だまされるなよ、あいつはひどいヤツだぞと、事もあろうに、彼はその鬼佐にまでダメ押しした。
「……昨日の……」
ビルの窓から身を乗り出して大騒ぎしていた、あの男。
遠藤良子が、への字に唇をかみ締めて、流星をのぞき込んでくる。心配されればされるほど、遠くへ逃げ出したい思いに駆られた。
よろめく足に力が入らず、それでもそのまま一歩踏み出し、次の瞬間には視界がぐにょりと回った。
硬くて冷たい床に伏せったところまでは、意識があった。
それでも、体育館の前と後ろで大さわぎする連中のことばが、妙に反響してうまく聞こえない。
末永校長が、流星の腕を取って立ち上がらせた。
「しっかりなさい。生徒たちの前では、あなたは教師なんですよ」
だめなやつ、と言われている気がして、流星は唇をかんだ。
「それができないのなら、今はこの場から出て行くのです」