いつでも君のそばに⑤
最初に廊下に出た成り行きで、流星は先頭に立って歩くことになった。
迷惑をかけないように懸命に歩いたが、それでも体育館の入り口が見えてきたとき、飯島颯太がするりと前に出た。
意気揚々と胸を張って歩く飯島颯太の後頭部は、流星よりもずいぶん低い位置にある。
そのため、先頭だろうと二番目だろうと、流星の見る景色はまったく変わらなかった。
体育座りで待ち構えていた生徒たちは、並んで歩く三人をじろじろ眺め回した。
末永校長より短い紹介があったあと、最初に名前を呼ばれたのは遠藤良子だった。
彼女は、自己紹介の合間に紙コップと新聞紙を使った手品を披露し、拍手喝采の中、軽やかにステージを下りた。
次に呼ばれた飯島颯太は、ぎくしゃくと登壇して威圧的な物言いで生徒の顰蹙を買った。
それすらもおまえのせいだと言わんばかりに、飯島颯太は流星をひとにらみする。
彼の鋭い視線を浴びながら、流星はステージに登壇した。
あの、と緊張気味に咳払いをしてから、黒い制服の集団を見やる。
「ぼくは、この中学を卒業しました」
ほおが紅潮しているのが分かる。それでも、流星は精いっぱいの声を張る。
「当時、ぼくは陸上部で汗を流していました。記録が伸びずに悩んだ時期もありましたが……」
そこで、入り口の引き戸を背に立つ陸上部の恩師、佐々木顧問の姿を見つけてしまい、ことばにつまる。
それまで緊張のあまり忘れていたくるぶしの痛みが、じわじわと流星の体、はい上ってきた。
唇が、小さくわななく。
そんな様子を見かねたのか、それとも単に用事があったのか、佐々木顧問はくるりと踵を返して廊下へと出て行った。
「ぼくは……いつでも……すべてのことに全力で向かってきました」
つっかえながらも、伝えたいことは絶対に言い切る、と流星は心に決めていた。
「勉強との両立のため、必至で時間をやりくりしました。友人との些細な口論で眠れない日もありました。それらを懸命に乗り越え、今のぼくがいます。何かあったら相談してください。抱え込まないでください。熟練の先生方のように、すぐに答えは出ないかも知れません。ですが、いっしょに悩みましょう。考えましょう。乗り越えていきましょう」
広い体育館の隅々まで声が届くように、ゆっくりと見渡した。
「ぼくは、いつでも君たちのそばにいる。寄り添っています。忘れないでください」