いつでも君のそばに④
広い廊下を右に折れて、そのまま階段を上りきった先にあるのが職員室だ。
スリッパが三足そろっていたのだから、当然ほかの実習生はまだ来ていないものだと思い込んでいた。
ところが、いざ職員室のドアをノックしようとすると、小さなガラスの小窓から、紺色スーツ姿の男女が並んで応接ソファに座っているのが見える。
慎重にのぞき見ると、ふたりとも運動靴を履いた足元をそろえている。
来客用、と金文字で書かれた緑のスリッパをもじもじさせてから、ドアに手をかけた。
ところが、まだ流星が力を入れていないにもかかわらず、引き戸が動いた。
白いスカーフを巻いたセーラー服姿の女子生徒が、逃げるように職員室から飛び出してくる。
「あっ、あの……おはっ、おはようございます」
自分でも驚くほど、ことばがうまく出てこない。
女子生徒は胸まである黒髪をなびかせ、流星のほうなど振り向きもせずに、するりと階段を上っていってしまった。
「北島先生ですね」
赤と紫を混ぜたような派手なスーツを着込んだ老齢の女校長が、こちらへどうぞ、とソファに招いた。
「私は校長の末永とも子です。そしてこちらが、同じく実習生の飯島颯太先生」
言われた男は目だけをちら、と流星に向けた。
値踏みするような視線だった。
「私は、遠藤良子です。短大生ですので、皆さんより二学年、下になります」
紹介されるよりも早く立ち上がった遠藤良子は、きれいな巻き髪をハーフアップにしている。
彼女の柔和な笑みが、出遅れて打ちのめされていた流星の心を落ち着かせてくれた。
「おはようございます。北島流星といいます。この中学は母校になります」
一歩引いて三人の様子をうかがっていた校長の目が、きらりと光る。
「母校ね。それは頼もしいこと。だから、昨日の打ち合わせも欠席なさったのね」
「すみません。実は、玄関まで来ていたのですが……その……」
「まぁ、いいわ」
流星のことばを遮ると、末永校長は何かの書類に目を落とした。
飯島颯太の口元が、にやりとゆがむのが見えて、流星はひどく動揺した。
「それでは、朝会に行きますよ」
「え、朝会ですか?」
自己紹介するのよ、と遠藤良子がささやいてくれた。
「そこで、あいさつをするらしいわ」