いつでも君のそばに①
頭の片隅でだれかが叫んでいるような気になって、流星はまぶたを持ち上げた。
目を閉じていたからと言って、眠っていたわけではない。頭を振ってベッドから身を起こし、目覚まし時計を見つめる。
「まだ、五時か」
目覚まし機能をオフにして、スマホのアラーム設定も解除した。
頭が割れるように、痛む。
一睡もできないまま朝を迎えてしまった流星は、もう眠っているフリもやめた。起き上がり、ずっと付けっぱなしだった古いラジオを切る。
「この声はラジオの余韻じゃない。昨日の、あの男の……」
――『タスケテ』
心の声が、こびりついて離れない。
助けて。助けて。そう叫んだのは、夕べ、の生徒か。それとも、七年前の流星だったのか。
「よりによって、三中の生徒だなんて」
警察を呼んだことを、彼は恨んでいるのかも知れない。
「やっかいな生徒がいる時期に実習……か」
学校には報告されたのだろうか。
仮に何も知らないとしたら、流星に報告義務はあるのだろうか。
カーテンを持ち上げ、外の景色をうかがう。
小学校の入学時に買い与えられ、以来、この部屋の特等席に据えられたままの学習机に座った。
「だめだ。顔もよく覚えていない」
名前も知らない。
ならば、報告することなど、できはしない。
「ああ、名前といえば……」
達人成瀬。
別れ際、また連絡すると言ったきり、流星のスマホに着信はない。
「別にいいけど。こっちからは別に話すこともないし」
ぶつぶつ言いながら、流星は身支度を整える。
大学から持ち込んだ資料に目を通しながら、次々にボディバッグに突っ込んでいく。
騒動の余波で、結局、実習先に連絡するのを忘れていた。
落ち着かない流星は、六時になるのを待ってから階下に下りていった。