表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/62

その時に聞こえたのは君の歌①

 これ知ってるよね、と鼻先にぐいと写真を突きつけられ、北島流星は少しだけ身をよじった。

「なんですか急に」

 高いステンドグラスを背に、まゆ根を寄せる。

「え、うそ。知らない? いやいや、知ってるよね?」

 無精ひげを生やした男は、流星の不審などものともせず、なおも写真を前へ前へと押し出してくる。

「いいえ。知りませんよ。あなたなんて」

 白いコーヒーカップをひと揺すりしてから、流星は言い放つ。

 先ほどからずっと、店内で大騒ぎしている連中のひとりだ。少しくらいトゲのある言い方をしても、許されるだろう。

 胸のすいた思いで、北島流星は残りのコーヒーをあおる。

 無精ひげの男は、仲間たちを振り返って制すると、流星の向かい側の席に、するりと腰を下ろしてきた。

「悪かったよ、うるさくして。なぁ、これさ、本当に知らね? 結構有名なやつなんだけど」

 懐っこい笑みを浮かべてから、男はコーヒーカップの脇にその写真を置いた。

「ずいぶん大きな猿ですね」

「ビッグフットだよ! ……いや、イエティとは違うって。こっちはロッキー山脈のほうだからさ」

「それじゃあ、そのロッキー山脈じゃないほうの住みかは、どこなんですか」

 その楽しげな様子に、思わずたずねてしまう。

 不精ひげの男は、唇の一端をつり上げ、「ヒマラヤだよ」とにやりと笑った。

 それから嬉々として、「生存率九十五%」だとか、「DNA鑑定」だかの話を続けた。

「ロシアとかさ、こう……そういうの、進んだ国なんかだと、専門の調査員とかごろごろいるらしいんだよなぁ」

 すげえよな、とアゴをしゃくりながら、男が笑う。

「でも、アメリカなんですよね、住みか」

「そうだよ! でも、研究者は世界じゅうにいるんだ」

 まるで、自分もそうだと言わんばかりに、無精ひげの男は豪快に笑い上げた。

 雑誌のページを自前で撮ったのだろう。室内の照明が写り込んで、一部が発光してしまっている。

 河川敷のような木々の生い茂った場所で振り返る、大型の類人猿の姿。

 全体的に、不鮮明。だが、どうにも目を離すことができない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ