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第41話 絶望の大氾濫と、迷い込んだゲスト達

ゴゴゴゴゴォォォォッ……!!


アビス九十九階層。永遠の闇に閉ざされたはずの深淵が今、地鳴りのような咆哮と、おびただしい数の赤い眼光によって埋め尽くされていた。


「くそっ! 第四防衛ライン突破されました! 敵の数が多すぎる!」

「ひるむな! 東雲主任を死守しろ! 結界符、全力展開!!」


血を吐くような護衛部隊の悲鳴が飛び交う中、東雲霞しののめかすみは、信じられないものを見る目で眼前の光景を見つめていた。


数百年ぶりの大氾濫スタンピード

 管理庁のレーダーで異常を察知し、あの規格外の建築士を保護するために特務部隊を率いて最下層へ転移してきた霞だったが――事態は彼女の最悪の想定すらも遥かに凌駕していた。


視界を埋め尽くすのは、一匹だけでも国家の危機指定を受けるAランク魔獣の群れ。さらにその奥からは、山のように巨大なSランク魔獣たちが、地形ごと粉砕しながらこちらへ津波のように押し寄せてきている。


(……終わった)


特級防護服に身を包んだ霞は、奥歯を強く噛み締めた。

 エリート探索者で構成された護衛部隊の魔力も、すでに底を突きかけている。あと数分もすれば、自分たちはこの魔物の波に呑み込まれ、骨の欠片すら残らずすり潰されるだろう。


(死ぬのは怖くない。でも……どうやってパズルみたいな歯車で『ダンプカー級のバカヂカラ』を出していたのか……あの異常なジェラートマシンの構造だけは、死ぬ前に本人を問い詰めておきたかった……!)


技術オタクとしての未練から、思わずギュッと目を閉じた、その時である。


『――ピピッ。生体反応(人間)ヲ複数検知。マスターニ映像ヲ送信シマス』


ウィィィィン、という場違いなほど軽いモーター音が、死地に響いた。

 霞がハッと目を開けると、そこには四つのプロペラを回し、カメラのレンズをこちらへ向けて浮かぶ、見慣れた『小型ドローン』の姿があった。


「あれは……ルミナさんの、配信ドローン!?」


一筋の希望の光。あの天才建築士の拠点が、すぐ近くにある証拠だ。

 しかし、同時に霞は絶望した。いくらあのログハウスの防衛網が完璧だとしても、この数万のスタンピード相手ではひとたまりもない。彼らもすぐに呑み込まれてしまう。


「逃げて……! あなた達だけでも、早く……!」


霞がドローンのマイクに向かって叫ぼうとした、次の瞬間。


『あー、あー。マイクテスト。聞こえるか、そっちの迷子の人たち』


ドローンの内蔵スピーカーから、ひどく間の抜けた、平和な男性の声が響き渡った。


「え……?」

『なんか外が騒がしいと思ったら、えらい数の魔物が歩いてきてるな。君たち、こんな場所でハイキングとは良い度胸してるじゃないか』

「ハ、ハイキング!? 違います、私たちはあなたを保護しに……って、見ればわかるでしょう!? スタンピードです! 早く逃げないと、あなたの家も……!」

『逃げる? なんで?』


ドローンの向こうの男――ケントは、心底不思議そうに首を傾げているようだった。


『あんな最高級の建築資材モンスターが、向こうから無料で歩いてきてくれてるんだぞ? 見逃す手はないだろ。俺は今から、あいつらを一匹残らず「収穫」するつもりだ』

「は……? 収、穫……?」


数万の災害級魔獣を前にして、この男は狂っているのか。

唖然とする霞をよそに、ドローンのカメラを通じて全世界に流れているコメント欄は、すでに大爆笑の渦に包まれていた。


『スタンピードを無料の宅配資材扱いwww』

『親方、向こうは国を滅ぼす気満々ですよ!』

『大災害を「収穫」とか言い始めたぞこのおっさん』


『ただ、ちょうど人手が足りなくて困ってたんだ。君たち、今からうちの現場の「日雇い作業員」として雇ってやるよ。とりあえず死なれたら労災が下りて面倒だから、今すぐ俺が指定する座標まで走れ!』


自分の異常性に全く気づいていないケントは、パンッと手を叩いた。


「日雇い……!? 労災!?」

『ほら走った走った! 命の保証はする。急な大掛かりな現場だが……これより、防衛要塞への【トランスフォーム】プロセスに移行する!』


その直後。

 霞たちの背後――鬱蒼とした森の奥から、ズシンッ! と大地を揺るがすような重低音が響いた。

 まるで巨大な重機が産声を上げたかのような、圧倒的な歯車の駆動音。

 霞は振り返り、そして、信じられない光景に目をひん剥いた。


森の木々をなぎ倒し、大地を割ってせり上がってきたのは……巨大な油圧ジャッキと鋼鉄の装甲に覆われた、山のような『超巨大防衛要塞』だったのである。

次回(第42話)は、本日【21:10】に更新予定です!


次回、家が要塞に変形トランスフォームするのは「建築の基礎」です!?


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