嘘つきの蛇と、檻の中の小鳥
1. 転校生、九条の罠
盛トワ工業に季節外れの転校生がやってきた。九条というその男は、モデルのような美形で物腰も柔らかく、瞬く間に学園の注目を集めた。
「君が瀬戸ゆう君? 獅子堂さんからいつも君の話を聞いてるよ。実はね……獅子堂さんの誕生日に、内緒で最高級の茶器をプレゼントしたいんだ。目利きとして、君に協力してほしくて」
獅子堂の誕生日はまだ先だが、ゆうは「獅子堂くんが喜んでくれるなら!」と九条の「優しそうな嘘」を疑いもせずに信じてしまった。
獅子堂が不在の放課後。九条に誘われ、足を踏み入れたのは不気味に静まり返った旧校舎の奥深く。
「……九条くん、ここ、暗くて怖いよ……? 帰ろう……?」
「いいんだよ、ゆう君。……ここはね、獅子堂の目も届かない、僕だけの『遊び場』なんだから」
九条の瞳が、獲物をいたぶる爬虫類のように冷たく光る。彼はゆうを冷たい壁に押し付け、震える首筋に細い指を這わせた。
「獅子堂の『宝物』、どんな声で鳴くのかな……。君を壊しちゃったら、あの傲慢な男、どんな顔で絶望するんだろうね?」
「ひっ、……やだ、離して……っ! ししどうくん、助けて……!!」
2. 獅子の咆哮
その頃、校門でゆうを待っていた獅子堂は、約束の時間を過ぎても現れないゆうに、かつてない胸騒ぎを覚えていた。
「阿久津!! 羽柴!! ゆうはどこだ!! 誰か見ていないのかッ!!」
獅子堂から放たれる殺気で校内のガラスが震える。そこへ、羽柴が真っ青な顔で駆け込んできた。
「……旧校舎です! 九条が『サプライズの相談』と称して、ゆう君を連れ去るのを見た奴が……っ!」
ドォォォォォンッ!!
旧校舎の重く錆びついた扉が、獅子堂の渾身の蹴り一発で瓦礫と化して吹き飛んだ。
「……九条。……その汚い手を、今すぐゆうから離せ。……さもなくば、この学校ごと貴様を地獄へ埋めるぞ」
暗闇の中に、地獄の業火を纏ったような獅子堂が立っていた。その瞳はもはや人間のものではなく、最愛を奪われかけた猛獣のそれだった。
3. 三人の「掃除」
九条は震える手を隠し、ゆうの首筋に爪を立てて強がる。「おっと、番長のお出ましだ。でも一歩でも動いたら、この子の可愛い顔に傷が——」
「……その言葉、一生後悔させてやるよ」
背後から、阿久津と羽柴が影のように音もなく現れた。
阿久津の重戦車のような拳が空気を裂いて九条の側面に迫り、羽柴の冷徹な足蹴りが九条の腕を鮮やかに払う。
「……ゆう君に触れたその指、一本ずつ……どうしてやろうか?」
羽柴の微笑みは、もはや悪魔の慈悲すら感じさせないほどに凍りついていた。
九条が圧倒的な戦力差に怯んだ隙に、獅子堂がゆうを力強く奪い返す。
「……ゆう。遅くなってすまん。……もう、大丈夫だ。俺が来た」
4. 震える子猫と、深い後悔
獅子堂は九条を阿久津たちに「処理」させると(※その後、九条はこの街から完全に消息を絶った)、ガタガタと震え、過呼吸気味のゆうを自分の大きな学ランの中に包み込んだ。
「……ごめんなさい、ししどうくん……っ。僕、喜ばせたいって思って……信じちゃって……怖かったぁ……っ」
「謝るな。俺の不徳だ。お前を一人にし、その優しさを利用させた俺が……万死に値する……っ」
獅子堂は、ゆうの涙で濡れた頬を、何度も何度も自分の頬に寄せ、壊れ物を慈しむように抱きしめた。
「……二度と、俺の視界から出さない。たとえお前に嫌われても、疎まれても構わない。……お前がこんな風に傷つくくらいなら、俺は一生、お前を檻に入れてでも閉じ込めておきたい……」
それは、愛ゆえの狂気と、二度と失いたくないという切実な願いだった。
ゆうは、獅子堂の激しく波打つ鼓動を聞きながら、「……もう、どこにも行かない……」と、彼の服をぎゅっと握りしめて泣き続けるのだった。




