嵐のあとの静寂(しじま)と、守り人たちの誓い
1. 避難所にて、小さな寝息
阿久津の自室(あるいは寮の個室)。
ついさっきまで過呼吸気味に泣きじゃくっていたゆうは、羽柴が淹れた温かいミルクを一口飲んだ後、糸が切れたように阿久津の腕の中で眠りについていた。
「……はぁ、やっと寝たか。よっぽど怖かったんだな」
阿久津が、自分のゴツい腕の中に収まる小さな体を、壊れ物を扱うようにベッドへ横たえる。
ゆうの目元は赤く腫れ、寝ている間も時折「……ひっ、ごめんなさい……」とうなされていた。
「無理もないよ。あの獅子堂さんの殺気、僕らでも冷や汗が出たもの。……ゆう君のキャパシティなんて、とっくに超えてたんだ」
羽柴が、ゆうの額に浮いた汗を優しく拭う。
安心感と極度の疲労。すやすやと眠るその顔は、ようやく「ただの男の子」に戻っていた。
「……よし。朝まで起きねぇな。……行くか、羽柴。あの『暴君』をぶん殴りに」
「ふふ、お手柔らかにね。でも、たっぷりとお説教は必要かな」
2. 獅子堂との対峙
二人が応接室に戻ると、そこには電灯もつけず、闇の中でソファーに深く沈み込む獅子堂がいた。
テーブルの上には、粉々に砕かれた茶碗。……自分の拳で叩き割ったのだろう、獅子堂の手からは血が滴っていた。
「……ゆうは、どうした」
地を這うような低い声。だが、そこには先ほどの傲慢さはなく、ただ底知れない後悔だけが滲んでいた。
「寝ましたよ。……あんたのせいで、泣き疲れてね」
阿久津がドカッと対面の席に座る。羽柴は無言で、獅子堂の傷口を消毒し始めた。
「……すまん。阿久津、羽柴。……お前たちが止めなければ、俺はあいつに一生消えない傷を負わせていた。……あいつを奪ったことを、感謝する」
最強の男が、部下の前で初めて深く頭を下げた。
3. 右腕と左腕の「教育」
「わかってるならいいんすよ。……頭、あんたの愛は重すぎるんだ。ゆう君は、あんたが点てる繊細な茶みたいなもんなんすよ。鉄パイプでかき混ぜるような真似しちゃ、壊れちまう」
阿久津の、柄にもない例え話。
「獅子堂さん。ゆう君はあなたを怖がっていますが、嫌いになったわけじゃない。……でも、明日あの子が起きた時、一番にあなたの顔を見て怯えたら、それこそ終わりですよ」
羽柴の言葉が、獅子堂の胸に突き刺さる。
「……ああ。明日の朝は、お前たちが飯を食わせてやれ。俺は……あいつが笑うまで、近づかん」
4. 見守る夜
結局、三人はその夜、一睡もせずに語り合った。
獅子堂は、自分がどれほどゆうに救われていたか。阿久津と羽柴は、自分たちがどれほどゆうを大切に思っているか。
「……あいつは、このクソみたいな学校に降ってきた、唯一の光なんだ」
獅子堂が、窓の外の夜空を見上げて呟く。
「そうっすね。……だからこそ、俺ら三人で守り抜かなきゃならない『宝』なんすよ」
翌朝、小鳥のさえずりで目を覚ましたゆうの枕元には、阿久津が不器用にお供え(?)した山盛りのゼリーと、羽柴が書いた「おはよう」のメモ。
そして、部屋のドアの外には、一晩中一歩も動かずに立ち尽くし、ゆうが起きる気配を静かに待っていた獅子堂の影があった——。




