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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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『勇者召喚システムに対するログ、及びエラー報告』

作者: しぃ太郎

※本作は「勇者召喚」という仕組みそのものを扱った物語です。

残酷描写・倫理的なテーマを含みます(R15)


 大勢の魔術師が集まり、呪文を唱えている。


「古臭い。魔術師の名が泣くね」


 ぼそり、と隣で兄が呟いた。

 いつもなら注意するはずが、この空気に圧倒されて彼の裾をギュッと握った。


 魔法陣が一際輝き、中央に人影が現れた。


「勇者様!」


 周りの大人たちは一斉に膝まづく。


「え……なにこれ?勇者?異世界転移?え、マジで?」


 説明するために、魔術師の一人が近づいていく。


「うわーー!それ、ローブってやつ?初めて見た!なんの意味があるの?」


 彼は慣れた調子でこの世界と勇者の話をする。

 周りも、この風変わりな勇者に驚きもしない。

「勇者」はもっと大人だと思っていたのに。


「すげーー!猫耳幼女??しかも美幼女??凄い!コスプレじゃないよね?かわいい」

「え、え……」


 勇者は一目散に私に駆け寄ってきた。

 隣で兄が、頭を抱えて溜め息をついている。珍しい事だった。


 私は、彼のお世話係に任命された。

 ――8歳で。


 ◇◇◇


「レミちゃん。俺、もうすぐ誕生日なんだよね。21歳になるんだ。向こうではさ、ようやく成人して一年目」

「21?16歳くらいかと思った」


 勇者――ユウは私の頭をグシャグシャと撫でた。


「この猫耳幼女は!日本人は童顔なの!……カメラでもあればなぁ」


 彼は視線を遠くへ投げた。


「カメラ?」

「原理はよくわからないけどな……。うーーん、大昔の発明では光を焼き付けて?……とにかく、映像を残せるものなの」

「そうなんだ。作ってみようか」


 兄と相談したら作れそうだ。私は軽い口調で言ったが――。


「え、本当に!?レミちゃんは凄いな」

「そ、そんな事は」


 満面の笑顔で褒められてしまった。

 幼い私は、彼の孤独も、その恐怖も気づかなかった。


 ――王城の地下。

「勇者」が潜る扉がある。


 その先の「何か」を成して帰還するという。

 私は、扉の前で手を振った。

 誰もが危険がないと言っていた。

 その言葉を真に受けて。


「じゃあ、行ってくるな!」


 大勢が見守る中、ユウはそのまま扉に入っていった。




 ユウが帰ってこない。

 一日目。

 とにかく、異様なあの扉の先で何が起きているのか不安だった。

 二日目。

 ユウが心配で何度も祈った。


 三日目。

 兄に聞いても、答えてくれない。

 でも、何かを隠しているのは確実だった。


 四日目。

 ため息をつきながら、兄は扉まで連れて行ってくれた。

 中には――。


 中には、ユウがいつも身につけていた「腕時計」というものが転がっていた。床には、赤いもの。


 魔術師たちは淡々と片付けていく。

 そういえば。


「……お兄様。ユウが持っていたもの。前に研究室で、全く同じ物をみました……。ほんとうにおなじもの、なんですか」


「こういうシステムなんだよ。俺自身はあまりにも非効率に思えるけどな。これは、そういうものだと思ったほうがいい」


 私は、そっとその時計を拾った。

 ポケットに入れる。


 そして、夜。

 ユウと一緒に撮った「写真」の上に「腕時計」を乗せた。


 写真の中の私と彼は、

 何も知らずに笑っていた。


 ポタリ。と水滴が落ちた。

 いつの間にか溢れて止まらなかった。

 抱えきれない感情が、一晩中、机を濡らし続けた。


 ◇◇◇


 ――13歳。

 五年に一回の勇者召喚の儀式。

 兄の補助として、私は参加していた。


 兄は、次期魔当主として儀式を主導していた。


「そう睨むなよ。また、彼に会えるぞ」

「それは……」


 古い魔法陣が光りだした。

 いつかの見たそのままの再現された光景。

 光が収まると――。


「え……なにこれ?勇者?異世界転移?え、マジで?」

 懐かしい声が聞こえた。


 一瞬、彼と目が合う。

 状況を説明している魔術師を無視して、こちらを見ているユウ。

 私は視線をそらした。 

 見ていられなかった。

 しかし――。


 彼は、また、真っ直ぐに私の所に走ってきた。

 私を見て、同じ事を言う。

 同じ自己紹介をして、私を側に置きたがる彼の希望通りに、また世話役として選ばれた。



「ここって、違和感が凄いね」

「そうかな」

 前回にはない会話だった。


「実際のところ、俺は剣すら握らずに、ただ役目を果たす時を待つだけだ。……まぁ、レミちゃんに言っても仕方ないか」

「……ごめんね。役に立てなくて……」

「せめてカメラでもあればなぁ。俺、もうすぐ誕生日でさ」

「……あるよ。これ、あげる」


 これ以上は耐えられなかった。

 口元を食いしばり、必死に言葉を抑えつける。

 ユウに、以前作ったカメラを押し付けて部屋から逃げた。


 ――それを見た彼が、どう感じるかも考えもしない行動だった。

 

「……カメラ?なんでこの世界に」

 せめて、彼のこの呟きだけでも、聞いてあげられていたら良かった。



 勇者が扉を開ける当日。


「レミちゃん。せっかくだし一緒に撮ろうか」

「……うん」


 カメラの前に二人で並ぶ。

 ボタンを押す音がした。


「なんかさ。前に話した事、整理できた気がするよ。みんな、俺を知りすぎてるね」

「……。」

「特にレミちゃん。君は、俺を知ってる。そうでしょ?」


 喉が貼り付いて声が出せない。

 そんな私に、ユウは手を振って。

 そのまま扉をくぐって行った。


 手には、残されたカメラを握りしめている私。

 それを、地面に置く。


 ゆっくりと息を整えた。

 そして一拍の後。


 私は閉じる直前の扉に滑り込んだ。

 後ろで静止の声がするが、全部振り切ってユウの元へ向かった。


「レミちゃん?」

「ユウ!」


 彼は部屋の中央。

 魔法陣の上で、驚いた声を出した。

 彼には珍しく笑顔を浮かべてもいない。


「私もつきあうよ。やっぱり無理だった。だって、ユウなんだもん。あの時と同じ、ユウなんだもん」


 彼は小さく呟いた。

 そういうことか……と。


「あーー……。なるほど。ありがたいけど、子どもを道連れにする悪い大人にはなりたくないな」


 眉を下げて苦笑いをする。

 魔導陣が発動する兆候が現れてきた。

 私は覚悟を決めて、ユウにしがみつく。


「ごめんね。レミちゃん、これだけは無理かな?」


 次の瞬間、私は彼に思い切り突き飛ばされ。

 部屋の隅まで転がっていった。


 発動してしまった。

 これではもう近づけない。


 物凄く長い時間が経った気がする……。

 彼のうめき声が。抑えきれなかった声が、耳から離れない。


 ようやく光が収まり、倒れた彼に近づく。


「ユウ」


 まだ意識があるのかもわからない。

 それでも私は、彼の体温が消えていく瞬間まで、抱きしめ続けた。


 ◇◇◇


 ――ユウ視点。


 いつも通りの日だった。

 バイトに遅れないように早足で駅まで向かう途中。

 急に足元が光り、次の瞬間には暗くて広い空間に座っていた。


「勇者様」


 大勢の人が一斉にひざまずく。

 ――勇者様?

 周囲を見ると、みな喜んでいる様子も見られない。

 淡々と説明を受ける。

 その瞳には、尊敬のような熱も、怯えた色も見えなかった。

 なんだ?


「え、これって噂の召喚ってやつ?マジで?」


 軽口を叩いてみても、反応は変わらない。

 明らかに、おかしい。


 普通なら、何かしらの反応があるはずだ。

『勇者』にがっかりしてくれてもよかった。

 驚いてくれてもよかった。

 しかし、当たり前のように受け止められる。


 違和感が積み重なる。


 その時、一人の女性と視線があった。

 こちらを注視している。


 しかし、彼女だけは「俺」を見てくれている。そんな気がした。彼女は俺の世話役に立候補したらしい。


 通り過ぎるとき、彼女の隣の男性が低い声で告げた。

 同じ猫耳だ。血縁か?


「これ以上、レミに深入りするな」

「は?」


 ――深入りもなにも。まだ数回しか話していない。

 会ったばかりだ。


 ◇◇◇


「レミちゃん、この世界に魔王とかいるの?」

「魔王?ユウの世界にはそんな存在がいたの?」


 レミは首を傾げた。

 この世界の「勇者」。何をする存在なんだ?


「俺の世界にもいなかった。でも、レミちゃんみたいに獣人ってやつも居なかったよ」

「だから、あんなに喜んでたんだね」


 彼女はクスッと笑った。彼女の耳がぴくぴくと動いている。


(あんなに喜んでいた、ね)


 まただ。彼女に対する違和感。

 最初からの知人のように話をする。


 ふとよぎる面影。説明が出来ない胸の詰まり。

 夢の中で最後に自分を抱えて泣いている少女が、レミに見える。

 でも年齢が合わない。


 最初から距離が近いレミ。

 彼女が知らない話題をわざと振ってみる。


「これさ。お気に入りなんだよね」


 最新の腕時計を掲げる。一番新しいモデルだった。


「うん。よく似合ってるよ」


 彼女は驚かなかった。

 当たり前のように続く会話。


「俺って何歳だと思う?」

「ユウは大人だよ。童顔を気にしてるの?」


 軽い口調で会話を続ける。


「いや?ただの問題。当たったら勝ち。負けた方が一つだけ言うことを聞くっていうのは?」

「いいよ。約束だからね?――20歳」

「ハズレ。21歳」

「誕生日までまだあるんでしょ。卑怯もの」


 やっぱり、彼女は俺を知っている。

 疑いが確信に変わった。


 彼女の留守を狙って部屋を漁った。

 何を探しているかもわからない。

 何が証拠になるのかすら判断が出来ない。


 そして――。

 見つけてしまった。

 今、俺が付けている、同じ型の腕時計を。


 今しているのと同じ時計だ。しかし、壊れているらしい。ヒビが入り、すでに止まっている。

 かなり古そうだった。あちらこちらに傷がある。


 ――こびりついた赤黒いもの。


 何を信じればいいのか。

 全く見当もつかなかった。


 ◇◇◇


「ユウ、何か悩んでる?」

「いや……」


 顔を上げて、彼女と視線を合わせる事が怖かった。

 コトンと何かを机に置いた。


「これは……」

「カメラだよ。一緒に撮ろう!今なら、ちゃんとユウにつり合うよ」


 カメラ。俺の世界と同じ名前の、同じ機能のもの。

 見た目もそっくりだった。


 さらに。


(――今なら、俺につり合う?)


「いいよ。それで、これはどうやって使うものなの?」

「え?ここのボタンを押すだけじゃない。どうしたの?」

「いや。この世界にも便利な物がいっぱいあるなぁって思って。こういうの沢山あるの?」

「ううん。これは一個だけしかないよ。特別に作ったんだ」


 彼女は懐かしそうな顔でカメラを撫でた。


「じゃあ、撮ろうか」

「うん!……えへへ。もっと近づいてもいい?」


 無邪気に聞いてくる。

 その瞳には悪意は一つも感じなかった。


 だが、違和感は積み重なっていく――。


 ◇◇◇


 今夜、勇者の仕事があるという。


 何をするのか、どうすればいいのか。

 誰も質問に答えてくれなかった。


 ――逃げ場がない。

 仕方なく、周囲を魔術師に囲まれながら移動する。

 隣には、ピッタリとレミがついてきていた。


 王城の地下だという、その扉の前で立ち止まった。

 重々しい扉。

 それを二人がかりで開けていく。

 中は薄暗く、よく見えなかった。


「じゃあ、行ってくるよ」


 言葉を振り絞って、前に進む。足が震える。


「ユウ。今回は、私の好きにするからね……」


 後ろから、静かな声が聞こえた。

 レミ。最後まで信じきれなかった。


 彼女の全てが信頼できず……でも心の何処かでは受け入れていた。不思議な少女。


 扉をくぐり、ポケットから小型のナイフを取り出す。


 何か書こう壁を触ったら、そこには日本語が刻まれていた。


『ユウ。正、正、正……』

 日本人らしく、『正』の字で数を残していた痕跡。


「……なんだこれ。なんなんだ。俺?俺の字か?」


 震える手で、そこに棒を一つ足す。


 その時。


「ユウ!今回は私も一緒にいく……!」

「レミ?」


 それでも、飛び込んできたレミを見て安心する。彼女は敵じゃなかった。

 そして、それを見越していたのか……。


「――駄目だ」


 彼女の兄が突然目の前に現れ――、

 レミを気絶させて抱き上げた。そのまま、背を向けて扉に向かって歩いて行く。


「……俺は、毎回ここで死んでるのか?」

「どうせ、お前は忘れるよ」


 それが答えだった。

 気を失ったレミを抱えた彼が退出する。


 ――バタン。


 扉が静かに閉まった。


 ◇◇◇


 23歳になった。

 もう、彼の歳を追い越した。


 今は儀式の最中だった。

 また、国のためにユウを呼び出すのだろう。


 何度も失敗した記憶が脳裏をよぎる。

 今回は、ユウに真実を伝える。

 そして彼に選択してもらおう。


 お馴染みの召喚陣で、彼が呼ばれる。


 久しぶりに見た、彼の姿。


 ふと気づいた。

 いつも軽口をたたいて余裕そうだったのに。

 ずっと年上だったから気づかなかった違和感。




 視線が何度も彷徨っている。

 軽口を言っている間も、かすかに指が震えていた。


 ――そうだったんだ。

 ユウは強くなかった。

 明るくて、能天気でもなかった。


 私は、ゆっくりと近づいて彼に話しかけた。


「あなたは勇者じゃない。安心して」


 彼はほっと息をついたようだった。


 この場ではこれ以上は発言できなかった。

 それでも、ユウの信頼を少しは得られたようだった。


 ◇◇◇


 ある時は、猫耳の幼い子供が癒してくれた。

 別の時は、少し成長した少女が泣いて、俺を抱き締めてくれた。

 毎回、言葉が少し違う。


 また、泣いている。

 俺の知らないはずの場所で。

 その面影が、重なる女性。


 手を伸ばしたくなって――。

 つい、猫耳を触ってしまった。


「……!」

「うわ、ごめん!もしかして、あれなの?よくある設定で獣人の耳は……」


 ――殴って黙られた。


 ◇◇◇



 私は咳払いして、話し出した。


「正直に言うわ。あなたは『生贄』として呼ばれているの。それも……」


 あまりにも酷い話に、口ごもってしまう。

 そこに、ユウの抑揚の強い声がかけられた。


「夢でさ。よく、猫耳の女の子が出てくるんだけど……君だよね?」

「……さぁ?夢の話は分からないけれど。真剣に聞いて、お願い」

 心臓が胸を打つ音が大きい。

 期待と恐怖と、その他がない混ぜになって私を混乱させる。


「俺、馬鹿だからさ。人を見る目だけはあるんだ。いいよ、信じる」

 ユウは、そう言って笑った。

 ただ、それだけの理由。とても彼らしいと感じた。


「そっか。じゃあ、1回目から信用されてたのね……」


 その事実を知って。

 少し、前かがみになってしまう。


「あなたを犠牲にする、この国から逃がしたいの」

「犠牲……か。なるほどなぁ」

「驚かないの?」


 彼のあまりの落ち着きぶりに驚いて聞き返す。

 少し考える素振りをして。

 しかし彼は、やはり観察力がある答えを導き出した。


「普通に考えて、この国って勇者なんていらないじゃん?だから、そういうことかなって」


 きっと、いつも疑問に思っていても、あの扉をくぐり続けてきたのだろう。


「勇者は、安定的なエネルギー源として召喚されているわ」

「へぇ。毎回、魔力装置に組み込むために?」


 それを伝えても彼は驚かなかった。


「ごめんなさい」

「君が謝ることじゃないし。この国、終わってんな」

「え?」

「たった一人に国中を便利にさせるだって?」


 ゆうは肩をすくめた。


「俺の世界では、不便だからこそ凄い人間が出てきたけどな」


 ――バーーンっ!

 扉が思い切り音を立てて開かれた。

 現れた人物を見て溜息が出る。


「そう!僕もそう思うんだよ」

「……お兄様。少し待っててくださいとあれほど言ったのに」

「誰?」


 頬を掻きながら首をひねるユウに紹介する。


「すみません、私の兄です。これでも一応、魔塔主で……」

「うわーー!魔塔主!?しかも若い!アニメでしか存在しないと思ってた」


「?」


 兄と二人で首を傾げる。



「いいねぇ!僕も今の保守的な国に不満だらけだった!何だあの古臭い魔法陣は!新しい論文もいつも却下しやがって――」


 何かを思い出しているのか、やたらと熱が入っている。


「お兄様。煩い」

「はぁ。妹は冷たい。しかし、来るべくして来た瞬間だな。俺の代でっていうのも運命的だ。明日は雷が降るぞ。いや、炎のほうがいいかな?」


 しかし、私たち全員は目を合わせた。


「じゃあ」

「あぁ、老人どもの古臭い風習を壊してやるよ」


 兄の実力は本物だった。

 そして、保守的な考えを嫌う異端児だ。


「じゃ、勇者ゆう。妹をよろしくな!」


 兄が親指を立てる。

 ユウがそれを同じ動作で返し、口元を少し歪ませた。


「じゃあ、俺は異世界人として――この世界に宿題を出そうかな?」


 何をする気かは知らないが……。

 楽しそうなユウを見るのは嬉しかった。


 こっそりと下を向いて、袖で顔を拭った。


 ◇◇◇


 兄は今後の動き方を考えると、退出していった。


 二人きりになった部屋の沈黙に耐えられなくて。

 私は、無意識に沢山話をしていた。


「ユウはね。最初は、優しいお兄さんだった。大好きだったんだよ」

「俺が初恋なんてね、いいのかな」


 幼い頃の思い出を、少しずつ彼に伝えた。


「毎回、同じ自己紹介してくれたけどね……。初めましてなんて言いたくなかった」


 記憶がないユウに、また再会した話も。

 一緒について行く覚悟をしていたが失敗したことも。


「目の前で助けられなかった時は……」

「いいよ。大丈夫」


 ユウはそっと抱き締めて、背中を優しく叩いた。


「私、年上になっちゃったんだ。それでもいい?」

「こんなに一途に思ってくれる可愛い子を、許せないはずがないよ。……一緒に逃げてくれる?」


「……うん、もちろん!」


 ◇◇◇



 外の国へ行っても、そこまで不自由ではなかった。

 結局は、あの恩恵を受けていたのは上の階級の人間だったんだろう。

 人は薪で火を焚き、井戸で水を汲む。商人は新しい物を売りだし、街の活気は何一つ失っていなかった。


 でも、たまにレミの人生を奪ってしまった気がする。

 初めて会ったのは8歳の頃だという。

 それは、幼い少女にとっては呪いではなかったか。


 新居に引っ越して数日。

 荷物を片付けていると、ヒラヒラと落ちてきた紙があった。


 やばい。レミの荷物だ。

 慌てて拾うと――。


 四枚の写真だった。

 一枚目は、幼い女の子と俺が笑っている。

 二枚目は、少し成長した女の子はつらそうに笑顔を作っている。

 三枚目は、俺が笑えていなかった。

 四枚目は、この前撮ったやつだった。二人とも一番の笑顔だった。


 過去は思い出せない。

 彼女だけが背負っている物も多いだろう。


 でも、この笑顔を嘘だとは思わない。俺は、俺なりに進むしかない。

 そう思って、胸に写真を抱き、空を仰いだ。

 異世界でも、空は真っ青だった。


 ◇◇◇


 突然と勇者が消えた。

 魔術師は大騒ぎになった。

 国も、貴族も巻き込んでの大混乱だった。


 そこで届けられた一枚の置き手紙。



「宿題」


 誰が犠牲になりますか?

 勇者が「特別」ではありません。

 魔力が高い人を、5年毎に選びますか?

 国が「便利さの代償」を考えざるを得ないなら、犠牲は増え続けるでしょう。


 王族

 貴族

 魔術師

 あるいは「次は誰?」


 ◇◇◇


「まだ魔塔主は有用だ。……次の魔力源を探し、スペアに取っておいてもいいだろう」


「異議なし」


 ―――――――――――――


「勇者召喚儀式について」


 本儀式は、魔力供給を安定させるための装置として機能している。

 召喚対象は同一個体であり、時間軸の影響は確認されていない。

 対象は魔力枯渇後に死亡するが、次回召喚時には生存状態で確認されるため、

 継続運用に支障はない。

 以上の理由から、本件は倫理的問題よりも、

 運用効率の観点で判断されるべきである。



 机に置いてある紙の束。

 その一番上の【次の被験者】の項目がある。


 誰かの手が、静かにペンを走らせた。



 【HAPPY END】


 ――――――――――――――――――――――――――――


 【IF】


 私は引き出しを空けた。

 数えるのも大変な程の赤黒い時計の数。

 全て、彼の痕跡だった。


 その一つを手に取る。

 鉄臭い香り。

 これが彼の証だ。


 また会える。変わらない彼にまた会える。

 私の大好きなヒロは永遠に変わらない。

 なんて完璧な存在なんだろう。


 また、送り出して。

 また召喚して。

 そして送り出す。


 ――ああ。

 それが私の祈りだ。


「ユウ。またね」


 目の前の書類、その一項目。


【勇者召喚の候補】

その下の空欄に、ペンを入れる。

『同個体で継続』



 【レミBAD END】




 

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