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Blueto-th  作者: ふんころ
思い出話、その1
1/3

Bluetooth

――物凄く、面食いな子だった。


これは誇張でも何でもなくて、事実としてそうだった。

テレビに映る俳優、雑誌のモデル、街ですれ違う知らない誰か。背が高いとか、顔立ちが整っているとか、そういう要素を見つけるたびに、あいつは驚くほど正直に反応した。

「え、今の人かっこよくない?」

そんな軽い一言を、何度聞いたかわからない。


それを聞くたびに、俺は曖昧に笑って誤魔化した。

胸の奥がちくりと痛むのを、なかったことにするために。


だって仕方ないだろ。

俺は別に、目立つ顔をしているわけでも、背が高いわけでもない。運動部ではあるけど、エースでもスターでもなくて、クラスの中心にいるタイプでもない。

良く言えば無難、悪く言えば印象に残らない。

自己紹介で終わる人間だ。


それでも、俺はずっと一緒にいた。

小学校、中学校、高校と、学年が変わっても、クラスが違っても、何故か会話が途切れなかった。

隣の席になれば自然に話し、ならなくても廊下ですれ違えば手を挙げる。

特別な関係じゃない。

でも、赤の他人とも違う。


そういう距離感。


一番厄介なやつだ。


あいつはよく恋の話を俺にした。

「ねえ、今度さ、〇組の△△君と話したんだけどさ」

そんなふうに始まる話を、俺は何度も聞いた。


相槌を打ちながら、内心では必死だった。

心臓の音がうるさくて、耳に入る言葉が遅れて届く。

それでも、俺はちゃんと聞くフリをした。

聞いている“友達”でいなければ、ここに居られない気がしたから。


たまに、期待してしまう瞬間もあった。

あいつが恋の相談をしてきたあとで、「でもさ」と続けて、

「やっぱり違うかも」

なんて言うとき。


そのたびに、胸の奥で何かが少しだけ浮き上がる。

もしかして、って。

馬鹿みたいに。


でも現実は、いつもその先にあった。

「あ、でもやっぱ顔は大事だよね!あの人とかかっこいいなぁー!きゃー!」

その一言で、全部が地面に叩き落とされる。


分かってた。

分かってたんだ。


あいつは悪くない。

正直なだけだ。

好みを隠さず、好きなものを好きと言うだけ。


悪いのは俺だ。

そんな相手を好きになって、期待して、勝手に傷ついてる。


告白しようと思ったのは、ほんの出来心だったのかもしれない。

高校最後の年。

このまま何も言わずに終わるのが、怖くなった。


失うのが怖いくせに、何も変わらないまま時間だけが過ぎていくのが、もっと怖かった。


でも、告白する前に――

その必要はなくなった。


あいつには、もう好きな人ができていた。


しかも、それを知ったのは、あいつの口からじゃない。

友達経由の、噂話。

「〇〇、△△君といい感じらしいよ」


名前を聞いた瞬間、全部理解した。

高身長、爽やか、運動神経抜群。

絵に描いたような“好きそうなタイプ”。


ああ、負けたなって思った。

戦ってすらいないのに。


だから今、俺は走ってる。

音楽を最大音量にして、考えないようにして、それでも浮かんでくる顔を振り払うために。


青い空はやけに澄んでいて、白い雲は呑気に流れている。

世界は何も変わらない。

変わったのは、俺の中だけだ。


ワイヤレスイヤホンが、耳から少しずれた。

音楽が途切れ、代わりに自分の荒い呼吸が聞こえる。


――Bluetooth。

繋がっているようで、実際には触れられない。

距離が少しでも離れれば、簡単に切れてしまう。


俺とあいつの関係も、きっと最初からそうだった。


繋がっている“つもり”だっただけ。

最初から、恋愛には対応していない規格だったんだ。


だから俺は、走る。

失恋した事実を、告白すらできなかった自分を、

全部置き去りにするみたいに。


けれど、どれだけ走っても、

胸の奥に残った青い痛みだけは、

どうしても、切断できなかった。












試合にも勝負にもならない俺の

ひと時の幸せの物語。

今更になって必要はないことなんだけど、つい話したくなってしまったので

俺の話を少しずつ話していこうと思う。

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