九条葉月は異世界転移の謎を突き止めたい。
──私たちの学校、春日坂高校で同時に二人の生徒が行方不明となった。
一人目は二年の男子生徒〝Y.N〟君。二人目は同じく二年の女子生徒〝M.H〟さん。
両名とも普段から素行が良い生徒であったため、家出等は考えられず、何らかの事故、事件に巻き込まれた可能性を視野に入れての捜索が開始された。
警察はもちろん世間でも話題となった二人の失踪事件。未だ何の手掛かりもなく未解決のままである。
それから──これは不確定かつ人知れず聞いた情報なのだけれど、何でも行方不明になった当日、あの二人は大鏡の前にいたとの噂がまことしやかに生徒の間で広がっていた。
それこそ、私は──。
◇◇◇
ある雨の日の放課後。
春日坂高校、由緒正しき旧校舎二階、備品庫……いいえ、ミステリー研究会室にて。
私、九条葉月は雨が好きだ。
陰気なジメジメとした小雨は不穏な事件のシチュエーションにもってこいだし、特に今みたいな激しい雨なんてもうテンションが爆上げである。あのホコリ塗れの古い窓をガタガタ揺らす感じなんて、もう最高に武者震いが──ってことで、私は窓の外を眺めながら。
「──フッ。私たちの門出に空が泣いているみたいだわ……皮肉なものね」
「ですね。それなら一人でさっさとあの世にでもどこにでも旅立っちゃってください。それと同好会(ミス研)の衰退はどうかご心配なく。既に生徒会から解散命令が通達されていますので」
「え、そうなの!? じゃなくて、前にミス研で調査した学校の怪談があるでしょ? それがなんとねぇ~我が研究室に──」
すると我がミス研の座敷わらし……ゲフンゲフン、副会長こと月島礼は、パタンと読んでいた分厚い本を閉じた。そして部屋の片隅に立て掛けてある物体を見ながら目を細める。
「……センパイ、まさかと思いますが、妙な噂の真相を調べるためだけに新校舎からわざわざその粗大ゴミをここに持ち込んでいませんよね?」
「そ、粗大ゴミ? まままま、まさか〜、そそ、そんな訳ないじゃない……でで、でも……」
「でも?」
「……ほ、ほら、〝例の件〟であの〝大鏡〟が生徒の間で話題持ち切りになっちゃったでしょ? だから先生たちの間でも問題になってて……だだ、だったらミス研でその曰く付き鏡を一時お預かりします、って提案したら、本当に預かることになっちゃって〜、ええっと……えへ、えへへへ」
「ホント邪魔なのですぐに返してきてください、それとセンパイ、その辺にたくさん転がっているガラクタも早く処分してきてください、目障りです」
「そ、そんな〜、このクマの縫いぐるみなんか……ええっと、その、ブサカワじゃない、ちょっと夜な夜な動き出すだけだし、そ、それにこれなんか正真正銘の藁人形よ、そして今なら元持ち主の恨みがこもった五寸釘3本セットをサービスしちゃいます♡」
「うるさいです、さっさと処分しろ」
「はい」
と、取りあえず、礼の目が本気だったので、段ボールにいそいそと被ると人格が豹変する(という噂の)狐ちゃんのお面やら妖刀村正かも知れない日本刀(プラスティク製)やらその他諸々を丁寧に収納する。結構苦労して集めたんだけどな〜。
それで。
「ええっと、ね……この大鏡は結構重宝すると思うの、ほ、ほらここには鏡がないでしょ、だ、だから別に置いといてもいいんじゃない?」
「…………」
「あ、あのぉ礼?」
「…………九条センパイ、もう心底面倒くさいので特別に許可します。だから今は黙っててください、読書の邪魔です」
「ええっと……ごめんなさい」
ということで、誠に遺憾ながらもここは副会長の意思を尊重して、私は私で例の件──生徒失踪事件が本当にこの大鏡──出処が不明のアンティーク鏡と関わっているのかを独自に調査することにした。
とはいえ、まだ真相が定かではないので、今は無闇に鏡に触れるのは得策ではない。
消息不明な生徒二人。
Y.Nこと──南雲悠一。
M.Hこと──柊美空。
その両名について、今から詳しく身辺調査をしてみることにしよう。
そしてそれこそ、空想世界だった異世界転移の真偽を──、