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九条葉月は告白されたい。

「──ねぇ、知って、」

「知りません」

「ポリポリ…………、校舎四階にある大鏡の前で男女が告白すると──」

「どうでもいいです。興味ありません」

「ポリッ……、二人とも鏡に吸い込まれて異世界に迷い込んじゃうみたい……。あっ!?」

「ポリポリポリ……、そうですか。そのまま、ピーすればいいと思います」

「ちょっとひどくない!?」


 ある曇り空の放課後。


 とある高校の由緒正しき伝統ある旧校舎二階のミステリー研究室、略してミス研室にて。会長の私、九条葉月くじょうはづきがポリポリとたしなむじゃ◯りこサラダ味を、サクッとカップごと奪い去りながら副会長のれいが言う。さすがにもう少し言葉をオブラートに包んだほうがいいと思うよ? って、私のじゃ◯りこ……。


「うーん。でも実際はどうなんだろね──」


 じゃ◯りこは礼に強奪されてしまったのでカバンから取りだしたキッ◯カット(イチゴ味)をサクサク頬張りつつ、私は天井を仰ぐ。



 学校の七不思議。


 それは大抵の小中学校──高校に置いて噂される怪綺談のたぐいだ。理科室の人体模型が夜な夜な校舎を徘徊するとか、美術室の肖像画が笑うとか……まぁ、うちの学校でも似たような話がチラホラと、大体が同じような怪談話──というか与太話だったりするので、まぁ私としては、特に興味を抱かなかったのだけど……、ええっと、ここ最近うちの学校に新たに加わった七不思議の一つが何だか変なんだよね。


 噂の出どころというか、元ネタが全くもって不明だし──。


「うーん。異世界に通じる鏡かぁ……」


 これは一度検証するしかないかな? と思い部屋の隅っこで私から搾取したじゃが◯こをリスのようにポリポリ頬張っている礼を見る。


「ねぇ〜、礼。これか、」

「嫌です」


 ふむ。やはり無理か……。


 だがしかし、今回のミッションは副会長の協力が必要不可欠だ。となるとここは最終兵器を投入すべきだよね。


「ふふん。じゃあこれならどうっ!」


 ジャジャーンと取り出したのは、ネット通販で仕入れたご当地限定ポ◯キー◯張メロン味である。通常の1.5倍サイズのポ◯キーに濃厚なメロンチョコクリームをたっぷりコーティングした至高の一品。これにはさすがの礼も本のページをめくる指がピタリと止まった。


「し、仕方ないですね。今回は特別に私も同行するとしましょう」


(よし、勝った!) 


 ということで、我がミス研のツートップ、会長副会長自ら〝異世界に通じる大鏡〟の調査に向かうのであった。


 

 我が学びやである新校舎は、我が拠点のボロボロ木造建て旧校舎とは違い、立派な造りの近代建物となっており、一階から三階まで各学年の真新しい教室が連なって、私たちがこれから向かう四階棟は、設備が充実した特別教室やら準備室やらで大体が占めている。


 普段から移動教室で度々足を運ぶことが多い校舎四階ではあるが、放課後になると特に用もなければ、とりわけ訪れる機会はない。ここには文化系の部室も多々あるわけだが、今は私と礼以外の姿が皆無であった。


 新校舎に空きが無いって事で、わざわざ活動の場を旧校舎に追いやられた我らミス研の立場はどうなの? とか感慨ぶりつつも、私たちは階段の踊り場から廊下へと進む。


 そして、その明かりの乏しい長い廊下を抜けた先にそれはあった。


「ええっと……、この姿見の鏡、だよね?」

「…………」

「……ちょっと礼、聞いてる? センパイ無視されると泣いちゃうよ?」

「しっかり聞こえてます。それとここで泣かれるとほんとウザいのでヤメて下さい」


 とまあ、ここに来てまでしれっと毒舌を吐く副会長のことは、今後ゆっくりと論破することにして、私は正面の壁に立て掛けてある古い大鏡と改めて向き合ってみる。


 鏡の中には、セーラー服姿の私がひとり映っていた。まぁ鏡だから当然だけどね。でも周りが薄暗いので、鏡に映るその姿は我が身ながら少し不気味だ。ちなみに礼なんて私の背後で幽霊さながらボォーと佇んでいるので、何も知らずに見たら卒倒ものである。


「結構年季が入った鏡だよね……」


 見た目こそは大きいだけの小汚い鏡なんだけれど、よくよく見てみればかなり立派な装飾をしたどこか西洋アンティークを思わせる作りの鏡だ。いい意味で学校の備品とは思えない。誰かの寄贈品? というか、こんなの前からあったっけ?


「──では、検証を始めるとしますか!」


 スマホで時間を確認すると只今の時刻は16時40分を指していた。私は4分後の16時44分44秒にアラームをセットする。このような怪異の検証するには何事もゾロ目に限るからね。午前4時と午後4時との差なんて些細な違いってことで。


「それじゃ礼、アラームが鳴ったら私に愛の告白をしてね」

「は? 普通に嫌ですけど」

「いやいや、もちろん副会長が私のことを大好きだってことは最初から気づいてるつもり……うんうん、わかってる、そんなふうに恥ずかしがらないで頂戴。それにね、ウチ……私としては百合……ゲフンゲフン、女の子どおしの恋愛は理解があるつもり……だよ。今だったら礼の気持ちを真っ向から受け入れられると思うの。だからね、ハアハア、副会長、ほらほら素直になって、ハアハア、私に接吻、ぽわぁ、思い切って愛の告白をしましょう!」

「嫌です嫌です嫌ですっ! ち、近寄らないで近寄らないでくださいっ!」

「ほらほら礼、デヘヘ、ペロペロ──」


 次の瞬間、スマホのアラームがピロロ──と鳴り響く。


 私は全力で礼に抱きついたままの体制でその時を待つ。アラームが止み静寂が辺りを包みこむ。


 ──けど何も起らない。


 鏡にも異常なし。当然、未知なる異世界への扉は開かず──。


 つまり、これにて鏡の検証は終了、でいいのかな? ……まぁ、こんなもんか。所詮マユツバな噂だったしね。

 

「んじゃ、副会長、そろそろ撤収しましょ──っんごっ!?」

「会長最低ですっ! キモいですっ! いっぺん◯んでくださいっ!」


 副会長にガチギレされてしまった。


 そのまま礼は脱兎だっとのごとく鏡の前から……、いいえ、恥ずかしげに私の前から逃げていく。


「──んも、冗談だってば〜。礼ったらしょうがないな〜」


 愛しの副会長から全力で頭突きされ、流血した鼻にティッシュを詰めつつ、トボトボと一人寂しくその場から立ち去る会長の私であった。


「……礼。また部屋に遊びに来てくれるかな〜?」



 そして、これはしばらく過ぎた後日の話なのだが──。


 私たちの高校で同時に二人の生徒が行方不明となる事件が勃発した。


 一人目は二年の男子生徒〝Y.N〟君。二人目は同じく二年の女子生徒〝M.H〟さん。


 両名とも普段から素行が良い生徒であったため、家出等は考えられず、何らかの事件に巻き込まれた可能性を視野に入れて捜索。


 警察はもちろん世間でもニュースの話題となった二人の失踪事件。何の手掛かりもなく未だに未解決のままだ。


 そしてこれは不確定かつ人知れず聞いた情報なのだけれど、何でも行方不明になった当日、あの二人は大鏡の前にいたとの噂がまことしやかに生徒の間で広がっていた。


 そして──、


 告白した彼。


 告白された彼女。


 そんなふたりは仲睦まじく異世界に行ってしまった、とかいう噂もまことしやかにささかれている──


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