第45話 遺跡の半分が吹き飛ぶぞ
通路の先は、下へと続く螺旋階段になっていた。
削り出された石の段は苔むし、古びた鉄製の手すりには長年の埃がこびりついている。
ジークを先頭に、ミオ、ソアラの順で黙々と階段を下る。
やがて、階段は床面へと到達し、広めの通路へと出た。閉ざされた空気が重たく、肌にまとわりつく。誰の足跡もない、まさに未踏の空間だった。
「こ、この通路って……どこに続いてるんだろうね?」
ソアラが、少し硬い声で呟いた。
「さあな。未踏破のルートなのだから、分かるわけがないだろう」
ジークが素っ気なく返す。
「そ、それはそうだけどさ! こう……緊張を紛らわせるために、会話してた方がいいかなって思ったの!」
「そうか。ならば不要だ。緊張など、微塵もしていない」
「……まぁ、そうだと思ったけど! 私が緊張してるのよ!」
ぷいっと頬を膨らませて視線を逸らしたソアラが、そっとミオの耳元に身を寄せる。
「ねぇ、ジスさんって、いつもあんな感じなの?」
ミオは小さく頷いた。
「そう。ふつー」
「ふ、ふつー……そっかぁ……」
ソアラはそっと遠い目をした。
そんな軽いやりとりを交わしながらも、足はしっかりと下層へと進んでいく。
彼らが踏みしめる床の一つひとつが、未だ誰の足跡も記していない、この遺跡の新たな“歴史”となるのだ。
◇
やがて、通路は大きな広間へと繋がった。
天井は高く、壁際には崩れた石像がいくつも転がっている。かつては何かの式典や儀式に使われていた空間だろう。
「……今日はこの辺りでキャンプにするぞ」
ジークが言った。
「了解。まさか泊まりになるとは思ってなかったけど……念のため装備、持ってきてて良かったわ」
ソアラは慣れた手つきで荷を下ろし、素早く野営の準備を始める。
とはいえ、寝床用の敷布と、夜食用の簡単な調理具、暖をとるための小さな焚き火。それだけの簡素な構えだ。
雨風の心配がないダンジョン内では、これで充分だった。
暫くして……
「ジスさま、できた」
姿が見えないと思ったら、ミオが部屋の出入口付近から戻ってきて、小さな胸を張って報告する。
「ほう、何をしていた?」
寝床の確認をしていたジークが立ち上がる。
「何してたの?」
ソアラも気になって、鍋の手を止める。
「トラップ。魔物や、わるいひとが来たら──爆発する!」
そう言って、ミオは得意げに駆けていき、足元の魔法陣を指差した。
そこには、くにゃくにゃと歪んだ円形の紋様と、いびつにねじれた幾何学模様が描かれている。色も濃淡がまばらで、やや頼りない。
(ふふ……ジスさんの真似をして、お手伝いのつもりかな。可愛い)
ソアラは微笑ましく見守った。だが──
「おい」
ジークの声が低く響いた。
「これをこのまま作動させれば、この遺跡の半分が吹き飛ぶぞ」
「……え?」
ミオがきょとんと目を瞬かせる。
「お前の魔力がそのまま起爆媒体になっている。前にも言ったはずだ、“第七起動回路”を“圧縮式起点符”に直結させるなと。それと、この“転送触媒層”と“圧層共振符”を隣接させる構造は、誤爆の典型だ。見ろ、ここが崩れている」
ジークは指先で魔法陣の数か所を軽くなぞる。その度に、紋様の端が微かに反応して発光した。
「う……わ、わかった」
コクコクと何度も頷きながら、ミオはジークの言葉を真剣に聞き入れていた。
(……遺跡が半分吹き飛ぶって、冗談……よね?)
ソアラは笑いかけた頬を引きつらせ、夕飯の鍋に視線を戻した。
だがその手元は、少しだけ震えていた。
(や、やっぱ、私。パーティに誘う人、間違えたかな)
ふと、そんな思考がよぎった。




