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第9話 ジュリナの過去

ある休日の夕方。

俺は日用品などの買い物をする為、街に出ていた。

欲しい物は大体買い終え、両手に袋を抱えながら寮に帰宅する途中、公園に通りすがると中から元気な子供たちの声が聞こえてくる。

その光景を横目で見ると、子供達に交じって見覚えのある姿があった。


「ジュリナだ。」


鬼ごっこでもしているのだろうか、子供達と一緒に楽しそうにはしゃいでいる姿が何とも微笑ましい。

俺は公園に入ると隅のベンチに座り、遠巻きにそんな光景を眺め始めた。


暫くして子供達の母親が迎えにやってくる。

ジュリナと母親達が少し世間話した後、子供達はそれぞれの母親と手を繋いで帰っていく。


「バイバイ、ねーちゃん!」


「ジュリナお姉ちゃん、また遊んでねー!」


小さい手を元気一杯に振る子供達にジュリナも手を振って応えた。

子供達が居なくなるとさっきまでの喧騒が嘘の様に公園内は静かになる。

子供達の姿が見えなくなるまで見送っていたジュリナの背中もなんだか物寂し気だ。


「ジュリナ。」


俺はベンチから立ち上がりジュリナに声を掛けると、ジュリナはビクッと体を震わせ、ゆっくりと振り向いてきた。


「ア、アレス…あんたいつから…」


「10分前くらいかな。買い物帰りに通りがかったら、なんだか楽しそうにしてたからさ。」


「ずっと見てたの…?」


「まぁ、10分くらいだけど。」


そんなやりと取りをしているとジュリナは顔を真っ赤にしてプルプルと体を震わせ始め


「笑いたければ笑えばいいだろ!アタシに似合わないことしてとか思ってるんだろ!?」


えぇ…

寧ろ、現代社会ではなかなかお目に掛かれない地域住民の交流って感じで、懐かしくもあり微笑ましく思ってたんだけど…。


「そんな事思ってないよ。微笑ましいなぁって見てたんだよ。」


「ほらやっぱり!笑ってたんじゃないか!!」


えぇ……

こんな街中の公園であんなにはしゃいでたのに見られたくなかったのだろうか…?

とにかくこのままじゃ埒が明かない。

俺は買い物袋の中を漁って


「とりあえず落ち着けって。リンゴ食う?」


リンゴを手に取り、ジュリナに差し出す。

ジュリナは頬を膨らませたままリンゴを奪い取ると、ベンチに腰を下ろして齧り付き始めた。

俺もその隣に座り、リンゴをもう一つ取り出すと食べ始める。

暫くは会話もなく、シャクシャクとリンゴを齧る音だけが聞こえていたが、頃合いを見て俺から話しかけた。


「子供好きなの?」


その質問に暫く考えたのか、口の中のリンゴを飲み込んでから


「まぁ嫌いではないけど…寧ろ、ああ言う子供の遊びが好きかな。アタシが小さい頃は家の手伝いが忙しくて、近所の友達とかとあんな風に遊んだことなかったから。」


子供の頃から活発な印象があるだけに意外に思いながらも


「小さい頃から家の手伝いなんて偉いじゃん。俺なんて手伝いらしいこと殆どしなかったなぁ。」


「偉いとかじゃないよ。アタシが5歳の時に母さんが病気で死んじゃってね…。父さんに負担掛けたくなったし、まぁ必要に駆られてって感じ。」


そう言いながらジュリナは苦笑いをする。

何だか重い話になりそうであまり踏み込んではいけないとは思ったが、ある疑問が湧くとどうしても気になってしまう。


「でも確かジュリナって、学院に入る前は冒険者と揉めるくらい荒れてたんだろ?孝行娘って感じで想像できないけどな。」


「あんたねぇ…、アタシだって年頃の娘なんだからあんまり根掘り葉掘り聞くもんじゃないわよ?」


「あはは…ごめん…。」


申し訳なさそうに頭を掻く俺にジュリナは呆れた様に溜息を吐いて


「まぁ、いいけどね。8歳の時に父さんが再婚してね。別に反対はしなかったよ。父さんも若かったし、男手一つで子供を育てるのも大変だろうしさ。アタシもその女性(ひと)を母さんと思って仲良くしたんだけどね…。」


「上手く行かなかった?」


「まぁ原因はアタシにあるんだけどね。」


ジュリナは冷めた様に言う。

だが今の話を聞く限り彼女に原因があるようには思えない。寧ろ、物分かりの良い、親思いのいい子だと思う。

俺が頭の中で?マークを浮かべていると、そんな疑問を察したのかジュリナが答える。


「アタシには獣人の血が流れてるんだよ。」


獣人…確か以前読んだ本にも書かれていた。

この世界を構成する種族の一つだが、辺境の山奥とかに暮らしていて人間の国で見かけることはまずない。過去に起きた人間と獣人との争いの根が深く、またその見た目から穢れた者、人間のなりそこないなどと忌避する人間も多いようだ。


この世界の獣人がまんま動物を二足歩行にした感じなのか、人間のフォルムにケモミミや尻尾が生えている程度なのか俺には分からないが、ジュリナにそう言った特徴は特に見られない。


「母さんの家系がね、祖先に獣人がいたらしいんだ。とは言っても何代も前の話だし、血も薄まって獣の耳や尻尾が生えてるわけじゃないけどね。母さんもそう言う特徴はなかったんだけど、9歳の頃突然獣人の血が目覚めちゃってね。おかげでこんな怪力女になっちゃったってわけ。それにほら。」


イーッとしながら口の端を人差し指で広げて俺に見せてくる。

確かに犬歯が普通の人間より鋭く、牙のようだ。八重歯みたいで可愛いと俺は思うが。

でもまぁ、今の話で大体はわかった。

ジュリナは所謂先祖返りってやつのようだ。そしてこの世界の獣人の扱いを考えれば、継母からしたら我慢できないことだったんだろうな。


「お父さんはそのことを知らなかったのか?」


「どうなんだろ。さっきも言ったように昔の話だし、母さんや婆ちゃんも普通の人間だったし忘れてたのかもね。最初の内は父さんもアタシの事を気に掛けてくれたけど、継母(あの人)との間に子供…弟が産まれてからはアタシに興味なくなったみたいでさ。で、グレて今に至るってわけ。」


疑問が解けてスッキリした反面、興味本位で聞いてしまって申し訳ない気持ちになってしまう。


「ごめん、変なこと聞いちゃったな…。」


「別にいいよ。アタシもただの怪力女で通すのは難しくなってたし、誰かに聞いて欲しかったのかも。おかげでスッキリしたわ。」


一頻り話し終え、グッ伸びをしてから横目でこちらを見ながらジュリナが呟く。


「こんな獣人女、気持ち悪いでしょ…?」


寂し気な横顔を見せる彼女に一瞬焦るが、俺はフンッと鼻であしらい


「俺は獣人を見たことないし、好きも嫌いもねーよ。ジュリナはジュリナだろ。」


そう言って立ち上がると、ジュリナの頭に手を置き、髪をクシャクシャとかき乱す。


「ちょ、ちょっと!」


「それに、あんまり俺に心を許しすぎると後で大変な目に遭うかもよ?俺の二つ名、知ってるだろ?」


双頭蛇(アンフィスバエナ)…。」


「そう言う事。さて、日も暮れるしそろそろ寮に帰ろうぜ。」


そう言って俺は買い物袋を抱えて歩き出す。


「あ、待ってよ!」


彼を追うように駆け出したジュリナの心臓は妙にドキドキと高鳴っていた。

そして確信めいた予感もある。

アタシはもう双頭蛇(アンフィスバエナ)の毒牙にかかったのかも…と。

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