第8話 怪力無双の女戦士②
ジュリナとの勝負の翌日。
俺は校舎の屋上のフェンスに凭れながら、ボーッと昼休みを過ごしていた。
あの後セリカ先生を呼び、保健室にジュリナを搬送。
先生の介抱もあって大事に至らず何よりではあったが、セリカ先生にめちゃくちゃ怒られた…。
いくら合意の上で訓練形式の手合わせと言っても、第三者の立ち合いも無しにやり過ぎと言われ、最近は酒場の店主からも頑張って働いていると聞き、安心していたと言う所にこれだ。
自分の立場をわかっていない!と、お説教をくらう羽目になった。
セリカ先生が担任に上手く便宜を図ってくれ、ジュリナは自主練中に怪我をして早退と言う事になったが、俺とジュリナが二人で教室を出ていく様子を知っているクラスメイト達から絶対俺が何かしたんだと言う疑惑の眼差しを受けることに。
大事を取ってジュリナは今日も欠席。
それもあって教室での居心地は最悪だった。
自分の力量を図ると言う本来の目的は想定以上の大成功と言えるだろう。
ただ周りからの目は転生直後に戻ってしまったような感じだ。
ままならないものだ…
そんなことを思いながら溜息を溢した。
暫くそんな風に一人で過ごしていると扉が開き、欠席のはずのジュリナが屋上にやって来た。
「こんなところに居たんだ。探したわよ。」
「ジュリナ…。もう良いのかい?」
俺の言葉に頷き返し、隣に並んでフェンスに凭れ掛かる。
ポニーテールを風に靡かせながら、遠くの景色を見たまま彼女が話しかけてくる。
「セリカ先生に大体は聞いたわ。保健室に運んでくれたんでしょ。ありがとう…。」
「別に改まって礼を言われるほどの事じゃないよ。」
「そう…。」
お互いに顔を合わせることもなく、それだけ話すと会話が途切れてしまう。
暫し無言の時間を挟んで、ジュリナが口を開いた。
「まさかクラスメイトに負けるなんて思わなかったわ。あんた強いんだね。」
「ん-、俺の強さと言うより相性の問題だろうな。ジュリナは力任せの直線的な戦闘スタイルみたいだし、カウンター狙いの俺とは嚙み合ったってことだよ。」
「そっか…。でも分かってしまえば次はこうは行かないわよ?」
「次ねぇ…。」
ジュリナの言葉に俺は少し考えてから続ける。
「冒険者ってのはさ、未開拓の土地やダンジョンに挑戦するわけだろ。当然そこには見たこともない、どんな能力を持ってるかもわからないモンスターと戦う事もある。油断してやられて、次は負けないなんて通用するのかな?」
「む…。」
「ジュリナは強いよ。戦闘能力だけを見たら学院内では飛び抜けてる。今すぐ冒険者でも通用するだろうさ。でも、そう言う人ほど足元を掬われ易い。どんなに注意を払っても想定を超えた困難に見舞われることはある。どんな時でも落ち着いて対処できるようになるには、しっかり基本を学んで経験を積んで行くしかない。学院ってのはそう言う場所だと思う。」
学ぶことが違っても学校ってのはそう言う所だろう。
余程の専門職でもなければ社会に出たら学校の勉強なんてほとんど役に立たないが、やってて良かったと思う事も少なくない。
ましてや一回のミスが命に係わる職業だ。それだけ基本の重要性は大きいだろう。
そんな俺の話をジュリナは目を丸くし、ジッと俺の横顔を見ながら聞き入っていた。
チラッと視線を向ければ目が合い、ジュリナは赤くなった顔を背けて
「……そうね、あんたの言う通りだと思う。」
偉そうに語ってしまったけど、少しは彼女の役に立てただろうか。
彼女のおかげで目的は達成できたわけだし、実験に利用してしまった罪悪感もあってか、俺の話で少しでも悩みが晴れてくれたら嬉しい。
「ま、歯応えが欲しくなったら相手になってあげるよ。俺で良ければね。」
「言ってくれるじゃない。あたしは今からでもいいのよ?」
「昨日の今日では勘弁してくれ…。セリカ先生に怒られたばっかりなんだからさ…。」
「あはは、それもそうね。そうだ、あの最後の技、すごかったね。自分が投げ飛ばされるなんて初めてだったし、よくわからない内に気を失っちゃったし。あたしにもあの技教えてよ?」
「ん-…企業秘密ってことで。」
「何それ!ずるいよ、アレス!」
鬱屈した気分もすっかり晴れて、晴天の下、気持ちのいい風に吹かれながら穏やかな昼下がりを過ごすのだった。