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第7話 怪力無双の女戦士①

「おい、行くぞ。」


午前中の授業が終わると早速俺のところにジュリナがやって来る。

授業の間から彼女が妙に殺気立っていることはクラスメイト達にも伝わっていて、そんなジュリナが俺に話しかけたことで教室中がザワつく。


「あの二人どういう関係?」


「ジュリナめっちゃ怒ってるし。あいつまた碌でもないことしたんじゃないか?」


「大人しくなったのかと思ったけど、結局アレスはアレスだったってことか…。」


ヒソヒソと聞こえてくる言葉に聞こえない振りをしながら、俺はジュリナに応対する。


「別に逃げたりしないさ。俺の方から誘ったことだし。」


立ち上がった俺はジュリナを連れ立って教室を出る。クラスメイト達の好奇の視線見送られながら。




常時解放されている訓練場では休み時間や放課後に自主練をする生徒も少なくないが、流石にまずは食事を済ませてからと言う事のようで、昼休みに入った直後のこの時間は俺達の貸し切り状態だった。

お互い無言のまま、訓練用の武器が置かれた棚からそれぞれ得意の武器を手に取り、訓練場中央で対峙する。


「それじゃあ、話した通り一本勝負ってことで。」


俺の言葉にジュリナが無言で頷き、斧を構える。

それに合わせて俺も剣を構え、暫く睨み合いになるが


「はあああああっ!」


掛け声と共に勢いよく地面を蹴ってジュリナが突撃してくる。

斧を持った右腕を大きく横に振りかぶり、突進の勢いに合わせて水平に薙ぎ払うつもりだろう。

あのパワーで振り抜かれたら訓練用の武器とは言え、体を真っ二つにされかねない。

恐怖で体は強張るが、ジュリナのスイングスピードにも目は付いていっている。

ここまでは予想通り。後は実行するだけ。

迫る斧の刃に向かって俺は剣を振り抜いた。


「はっ!!」


ガキィン!


金属音を響かせ武器を弾かれたジュリナは、突進を止められて体勢を崩す。


「なっ!?」


驚くジュリナに対して俺も内心驚いていた。

ここ数週間のこっちでの生活から、身体能力や戦闘技術はアレスのものを引き継いでいるのがわかった。

そして彼の遺した訓練記録などから、パリィなどの回避スキルからカウンターを狙う技術習得に注力していたことも知ることが出来た。

後はそれを実践できるかどうか試したかった所に昨日の話だ。

ジュリナには悪いが実験台になってもらう為にこの勝負を組ませてもらった。

ここまで上手く決まるとは思わなかったが、今更失う物もないしと妙に吹っ切れていたのも功を奏したのだろう。

後は体勢を崩したジュリナにカウンターを決めるだけ。

俺は勝利を確信して彼女に向かって剣を振り下ろした。


「っっ!!まだよ!!」


振り下ろした剣を左の素手で受け止められた。

ウソだろ!?

いくら訓練用に刃引きされているとは言え鉄製に変わりない。鈍器としては十分だ。それを素手で受け止めるなんて骨がイッてもおかしくないぞ!?

ジュリナの行為に呆気に取られていると、その隙を見逃さなかった彼女に腹を蹴り飛ばされ俺は後方に吹き飛ばされた。


「ゲホッ、ガハッ!」


地面に転がされ、膝をつき、嗚咽しながらも剣を支えにして何とか立ち上がるが


「あんたがあんな技を使うなんて驚いたよ。でも詰めが甘かったね。弾いてからカウンターに移るまでの隙も大きかったし、完璧にモノにしてたわけじゃないんでしょ?今度は油断しない…決めさてもらうよ!」


そう言い放ったジュリナが再度の突撃。

蹴りのダメージが抜けず、膝に来ている状態ではパリィで弾くことはできない。

彼女も意識しているのか、それをさせまいとコンパクトなスイングでの連撃で畳みかけてくる。

何とか剣で受け止めながら


「ク、クソッ…!」


「意外と粘るじゃない!ここに来てからここまで粘ったのはあんたが初めてだよ!」


どこか楽し気に斧を振り続けてくるジュリナ。

辛うじてかわしてはいるが、重い連打に腕が痺れて剣を持つのもきつくなってきた。

このままじゃやられる。

咄嗟にそう思った俺は力を振り絞って後方に飛び退き、距離を取る。

だが、相手はそう易々と逃してくれない。


「甘いのよ!」


思い切り振り抜いた彼女の右手から斧が放たれると、俺目がけて一直線に向かってくる。

間一髪で弾くが昨日のマグナスと同様に体勢が崩れてしまう。


「もらったああああああああ!!」


俺との距離を詰めながら、掴みかかろうとジュリナの右手がスローモーションのように伸びてくる。

終わった…

そう悟りながらも体が無意識に反応してしまう。

剣を捨て、ジュリナの右腕を逆に掴むと、体を捩じる様にして彼女の体の下に潜り込ませ撥ね上げる。所謂一本背負いだった。

後は突進の勢いも相まって軽々と彼女の体は宙に舞った。


「へ?」


何が起きたのか理解できない彼女の体は、背中から地面に思い切り叩きつけられて


「ガハッ!!」


そのまま大の字になって気を失ってしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ…。」


肩で息をしながらその光景を見下ろしつつ、俺も驚いていた。

中学高校の6年間、柔道を続けて一応有段者ではあったが、大した選手ではなく全国大会を目指していたとか言うわけでもない。

ましてや高校を卒業してからは完全に離れて10年以上経つ。

それでも咄嗟の場面で体は動いた。

曲がりなりにも青春を注いだ経験と言うのは染み付いているものなのかと思いつつ、疲労困憊の状態でも体が反応したのはアレスが鍛えていたおかげでもあるのだろう。

感慨深くもあり、憎たらしくも思えて複雑な心境だ。


そんな事を考えていたが、ジュリナが一向に目を覚まさない。


「お、おーい…ジュリナさーん…?」


恐る恐る声を掛けてみるが全く反応がない。

よく見れば完全に白目を剥いて泡を吹いていた。

美少女にあるまじき姿!

俺は血の気が引いていく感覚を覚えつつも


「セリカせんせぇぇぇぇぇっ!!」


大急ぎで保健室に応援を呼びにいくのだった。

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