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【書籍化決定】転生令嬢は旅する編纂者  作者: 采火
第二部

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45/46

45.歳神ゾーエ

今年も大変お世話になりました。

皆様、よいお年をお過ごしください〜!

 私の怪我は肩亜脱臼と診断された。医務室で応急処置をしてもらったあとに帰宅したら、屋敷は大慌て。社交シーズンに合わせて王都にきていた両親の顔は真っ青。主治医に再診してもらうと、三週間ほど安静するようにと言われた。


「利き腕が固定されているので書き物は難しいですが、通訳はできます」

「安静にと言われたのだから、休むように」


 医務室だけではなく屋敷まで送ってくれたヴィクトルは、私のかわりに両親に事情を説明してくれた。父は「君がいてくれて良かったよ……!」とヴィクトルに感謝していた。なお、脱臼だと診断された私には書き物ができるようになるまでは休むように言いつけていった。そういう理由で、私はこの忙しい時期に休むことに。罪悪感がすごい。


 今が一番忙しい時期なのだから出勤するべきでは、と思ってしまうものの、ヴィクトルには「不審者の件もあるから」と強めな語調で言われたので、私は大人しく休んでいる。


 ちなみにその不審者の件ですが。


 私の見間違いではなく、やっぱりアニマソラ神樹国の通訳の人だった。向こうの言い分としては「エリツィン外交官が帰宅する前にお茶に誘おうと思い、待ち伏せしていた。しかし土地勘がなく迷いこんでしまい、騒がせてしまった」とか。怪我をさせてしまったことを詫びたいという申し出もあったらしいけれど、ヴィクトルが気を利かして上手く調整してくれたのだとか。ありがとうございます、持つべきものは部下思いの上司ですね。


 今回の件で、私の中でのアニマソラ神樹国のイメージがマイナスになってしまった。神子について詳しく知りたい気持ちもあるけれど、そこへ踏みこむにはそれ相応の代償が必要になりそう。みだりに触れては自分が火傷しかねないので、今後はアニマソラ神樹国に関わらないようにしたほうが良いかもしれない。自衛は大事です。


 そうやってできてしまった、突発的な休暇。肩のリハビリもあるのでずっと暇を持て余しているわけではないけれど、仕事をしている日よりは間違いなく余暇が増える。


 なので私は、社交シーズンが終わるまでは手が付けられないと思っていたものに手を伸ばすことにしました。


 そうです、〝お年玉〟です!


 ルィバツ王国リソブリー村の年越し行事。ハルウェスタ王国とさほど離れていない国だったので、ルィバツ王国の文化に関わる資料は簡単に手に入った。そうは言っても、各地方の風習まで書いてあるものまでは少なかったけれど。


 時間だけはたくさんできたので、図書館などで借りられるルィバツ王国の行事や文化、風習、などなど……関連書籍をこれでもかと読みこんだ。安静にするようにとは言われたけれど、ベッドの上で寝たきりになるわけじゃないからね。利き腕じゃないほうの手で本を読むことくらいはできる。ここぞとばかりに読みふけりましたとも。


 その中で一冊、面白いものを見つけた。

 ルィバツ王国の地方ごとに集められた昔話集。リソブリー村のある地方の巻に〝toshidama〟という昔話があった。


「これがクーヤくんの見つけたお年玉ね」


 以下、昔話を要約すると。

 昔々、年を取るためには、神から〝年〟をもらわないといけなかった。新年になると神は〝年〟を与えるためにやってくる。けれどある年、年を取りたくない男が藪の中に隠れて過ごそうとした。年神は竹の上から〝年〟を撒いたところ、男は藪の上から降ってきた〝年〟に当たってしまい、やっぱり年をとってしまったとか。


 この話が元になり、〝年〟を餅と見立てた餅まきが、ルィバツ王国の沿岸部で広まったそう。この餅を〝トシダマ〟と呼ぶのだとか。


 神樹ゴドーヴィエ・コリツァによる年輪歴が広まるにつれて廃れてしまった風習ではあるけれど、リソブリー村では今もなお、この行事が行われているみたい。


 私はこの昔話を三回も読み直した。長い話でもないので、外国語でも読み返すのはすごく簡単。とん、と〝トシダマ〟の文字を指で叩く。


「……これ、転生者だ」


 三回も読み返したこの昔話。

 私はこの昔話を知っている。


 頭のなかに浮かぶのは、私の大学時代の恩師。

 クーヤくんから手紙をもらったあとに見た、夢を思い出す。


「既視感、そこだったかぁ」


 ようやく、お年玉と餅まきの関係が腑に落ちた。これ、大学の演習の一つで扱ったテーマだった。


 学科の演習の中に、年中行事について調べるものがあった。その時の担当講師が私の恩師。その演習で私は、お正月行事について調べたんだった。


 お正月行事と言っても色々とある。正月飾りにお節にお年玉に正月遊び。すべてを調べられはしないので、私は〝年越し〟という部分にテーマを絞って調べたの。その時に〝年神〟について調べて……その中に、これと同じような話があった。


「誰の論文だったっけ……柳田國男? 折口信夫?

思い出せない……」


 むしろ思い出せたらすごいけれども!

 どこの地方か忘れたけれど、間違いなく読んだ記憶がある。もしこれが偶然の出来事ではないのなら、お年玉を持ち込んだ人は間違いなく日本人だ。しかも、私がこの論文について思い出すことができれば、地域も限定できる……!


「論文、論文……全っ然っ、思い出せない〜! 前世のことだものね……そんなに都合よく思い出せるわけないか……」


 読んだ記憶はあるのに。そこまでは思い出せたのに。かなり無念です。


 ここまで符号が一致すれば、あとはその昔話が誰から伝わり始めたのか、ということを調べたい。昔話なら、誰かから話を聞いて伝わっていくはずだけれど。


「この〝take〟は〝竹〟だよね。……この世界でまだ竹を見たことないなぁ」


 ルィバツ王国に竹があるのかな、と思って植物図鑑などを見てみても、竹っぽいものはない。昔話の本にも注釈はないし、この昔話にしか出てこなさそう。想像上の植物だと思われているのかしら。


(なんだか蓬莱の玉の枝みたい)


 さながら日本が蓬莱で、竹が玉の枝。

 私は存在しないものを探す旅に出る、求婚者の一人。


 ……なーんちゃって。


「あ、語り部が書いてある」


 昔話集をぺらぺらめくっていたら、巻末に各昔話の語り部が書いてあった。お年玉のお話をしてくれたのは、リソブリー村のゾーエさんという方らしい。


「聞きに行きたいけれど、ルィバツには出張予定もないしなぁ……」


 転生者への手がかりを見つけても、次に立ちはだかる壁は物理的な距離。そんなに都合よく、いつも出張があるわけでもなし。


 このリソブリー村の転生者を知るのは、ずっとあとかもしれない。外交官をしていればそのうちルィバツ王国に行くことがあるかもしれないので、その日を気長に待つしかないかも。


「私専属の、蒐集者が欲しいなぁ」


 今回、クーヤくんが送ってくれた手紙のように、転生者かも? と気がついて情報をくれる人。その上で 自由に旅ができない私の代わりに、現地に赴いて情報収集をしてくれる人。そういう人を専属で雇いたい。


 そのためには転生者の知識が必要だし、ヴィクトルくらいのマルチリンガルじゃないと難しいだろうけれど。


「……やっぱり自分で探しに行くしかないよね」


 このお年玉の話は、またいつか。

 ルィバツ王国に出張する機会があるなら、率先して立候補しようっと。


 調べられたことだけクーヤくんに手紙を書きたいけれど……利き腕の脱臼のせいで文字が書けない。完治してから書くしかない。これ以上を調べるには、もう少し時間がかかることも伝え忘れないようにしないと。


 玄蒼国へ手紙が届くころ、こちらはきっと神樹ゴドーヴィエ・コリツァ千四百年祭の時期だ。たぶん忙しくて、現地に行けるのは再来年以降だろうな。


 お年玉とお餅の転生者について調べるのはまたの楽しみにしよう。そうしよう。






 ……そう思っていたのに。


 ハルウェスタ王国に遊びに来たクーヤくんが手土産にと、お年玉の転生者について教えてくれたのは、ここから四年後のお話です。


【歳神ゾーエ】

ルィバツ王国リソブリー村。享年100歳を越えた嫗ゾーエ。夫に先立たれ、足腰も立たなくなったあとは、漁に出る男手や家事に忙しい女手に代わって村の子守を担っていた。ある時、村の子どもが「大人になりたくない、ずっと子どもでいたい」と話した時に、この話をしたそうだ。それを面白がった子どもが真似をしたのが始まりで〝トシダマ〟の行事がリソブリー村に定着した。(クーヤ調べ)


※フェリシアが思い出せなかった論文

倉田一郎(1943).「年玉考」『民間伝承』8巻,9号,p17-p22


出雲の海岸地方の風習だそうです。

在住の方、もしよろしければ現在もその風習が残っているのか、お正月の話題の一つとしてお調べしてみてください〜!

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