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15.馬車旅の暇つぶし

 前世、長旅の道中の娯楽と言えば、車ならカーラジオや音楽、電車ならスマホで動画視聴やSNSチェックがもっぱらだった。


 でも今はそんな娯楽はどこにもない。車でも電車でもない馬車の旅にはそんな娯楽はないし、それどころか乗り心地だって快適とは言い難い。


「イェオリ、今一番交通が発達してる国ってどこだろうね」

「ガムランじゃないか? 貿易大国だと言うくらいだし。陸路だけじゃなくて、海路が使えるのは大きいだろ」


 いや、そういうことじゃなくて。交通って言い方が悪いのかな。乗り物? 乗り物が発達している国が聞きたかったの。


 未だ馬車が走るこの世界では産業革命までまだまだほど遠い。馬車の座席なんて座布団だ。スプリングの入っているカーシートなんてものもない。低反発クッションとか、ビーズクッションとか、痔に効くドーナツクッションとか。あれほど豊富だった前世のクッションすら恋しくなっちゃう。


 初めての出張が決まった時、父におねだりした超高級羽毛クッションも、今や三代目。出張に行くたびに酷使され、ぺっしゃんこになる。今回持ってきた三代目は、この過酷な馬車旅に耐えられるかしら。どなたか、馬車の乗り心地を改善できる転生者の方はいませんかー。私には無理でーす。


 そんな中、暇を持て余している私と言えば。


「イェオリ、しりとりしない?」

「なんでそんな幼稚な遊びしないといけないんだよ」

「外国語しばりすると、ヴィクトル様が強いのよ」

「お前、遊ぶ相手を間違えてないか?」


 私とヴィクトルが一緒に出張する時の定番だ。これから行く国の言葉でしりとりをする。母国語じゃないから、これがけっこう難しい。遊びというよりは、勉強のつもりでやってるんだけどなー。


 イェオリはどうやら付き合ってはくれないみたい。じゃあ何をしているのかと言えば、私が暇つぶしに持ってきた本を読んでいる。私はとっくに読み終わって手持ち無沙汰なの。


「イェオリ、面白い?」

「まぁ、良い暇つぶしだな」


 私が持ってきたのは、アニマソラのカードゲームについて書かれた本。契約(オンブル)を筆頭に、アニマソラのカードゲームの発明者が書き残したカードゲームの遊び方大全だ。ハルウェスタの王立図書館に翻訳版があったので、それを借りてきた。


 ハルウェスタの外交官は職業柄、いろんな国へ行く。当然、長年勤めていれば言語が達者になる。そんな外交官が引退後にやることといえば、暇を持て余して好きな国の好きな本を翻訳していくこと。このカードゲーム大全も、そんな先達の外交官が翻訳したものらしい。原文の上にハルウェスタ語に翻訳された文字が綴られているので、アニマソラの言語の勉強にもちょうど良かった。


「国一つ隔てれば、カードの様式は変わるけどさ。遊び方はほとんど変わらないんだな」

「そうだね」


 面白いことに、その本にはカードゲーム発明者のコラムみたいなものも載っていた。それを読むと、ティモとトゥロが持って帰ってきたトランプに描かれていたマークの本来の意味が載っていて、私は一つの確信をしたくらい。

 

 スペードは剣。ハートは聖杯。

 ダイヤは金貨。クラブは棍棒。


 知っていて良かったトランプマークの雑学。

 この由来を見る限り、やっぱりカードゲームを発明した人は転生者だと思う。でも、気になることがあって。


「ん? この著者と発明者は違うのか」


 コラムを読んだらしいイェオリも気づいたみたい。


「そうみたい。発明者というか、発案者は著者のお祖母さんなのよね」

「へぇ、良い話じゃないか」


 身体が弱く、寝たきりだった祖母が少しでも楽しく過ごせるようにカードゲームを作ったと、著者のコラムに書かれていた。それも著者が全部考えたわけではなく、祖母が昔遊んでいたという記憶に基づいて再現したのだとか。コラムの最後にはこう書かれている。


『このカードゲームについてもっと詳しく知っている方がいたら、ぜひ話を聞かせて欲しい』


 イェオリが興味深そうに頷いた。


「再現ってあるな。オンブルって、もともとはアニマソラでも知られていないものだったのか?」

「イェオリも気になる?」

「……『も』?」


 イェオリがとたんに嫌そうな顔になる。


「その顔はどういう意味?」

「変なことに俺を巻きこむ気じゃないよな」

「失礼ね。変なことじゃないわ」


 いったい私をなんだと思っているの?


「仕事が終わったら、ちょっとこの著者に会いに行こうかと思っているのだけれど、イェオリも一緒に行く?」


 めちゃくちゃ嫌そうな顔をされてしまった。

 え、そんなに嫌なの……?


「お前な……室長に聞いたぞ。クロワゼットに言った時、そう言って寄り道して帰ってきたって」

「そうだけれど?」

「ちょっとは悪びれろ。遊びに行くんじゃないんだぞ」


 分かってますとも。これから仕事だっていうことは当然分かってるし、それをおろそかにするつもりはない。


 でもさ、修学旅行とかでもそうだったじゃない。勉強だとかいって、クラス全員で世界遺産とか国宝の見学をしてさ、そのあとに楽しい遊園地みたいな。せっかくの遠出なんだから、時間が許す限りはご褒美のようなものがあっても良いでしょう?


 そう言ってやれば、イェオリは深くため息をついて好きにしろとぼやいたのだった。


 ❖   ❖   ❖


 アニマソラ神樹国に無事到着した私たちは、常駐している大使の住む大使館でようやく寛ぐことができた。これから寄付のための謁見がある予定だけれど、前回の寄付が中止されたせいで、謁見の日取りがまだ調整中らしい。せっかく旅程を強行してきたのにね。


 なので、日取りが決まるまでは自由に過ごすことになった。せっかくのアニマソラ神樹国。初日は馬車旅で疲れた身体を癒やし、二日目には名所の神樹ゴドーヴィエ・コリツァを見に行った。ものすごく大きかった。スカイツリーくらい大きいかも、と思ったくらい。


 それから三日目にはアニマソラの街並みを歩き、色々と街の人たちから話を聞いたり、簡単な契約(オンブル)をしたりした。


 それから四日目。

 昨日、街の人から聞いた話から、アニマソラでカードゲームを広めたという人のカード工房を知ることができたので、訪ねてみた。



最近「いつ小説を書いてるの?」と聞かれることが増えたんですが、家以外だと、電車で書くのが一番捗ります。更新量が増えたら「電車に乗ってどっか行ったんだな……」と思ってください。皆さんはお出かけの移動時間、どうお過ごしでしょうか?

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