二話 今夜はハダシデ
一瞬、見間違えかと思った。そうだ。そんなわけない。あんなでかいカラスがいるわけない。そもそも、カラスが人を食うなんて。暗くてよく見えないだけで、男は酔いつぶれているだけだ。カラスもコスプレか何かに違いない。すると、何かが破れるような音がした。ビリッ、ブチッと。そしてポタポタと液体が滴る音がかすかに聞こえた。よく見えなかったが、くちばしのようなもので男の背中から何かを引き裂いているように見える。呼吸が荒くなる。冷や汗が止まらない。吐き気がする。
その時、スマホの着信音がなった。呀神のスマホだ。急いで止めるが、遅かったようだ。窓が空いていたため、聞こえたのだろう。静寂が訪れる。窓の外を見ると、そのカラスはこちらの方を見て静止している。立ち上がったかと思えば、急に背が高くなったように見えた。暗闇の中でも多少目視できる。鳥ではない。それはまるで...
「人...間...?」
藤堂が小声で言った。それはたしかに人の形をしていた。頭はカラス、首から下は人間の形をしていた。頭にはくちばしが生えており、頭の天辺から首まで黒い羽に覆われていた。手にも黒い羽が生えており、翼に近いものを感じた。
その化け物は警戒を解いたのか再び座り込み食事を始めた。その間に二人を起こし状況を説明した。
窓の外を見ながら、呀神は小声で言った。
「ねぇ...なんかもう一人いない?」
見てみると、確かに何者かが化け物に近づいている。暗くてよく見えないが、身長が低めで小太りの男?であることはシルエットでわかった。
化け物が警戒しているのがよく分かる。今にも襲いそうなほど殺気立っているのにもかかわらず、男はポケットの中に手を突っ込んで至って冷静そうに見えた。化け物に向かってなにか喋っているが、距離があるため聞こえない。
すると男はポケットから何かを取り出して、それをカラスの方に向けた。
「あれって...銃じゃないよね...?」
本物の銃など見たことがないが、それはシルエットでもわかるように銃の形をしていた。
「そんなわけ...あれが銃だとしても、こんな町中で撃つはずないよ...」
瑠衣が言った。しかし、彼は少し震えているように見えた。
次の瞬間、化け物は突然倒れた。銃声は聞こえなかった。化け物は少し痙攣した後、その場で動かなくなった。
「ほんとに...撃った...!?」呀神が取り乱したように言った。
「いや、でも...銃声なんて聞こえなかった...」
「聞こえなかったんじゃなくて、そもそも鳴らないやつなんだよねぇ」
「何でそんなこと...」天満が聞き返す。
数秒の間が空いた後、違和感に気がついた。誰の声でもないのだ。
「今...誰が喋った?」
外を見ると、窓のすぐ横にドレッドヘアをした若い男が壁に寄りかかってこちらを見ていた。
眼の前の倒れている怪物...おそらく"TYPE CROW"と思われるものを見ながら、男は考えていた。
会話を試みたが、すでに知能は失っていた...また失敗のようだ。だが...収穫がなかったわけではない。
これも運命と呼ぶべきか...まさかここであいつの息子と遭遇するとはな...しかも見られるとは。
だがすでに任務は終わった...見られたのならばしょうがない...殺す...か...
...いや、あいつの息子...もしかしたらな...
そして、男はインカムのマイクにむかって指示を出した。
俺達の意識が化け物達に集中していたからだろうか、若い男は気配もなく窓の横に現れた。いつからいたのか見当もつかない。だが...ここ二階だぞ?
おそらく十代...俺達と同い年ぐらいだろう...褐色の肌を持つ彼は自分のドレッドヘアをいじりながら、睨みながらこちらを見ていた。
「ねぇ、君らさぁ...」表情と合わない、軽い口調だ。
「さっきの、見てたぁ?...まぁ、見てないわけないよねぇ...」
ポケットに手を突っ込みながら言った。全員身構えた。
「あぁ、ダイジョブダイジョブゥ。あれ銃じゃなくて、スタンガンだからぁ。あれも死んだってわけじゃないしねぇ」表情が変わって、笑いながら言った。
「君らも今は死ぬわけじゃないしぃ。ちょっと捕まるだけだからぁ」
「...何で捕まんなきゃいけねぇんだよッ!」呀神が怒鳴った。今にも殴りかかりそうだったが、藤堂が手で制した。
「いやでも言ってしまうとぉ、君らホントは死んでんだよぉ?」
場が凍りついた。本当は死んでいた?何を言っているんだ?こいつは...
男は窓の目の前に移動してうんざりした様子で話した。
「本来ならさぁ、目撃者は殺せって言われてんのにさぁ、なんでかボスから生きて連れてこいって言われてんだよぉ。まじなぜぇ?って感じぃ」
「つ...捕まえてどうするつもりなんだ...」
「おぉ、いい質問だねぇ」
ポケットの中から銃のようなものを出した。
「詳細は僕もよく知らないんだけどぉ、多分実験台にされるんじゃない?ああいう感じになると思うよぉ」
男はあの化け物を指さして言った。
「あでも大丈夫ぅ。動物のレパートリーはあるからぁ。でもそれは本人次第だけ...」
その時、呀神が藤堂の手を払い除けて窓の外の男に殴りかかった。
「あんなのになってたまるかぁああぁッ!!」
だが、そんな攻撃は虚しく、呀神は撃たれてしまった。
「うわああがぁぁぁあぁぁあああッ!!」
しばらくして呀神はその場に倒れた。首元にコの形をしたものが刺さっている。
「でも君らが悪いんだよぉ?」男が窓を超えて部屋に入ってきた。
「君らみたいな高校生がこんな夜遅くに起きてるからこんなことになったんだよぉ?」
話し終わってすぐ、次は瑠衣が撃たれた。声は発さず、数秒痙攣した後、動かなくなった。
「あ、でも僕も人のこと言えないかぁ」笑いながら藤堂が撃たれた。だが藤堂は、一発目では気絶しなかった。男を睨みながら起き上がろうとしていると「へぇ、君体強いんだねぇ」と言いながら躊躇なく二発目を撃たれた。さすがの藤堂も、気絶した。
最後に残ったのは俺だった。銃口がこちらに向けられる。
「一つ...質問していいか...?」少し震えながら聞いた。
「いいよぉ。一個までねぇ」
「...あの化け物は一体何なんだ?」
「これまたいい質問だねぇ」男は少し考えてから言った。
「...僕らは”キメラ”って呼んでるけどぉ、まぁ簡単に説明すれば、人間とある動物を合体させた人間だったもの...かなぁ」
人間と動物を合体させる...?そんなことができるのか?いや待て、元々人間だったものって...
「ほら、あっち見てみぃ。人間に戻ってるっしょ」
指さした方を見てみると、あの化け物だったであろうものは、ちゃんと人の形になっていた。
「あ、それともう一つ言っておくとぉ」何か思い出したかのように言った。
「僕も一応”キメラ”だよぉ。成功例の一人だけどぉ」
...は?何を言っているんだこいつは...自分もあの化け物と同じだと言っているのか...?
「僕はねぇ"TYPE PRAWN"...エビの能力を持ってんの...あ、流石に喋りすぎたかぁ」
そして銃口を向けて言った。
「じゃ、またねぇ。あ、次会うとき死んでるかもだけどぉ」
そして、体中に電流が走って視界が真っ暗になった。
廻間瑠衣 ♂️
めちゃめちゃ頭いいしプライド高い。けどビビリ。
何か作るのが好き。運動嫌い。