第9話
集中……、集中……。
そうやってしばらくすると、メテオラの両足の間にある杖がぷるぷると震え出しました。杖が空に浮かぼうとしていることが振動を通じてメテオラの体に伝わってきます。
うん。いい感じだ。悪くない。もうすぐ……、もうすぐだ。僕はもうすぐ、空に浮かぶことができる。マグお姉ちゃんのように軽快な動きじゃなくていい。不格好でもいいんだ。まずは空に浮かぶことが大事なんだ。
メテオラは集中します。
焦らない……。焦ったら……、また失敗してしまう……。慎重に……、慎重に……。
メテオラはゆっくりと両足を木製の足場から離してみました。
メテオラの体は落下しません。ぐらぐらと揺れてはいるけれどメテオラは確かに空の中に浮かんでいました。かすかな風が起こり始め、それはメテオラのローブを揺らし、長老の木の葉を揺らし始めます。マグお姉ちゃんは嬉しそうな顔をしました。
よし……。まずは第一関門突破だ。あとはこのまま……前に前進する……。
そのまま体の位置を調整し、細い杖の上で左右上下のバランスをとりながら、メテオラはゆっくりとだけど、確実に前方に進んでいきます。
「うん、いい感じだよ。メテオラ頑張って!」
珍しくはしゃいだ声の嬉しそうなマグお姉ちゃんの声が聞こえます。それくらいメテオラの今日の朝の飛行術の調子はよかったのです。
「はい……」とメテオラがよそ見をして、そんなマグお姉ちゃんに返事をした、そのときでした。
ぎゅん!! とメテオラの乗る杖がいきなり、なんの予備動作もなしに『最高速度まで一気』に加速しました。それは二人にとって予想外の出来事でした。
「あっ!!」とメテオラとマグお姉ちゃんが一緒に叫んだときには、もう遅かったです。
そのままメテオラは暴走する杖に捕まるようにして、空の彼方へと凄まじい速度で飛び立っていってしまいました。
マグお姉ちゃんの視界からはこの時点でもう、メテオラの姿は豆粒のようにしか見えなくなっていました。
マグお姉ちゃんは長老の木の太い枝を蹴りつけると、そんなメテオラの姿を追って、最高速度で空を飛びました。マグお姉ちゃんの表情に余裕はありません。