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憑かれたい彼女  作者: 橘しづき
カラカラ
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見てもらいたいもの



 人には見えないものが見えてしまうのを隠し通してきた僕、大山研一だが、バイト先で出会ったとんでもないオカルトマニアの美少女に色々巻き込まれ、ここ最近霊と近くなることが多くなった。


 このままじゃいけない。とにかく奴らには関わらないでおこう、オカルト好きの星野美琴にも注意しよう、そう強く決めた一週間後の事。


 たった一週間しか経っていないのに、僕はまたあの取り憑かれるのが夢な彼女に巻き込まれる羽目になる。





(……なんの音だろう)


 来客した人数分のお冷やを準備しながら、僕は首をかしげた。


 夕飯時のピークを迎えている午後七時。あとからあとからやってくる客に目が回りそうなほど忙しく働いているわけだが、そんなとき時折気になる音が耳に届いてくるのだ。



 カラカラカラカラ



 何か乾いた、軽いものが転がるような……そんな音が僅かに聞こえる。周りは人々の話す声や店内のBGMなど騒がしいというのに、はっきりと耳に届いてくる。決して大きい音ではなく小さな音なのだが。果たしてどこから聞こえてくるのだろうか。


 入れ終えた水を持って客のテーブルへ向かう。いつのまにかあの音は消えていた。


 働いている時、ふとした時に聞こえてくる。周りを見渡しても何もない。不思議に思いながらも特に深く考えずにいた。


「ふいーっ。今日は結構客が多いなー」


 一旦裏へ入った時、ちょうど同じタイミングでやってきたノックが言った。いつのまにかそこそこ仲良くなった同い年のバイトの男の子だ。


「忙しいね」


「ホール人数厳しいよなーもうちょっと増やしてほしい」


「そうだね、この時間は人多いし……」


 そう言いながらあたりを見回した時だ。料理を運び出す人の姿が目に入る。こんな忙しいのに汗ひとつかかず、涼しい顔をしている星野美琴だった。相変わらず作り物のように綺麗な顔立ちをしている。


 ノックがこそっと僕の耳元で言った。


「星野はどれだけ忙しくても変わらないよな〜」


「確かに慌ててるとことか見たことないかも……」


「で? 告った?」


「ば、ばか言うなよ! ぜんっぜんそんなんじゃないから!」


 慌てて否定する僕を、ノックはニヤニヤと見ている。だが決して嘘はついていない、本当に僕と彼女はまるでそんな関係ではないのだ。


 地味眼鏡の陰キャラな僕と飛び抜けた美少女、まず釣り合いも取れてないし、何より彼女はその外見を凌駕するやばい面がある。


 僕たちの会話は聞こえていないのか、星野さんは料理を持ったまますっと隣を通り過ぎた。背筋をしゃんとしたその姿はいまだに見惚れてしまうこともあるほど綺麗だ。



 カラカラカラカラ…………



「あ」


 小さく声を漏らす。


 あの奇妙な音がまたしっかり耳に届いたのだ。


「どうした大山?」


「あのカラカラって音何かな?」


「え、音って?」


 耳を澄ます動作を見せるも、ノックにはわからないようだった。そこまできてようやく、ああ僕にしか聞こえていないものかと理解する。


 こう言うことはよくある。僕にしか見えない、感じない、聞こえないこと。


「あーなんでもなかった、うん。大丈夫」


 そう慌てて言うと、忙しいホールへと戻っていった。






「大山くんお疲れ様」


 バイト上がりの時間になり、着替えを済まして更衣室を出た。疲れて肩を落としているところに、凛とした声が響く。振り返ると、星野さんが私服姿でこちらをみていた。


 今日は黒いワンピースを着ていた。彼女の白い肌が映える。


「あ、お疲れ様……」


「今日忙しかったね」


 話しながら自然と僕の隣に並ぶ。ふわりとなんだか甘い香りがしてついドキドキしてしまった。なんで女の子ってこんないい匂いするんだろ、僕と何が違うっていうんだ?


「でも大山くんも結構慣れてきたね」


「そう、かな」


「慣れるの早いと思うよ」


「え、そうかな」


 二人で裏口から外へと出ていく。もうすでに外は真っ暗だ。夜道を女の子と二人で歩くなんて経験をしたことない僕はやや緊張してしまった。まだ道は車通りも多く明るい。さて帰路につこうか、と言う時、星野さんが言った。


「そういえばね、昨日クッキー焼いたんだ。たくさん作っちゃったから大山くん食べないかな? 色々お世話になってるし」


 そう言って、持っているやたら大きなカバンを漁った。僕はぎょっとして隣を二度見する。て、手作りクッキー、だと? こんな可愛い子の??


「はい、これ」


 ちゃんと小袋に入れられた見た目綺麗なクッキーを、感激で心震わせながら受け取った。まさかこんな地味キャラの僕がこんなものをもらえる日が来るなんて。深い意味なんかじゃなくても十分嬉しい。


「う、嬉しいよありがとう!」


「ふふ、美味しいといいんだけど」


「すごく美味しそうだよ! 大事に食べるね!」


「あ、それとちょっと見てもらいたいものがあるんだけどいい?」


「いいよいいよ、どうしたの?」


 顔面の筋肉をゆるゆるにしながら僕は深く考えずに返事した。頭の中はクッキーでいっぱいだった。


 星野さんは嬉しそうに笑ったあと、再び鞄を漁る。そして取り出したものを見て、僕のクッキー脳は一瞬で停止することになる。


 一体のフランス人形だった。


 大きさは三十センチほどだろうか。なかなか年季の入ったものらしく、着ているヒラヒラとしたクリーム色のドレスは色がくすんでいた。ヘッドドレス下の髪の毛はやけにボサボサだ。真っ白な肌に頬だけ桃色になっていた。そして何より、じっとこちらを見ているような黒い瞳は生きているかのようで息が止まる。


 僕は数歩後ずさりした。その人形からとてつもなく嫌なものを感じ取ったからだった。




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