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憑かれたい彼女  作者: 橘しづき
喰うもの
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見舞い


 視えてしまう僕、大山研一と、全く視えないオカルトマニア星野美琴は同じファミレスでバイトをしている。


 なるべく霊になんて関わりたくないのに、彼女のせいで色々と首を突っ込む羽目になっている。最近、自分の弱気な態度などが原因の一つであるとも自覚しているのだがなかなか性格とは直らないものだ。


 星野美琴は綺麗な子だけどすごく変わっていて、掴みどころのない不思議な女の子だ。







「いやー星野に見舞いに来てもらう日が来るなんて思ってなかったよ! 悪いなー」


 ベッドの上で明るく笑うノックに、僕と星野さんは笑い返した。星野さんが持っていた紙袋を出す。


「怪我なんだし食事制限なんてないよね? お菓子の詰め合わせ、お見舞いに」


「まじ! ありがとう星野!」


「あ、僕は漫画……」


「大山も助かる! 暇で死にそうなんだよー」


 明るく言う彼は、僕らと同じバイトの野久保、通称ノックだ。先日三人でとある恐怖体験に出会った。それはもう解決したのだが、ノックはそのとき足を骨折してしまい入院することになってしまった。


 一緒の現場にいたのだし、お見舞いくらい行こう、ノックは仲のいい友達なんだし。そう心で思っていると、星野さんから誘いが来た。『一緒に野久保くんのお見舞いに行かない?』と。


 流石に断る理由はない。お互いの予定が合う今日、二人でノックが入院する病院へきたと言うわけだ。


 入院前はあの日の恐怖体験に怯えていたノックだが会ってホッとした。もう解決したとわかるや否やこの元気さだ、まあそれが彼のいいところか。細かいところは気にしないというか立ち直りが早いというか。


 ノックは僕が渡した漫画をパラパラめくりながら言う。


「入院生活がこんなに暇だとは思わなかったわ。俺人生初入院なんだよねー」


「僕もないなあ」


「私も。だからこんな大きい病院なんて来る機会ないのよね」


 珍しそうに星野さんが周りを見渡した。僕も釣られて見てみる。


 ノックの部屋は大部屋で、四人床だった。一つ一つのベッドにはカーテンで仕切りがある。彼は窓際で、ベッドと小さな物入れ、テーブルがあるくらいで、ああとはパイプ椅子を置くだけでパンパンになる狭い空間だ。


 病院はそこそこ古いところらしく、外からも中からも年季が感じられた。壁や床、天井などだいぶ昔に建てられたと見た。でも患者は多くいるので、利用者はたくさんいるらしい。

 

 他にも患者さんがいるので、僕は声のボリュームに注意しながら話をつづけた。


「経過はどう?」


「順調だよ、大丈夫。早く退院したいよ」


 指で丸を作る彼にホッとする。どうやら調子は良さそうだ。


「バイトもノックがいないと寂しいよ」


「嬉しいこと言ってくれるじゃん大山、でも大山より星野の口から聞きたかった」


「本当元気そうだね」


「はは!」


 穏やかに談笑しているときだった。閉められたカーテンの向こうから、控えめな声が聞こえてきたのだ。


「コンコン」


 僕たちは振り返る。口でコンコンって言ったぞ? キョトンとしてるとすぐにノックが反応した。


「ともや?」


「今いーい?」


「おいで!」


 ゆっくりと薄い黄色のカーテンが開けられた。そこに立っていたのは青いパジャマを着た少年だった。年は十二前後だろうか? あどけない顔立ちの可愛らしい男の子だ。


 ともやと呼ばれた彼は、手に持っていた紙袋を差し出す。


「これ、お菓子お裾分け! お兄ちゃんの友達も!」


 白い歯を出して笑う彼から、星野さんがゆっくり紙袋を受け取った。中にはお見舞い品であろう焼き菓子が少し入っている。


 ノックが言った。


「いいの? ともや食べればいいのに」


「ううん、いっぱいあるから」


「ありがと、ともやも一緒に食べる?」


「うん!」


 嬉しそうに笑う少年は、ノックのベッドに腰掛けた。僕と星野さんにノックが紹介してくれた。


「隣のベッドに入院してるともや! 時々喋ったりしてるんだ」


「こんにちは!」


 なるほど。隣に入院している子供と仲良くなったらしい。ノックっぽいなあと感心した。


 星野さんが少し微笑んで挨拶をする。


「星野美琴です」


「大山研一です」


 僕らの自己紹介に、ともや君は嬉しそうに笑う。自分の顔が綻ぶのが分かる。


 ノックが言う。


「ここ小児科も混合で入ってるんだよね。と言っても子供少ないみたいで、俺は怪我で動けなくて暇なのを相手してもらってるんだ。こうやって差し入れ交換したり!」


「僕はお兄ちゃんよりずっと前から入院してて、もっと暇だったんだよ。前は隣怖いおじいちゃんだったから話せなかったし。最近はおしゃべりできて嬉しい!」


 足を揺らしながらベッドに座っている彼に笑った。人懐こい子だな、と感じた。


 ともや君の話を聞くに、彼はもう三ヶ月前から入院しているらしい。ぱっと見点滴や怪我も見当たらなくて、健康児のように思えたが、重い病気なのだろうか。

 

 四人でお菓子を食べながら話した。ともや君は楽しそうに笑ってノックによく懐いているのがわかる。星野さんも口数が少ないなりにともや君と優しい顔つきで話していた。


「あれ、ともやくーん?」


 少し離れたところから声が聞こえる。呼ばれた彼が慌てて声を上げた。


「はーい!」


 すぐにカーテンが開かれる。看護師さんだった。僕たちに軽く会釈だけした若い女性は、ともや君に声をかける。


「検査の時間だから。おしゃべりは一旦おしまい」


「はあーい」


 残念そうに口を尖らせるともや君は、僕と星野さんを見上げて言った。


「またきてね、お兄ちゃんお姉ちゃん!」


 か、かわいい!


 普段子供と接する機会なんてないが、こんな弟とかいたらなあ、と思ってしまった。星野さんも笑っている。


 看護師さんがともやくんに言った。


「あ、一枚上羽織っていこうか」


「はーい」


 そういうと、すぐ隣にあったカーテンが勢いよく引かれた。ずっと見えなかったともや君のベッドがチラリと目に入る。やはり大人のノックとは違う、おもちゃなどが置かれている乱雑なベッドが微笑ましく思ったが、すぐに他のことに意識が行った。


 ベッドに一人、子供が座っていた。


 こちらに背を向けた小さな子だ、四、五歳ほどか。長い黒髪だけが見える。多分女の子なのだろう、微動だにせずそこに座っていた。


「カーディガン着ておこうか」


「うん」


 その女の子を通り抜け、看護師さんとともや君が会話しながらそばに置いてあった服を手に取る。二人とも女の子については何も口に出さない。その不思議な光景をただ見つめていた。そしてともや君と看護師さんはこちらに向かって手を振った。


「ばいばーい!」


 その言葉を合図に再びカーテンが閉じられた。目の前が布で遮られる。


……なんだ、今のは?


 ほんの少しの時間だったせいか、唖然としたまま終わった。そしてようやく気づいた瞬間、僕の体の奥底から数千匹の虫が登ってくるようなゾワゾワとした気持ち悪さが襲う。


 たった数秒見えた子供の後ろ姿。それなのに、どうしてこんなに怖い?


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