ある日増えていたデータ
僕はイヤイヤながらも手にした。心霊写真は大概ヤラセだとわかっているからなんとか可能だったのだ。
パラリとページを捲る。一番最初に見えた写真はやや古いものだった。にこやかにピースする男女の後ろに、白い女の顔っぽいものがある。それを見てほっと息をつく。
今までもよく見てきた類のものだ。僕の直感、「これは本物じゃない」という確信。
「いやな感じはしないね」
「そう……」
残念そうに言う星野さんを置いてページを捲る。やはり全体的に古びたものが多い。中には鮮明な色のものもあるが、そうなると逆に幽霊たちが浮いて見え、なんだか違和感だ。
「あ、この集合写真はほらここの腕が多いんですって」
「ふうん」
「これはわかるね、首が綺麗に消えちゃってる」
「そうだね」
「これはこっちとあっち、それからここにも顔らしきものが……」
「うんうん」
意気揚々と説明してくる星野さんに適当に相槌を打つ。どれもこれも、テレビ番組でよく見るようなものたちだった。陳腐でつまらなくて胡散臭い。いや、多くの人たちを楽しませるものとしてこういうものがあることを否定はしない。創作としてはよくできている。
「その様子じゃダメね……」
僕の顔をみて星野さんは残念そうに眉を下げた。今まで彼女には怖い思いばかりさせられている身としては、何だか嬉しくなってふふっと笑みが溢れてしまう。
「まあ、心霊写真って僕が見てきた中じゃほとんどがヤラ」
そう言いながらページを捲った時だ。
自分の手がピタリととまる。
目の前にあった写真は、ごく普通の写真だった。家の中と思しき場所で、小さな男の子が無表情でこちらを見ている。年齢は七、八歳くらいだろうか。背景には少しくたびれたソファや生活感のあるテーブルが映り込んでいる。
その写真は、今までの物たちと比べて色合いが鮮明にみえた。恐らく、ここ最近の写真だと思う。
少年は何をするでもなく棒立ちだった。ただ覇気のない顔だちでこちらを見ているだけの写真。ちょっと子供っぽくないな、という印象だ。ただそれだけで、他に怪しいところは何も見当たらない。
「…………?」
その写真を目にした時、自分の中の何かが酷く動揺した。
目を凝らしてみてもやはりなんの変哲もない写真。顔や手が写ってるだとか? 少年の体の一部が消失しているだとか? 細部まで注目してみても見つけ出せない。
それなのに僕は、この一枚の写真に酷く恐怖心を抱いた。得体の知れない何かを見つけたような、モヤモヤしたような……。
僕の手が止まっているのに気づいた星野さんがアルバムを覗き込む。そして、ほうっと感嘆したように言った。
「やっぱり大山くん、さすがだね……」
「え、え?」
「今回持ってきた写真の中で、本命はこの写真なの。ぱっと見なんの異常もない写真なのに、よくわかったね」
彼女はうっとりするように写真を眺める。僕も再び視線を落としてみたが、やっぱり何も変なものは写っていない普通の写真だ。
「で、でもこれ何が心霊写真なの? どっか変なところある?」
「ああ……普通にみただけじゃわからないよね」
星野さんは僕からアルバムを取った。じっと見つめながら詳細を説明してくれる。
「この写真に気づいたのはある家の奥さん。ある日スマホを見てみたら、アルバムの中に知らない写真が勝手に増えていた。それがこの写真」
「はあ、まあ勝手に増えてたなら確かに不気味だけど。誰かの悪戯とかじゃなくて?」
「そう思うでしょう。ところが、この写真が入っていたスマホっていうのは奥さんのスマホじゃないの」
「え?」
「その奥さんの、亡くなったお子さんのスマホ」
どきん、と心臓が鳴った。星野さんは少しだけ口角を上げる。
「小学生の息子がね、事故死しちゃって。その子が使っていたスマホらしいの。時々思い出に浸るように電源を入れて写真を見てたんですって。そしたらある日突然この画像が増えていた。
流石に悪戯じゃないでしょう? 家から持ち出すことなんてしないし、何より亡くなった子のスマホにだなんて不謹慎だもの」
「そ、れは確かに……」
恐らく普段は遺品として大切に保管しているだろう。そこにある日突然画像が増えている。確かに不気味な事この上ない。初めてこれを見つめた時はかなり驚いたことだろうと思う。普通の写真でないことは確かだ。
でも……。
写真に映る無表情の青年を眺める。死んだ後も自分の家に戻ってこられるなら、僕はさほど問題ではないと思う。どこかで彷徨って寂しがってるよりマシじゃないか。
それに。
「もしかして、いつまでも悲しんでるお母さんに何か伝えたかったのかなあ」
亡くなった少年からの、無言のメッセージだとか。




