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憑かれたい彼女  作者: 橘しづき
落とし物
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叫んで逃げ出したい


 みえざるものが視えてしまう僕、大山研一は、全く視えない鈍感なオカルトマニア、星野美琴にこの能力がバレてからやけに懐かれてしまっている。


 バイト先が同じファミレスなのだが、シフトが被った時はいつも僕の着替えを外で待ち、途中まで一緒に帰るのが当たり前になってきた。


 勿論それは「この前手に入れた曰く付きのコレクション」の話とか、「この周辺で出ると有名なスポット」だとかの話題ばかりだ。正直うんざりしている。


 顔だけ見れば清楚な美少女の星野美琴が、なぜこんな地味メガネの僕なんかに付き纏っているのか、周りの人たちは随分と不思議がっている。







「ちょっと困ってるの」


 時刻は十七時。赤い陽が僕らを照らしていた。


 いつものようにバイトが終わったあと、待ち伏せされた星野さんとゆっくり歩きながら帰宅している時、彼女が眉を下げてそう言った。


 普段はどんな時でも焦ることなく涼しい顔をしている星野さんが困ったように言ったので、僕はつい驚いて隣をみる。


「え!? 何、どんな恐怖体験が!?」


 この子は一人でやばい廃墟に行ってそこから物を持ち帰ってきたり、曰く付きのグッズを数多く(いくつあるかは怖くて聞いてないが)持ってたりする最高のオカルトマニア。取り憑かれるのが夢だそうだが、ついにその夢が叶ってしまったのかと疑った。


 だがぱっと見、星野さんに変なものは見ないのだが……


「財布落としたみたいなの」


 彼女の形のいい唇から漏れてきたのはそんな言葉で、僕は安心した。まさか、星野さんからこんな人間らしい相談を受けるなんて。ホッとして申し訳ないな、財布を落としたのは確かに大事だ。


 僕の様子に気づいたのか、彼女は不服そうに言った。


「なんでそんな嬉しそうなの」


「あ、ごめん、てっきりまたオカルト話かと思ってたから……でもそれは困るね! いつ気づいたの」


「今日バイト始める前に気がついたの。多分昨日落としたんだと思う、外出してたから」


「警察とか、駅とか聞いてみた?」


「警察には電話して聞いてみた。届いてないっていうから、まだ拾われてないか盗まれちゃったか」


 ふうとため息をつく様子は本当に「ただの美少女」で、こんな時だと言うのに僕は見惚れてしまった。これでいい、こうやって普通の話をしていてくれればいいのに。


「現金はそんなに入ってないんだけどね。ほら財布ってカードとか身分証明書が……」


「うん、そっちが大変だよね……」


「今から昨日落としたと思う場所に探しに行ってみようと思って」


「そうなの? よければ手伝おうか、探すのに二人の方が早くない?」


 財布がないというのは確かに大変だ、星野さんは顔は凄い美少女だし、顔写真付き、住所付きのものが変な人の手に渡ってしまったら、それこそお金の問題より大きいかもしれない。


 星野さんはぱっと表情を明るくさせた。


「いいの? すごく助かる」


「うん、別に暇だしいいよ、それでどこで」


「じゃあ私の家に一度行って車でいきましょ。ね」


 星野さんはそう言って足を速めた。彼女の車に乗せてもらうのはもう何度目だろうか、普通車を出すって男の役割だと思うが星野さんは気にしてなさそうだ。


 僕は純粋に星野さんの財布を早く見つけ出さなきゃ、という思いを抱きながら、彼女の背中を追いかけた。


 少し歩いたところに星野さんの住む綺麗なマンションが目に入る。本人には聞いたことないが、多分この子は金持ちの家のお嬢様だ。僕のオンボロアパートのうん倍の家賃に違いない。


 その後慣れた車に乗り込みすぐに発進する。行き先が心霊スポットや事故物件でないことに少しだけ心躍らせながら、僕は助手席に座っていた。


 ハンドルを握った星野さんもどこか機嫌良さそうに運転していた。財布を落としたと言うのにその余裕ぶりに少し不思議に思った。


「えっと、それでどこに行くの? 何箇所かまわる感じ?」


「ううん、落とした場所は目星ついてるの。いろんなところに行くわけじゃないよ」


「そっか。誰にも拾われてなきゃいいけど……」


「ふふ、多分拾われてないとは思うんだけど」


 意味深に呟く彼女の横顔をみる。星野さんは赤信号で一旦停車したとき、ポケットからいつものように小袋に入った鷹の爪を取り出した。


 ドリンクホルダーにそれを立てると、まるでスナック菓子を食べるようにパクパクと食していく。青信号で車が動いてからも、定期的に食べ続けた。飲み物もなくてよくあんな物食べれるな、といつものごとくドン引く。


 車はスピードをあげてどんどん進んでいく。赤かった空はもう薄暗くなってきていた。特に何も言わず車に揺られていた僕は、次第に疑惑に包まれた。


 それは道がどんどん田舎道というか、人気のない場所へ向かっていったからだ。多かった対向車が徐々に減っていく。アスファルトは舗装がしっかりされていないのか、車の揺れが強くなってきた。


 てっきりどこかの街とか店とかにいくと思い込んでいた僕は、体を揺らしながら疑問に思う。


 そこになってようやく、隣の星野さんに問いかける。


「えーと、それで。どこにいくんだっけ?」


「ついてからのお楽しみ」


 嬉しそうに言った彼女に、目の前が真っ白になった。


 出た。心霊スポットだ。また汚らしい廃墟にでもいくに違いない! しまった、こんなことなら探すの手伝うなんて言わなければ!


 ワナワナと焦る僕に気づいたのか、星野さんは少し笑う。そして言った。


「廃墟とかじゃないから安心して」


「え? そうなの? じゃあ」


「樹海」


 これが走行中の車でなかったら、僕は叫びながら飛び降りて逃げ出したに違いない。






 結局逃げ出せないまま、僕は星野さんに樹海に連れられた。外はすでに暗くなってしまっている。こんな時刻にこんな場所にいるなんて、僕は前世で一体どんな罪を犯したっていうんだろうか。


 やや気温の低めの空気。木々の葉が風に揺れて奏でる音はリズムカルに聞こえた。勿論周りに人なんておらず、僕たち二人の姿しかない。


 適当なところに車を停めた星野さんは嬉しそうに降りて懐中電灯を取り出した。彼女の車がなくては帰れない僕はもう腹を括ってスマホのライトをつける。心細い灯りだった。


 恨みをたっぷり込めた視線で隣を睨んだ。


「またこんなところに一人で来てたんだ……何してたの、首吊りに使ったロープでもコレクションしてるってわけ」


「やだ、私そんな悪趣味じゃないよ」


 彼女の中の基準がまるでわからない。今まで欲しがっていた曰く付きのグッズは僕からみたら全て悪趣味もいいところだ。


「こんなところ一人で肝試しにきてるだけで十分悪趣味だよ」


「そう?」


「早く財布探そう。言っておくけど僕はこの樹海で幽霊を探す気はちっともないんだからね」


「残念」


「ほんとに! どの辺いくの!?」


「財布の落とし場所には心当たりがあるの。こっちよ」


 星野さんは懐中電灯を持ったまま草が生い茂る中へ躊躇いなく足を踏み入れた。僕は顔を歪めながら後に続く。一歩進むたび小さな虫が飛び交うのに不快感を覚えた。


 まさか迷子にもなりそうなこの広い樹海を歩き回されるわけでは、とゾッとしていると、意外にも前を歩く星野さんはすぐに足を止めた。振り返って僕に言った。


「ここよ、この辺。この辺で私鞄を漁ったの」


「え、ここ?」


「写真を撮りたくて。それ以降鞄は開けてないから間違いないと思う」


「写真って一体なにを」


 そう聞き返そうとした僕は、星野さんが立つ背後にあるものを見つけた。


 樹齢どれくらいだろうか、幹が太くしっかりした大きな木。そこにある異質なもの。


 藁人形と五寸釘だった。






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