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憑かれたい彼女  作者: 橘しづき
彼氏、彼女
19/39

突然の訪問者


 視えないくせにオカルト好きで取り憑かれたい星野美琴と、視えるからこそ霊とは関わりたくない僕、大山研一は同じファミレスでバイトしている仲間だ。


 視えてしまうことでやたら懐かれてしまった僕は、ことあるごとに星野美琴に心霊話に巻き込まれている。


 でもバイトが休みの時は偶然街中で会ったりでもしなければ関わることはない。


 そう踏んで穏やかに日曜日を一人アパートで過ごしていた時だ。






 六畳ほどの狭すぎる部屋に小さなテレビとテーブル、固いベッドがあるだけの質素な部屋で僕は適当にバラエティ番組を見ていた。


 時刻は十五時。昼食は家にあるインスタントラーメンを食べ、そのゴミすらまだテーブルに置きっぱなしのぐうたら休日だ。


 実家は決して裕福な家でもないので、一人暮らしをするアパートは安いところを選ばざるを得なかった。築年数もそこそこ、壁も薄いこのアパートはなかなかボロい。


 それでも便利さだけはまずまずなので住むところとしては気に入っている。女子でもあるまいし、おしゃれだったりセキュリティだなんて気にしてないのだ。


「小腹すいたなあ。カップ麺だけじゃ足りないや」


 テレビを見ながらそう呟く。冷蔵庫なんかあったっけ。冷凍しておいたご飯でも食べようか。そろそろ買い物にも行かないと食料がやばいな。


 そうぼんやり考えていたときだ。


 この古いアパートのチャイムが部屋中に響いたのだ。やたらでかい音は隣の部屋まで聞こえているだろうというくらい。


「……勧誘かな」


 僕はボソリと呟く。尋ねてくる人なんてそれくらいしか思いつかない。実家から荷物なら多分送ったよって連絡くるはずだしな。宗教とか、新聞とか、そういうもんだろ。


 そう思って無視を決め込んだ。テレビに再び視線を戻すが、再度インターホンの音が鳴り響いたのだ。


 ピンポーン


「……?」


 なんとなく気になった僕は立ち上がる。足音を立てないように静かにモニターに近づいた。オンボロアパートだが幸いカメラ付きインターホンなのだ。最近つけたらしい。


 何気なくそれを覗き込んだ瞬間、僕の喉から変な声が漏れた。


「ひょ!!」


 思わず二、三歩後退する。そこにはひとりの美少女が立っていたのだ。白い肌に長い黒髪、人形のような整った顔立ち。


「ほ、星野さん……!?」


 慌てて玄関へ向かっていった。一体何事だ、僕の家の前に美少女(難あり)が待ってるだなんて!?

 

 がちゃんと鍵を開けてみる。するとやはり、目が眩んでしまうほどの透明感のある女の子が立っていた。


「あ、よかった大山くん。いた」


 僕の顔を見てにっこり笑う。慌てふためきながら言った。


「ほ、星野さんどうしたの!? てゆうかここの家」


「何度か大山くんを送ってるからとっくに知ってるもの」


「……そうでした」


 思えば、心霊スポットだったりお寺だったり事故物件だったり、いつも車を持ってる星野さんが運転して帰りは僕をここの前まで送ってくれてるんだった。とっくに僕のアパートはバレていたんだ。


 とはいえ、突然の訪問とは。


「で、でも一体急にどうして」


 言いかけてハッとした。もうひとり、おずおずと顔を出してきた女の子がいたのだ。


 見知らぬ子だ。ボブの髪に小柄な身長。おとなしそうな彼女はどこか青白い顔をしていた。困ったように僕に頭を下げる。


「……ええと、どちらさま?」


 僕が首を傾げて尋ねると、星野さんが凛とした声で説明してくれる。


「私と同じ大学の土屋さん。今日は大山くんに相談したいことがあって訪ねてきたの」


 土屋さんと呼ばれた子は申し訳なさそうに再度僕に頭を下げた。僕に相談したいこと、という言葉ですぐに理解する。


 やっぱり。やっぱり、そういう系のために訪問したわけか……。


 いや分かっていた。星野さんが僕に近づいてくる時は決まってオカルト話つき。視えてしまう僕がおもしろくてならないのだ。


 頭を抱えながら答えた。


「あの、星野さん。大体想像つくんだけど」


「さすが、理解が早いね」


「僕はさ、その、祓うとかそういうことできるわけじゃないからさ。相談されても力になれないと思うし」


 実際のところ、霊をちょっとビビらせる、程度のことはできる。でも除霊とかそういう大したものは出来ないのだ。


「分かってる、でもこういう話聞いてくれるだけでも本人はありがたいと思うの。土屋さん困ってるみたいだから」


 そう言われてちらりと土屋さんを見た。確かに、眉を下げて小さくなっている彼女は困っているようだ。でもそれって、突然知らない男の部屋に連れてこられたからっていうのもありそう。


 ううんと考え込む。確かに視えない人間ばかりの中で、不可解な体験をしたときにすごく怖いし絶望する。僕はばあちゃんが視える人で話を聞いてくれたからずいぶん救われたもんなあ。それに土屋さん、顔色悪くて体調にもきてるのかも……?


 普段面白がって首突っ込んでるパターンとは違って、本当に困ってる人がいるなら……少しは力になってあげたい、と思う僕は人がいいのだろうか。


「分かった、力になれるかわからないけど」


 そう返事をすると星野さんがぱあっと笑顔になった。


「よかった! じゃあちょっと上がらせてもらうね」


「うん狭いけど……ってちょっと! ちょっと、あの、五分そこで待っててくれる!?」


 慌てて二人が上がるのを止めた。そして一旦扉を閉めて部屋へ駆け込んでいく。まさかこの部屋に女の子を上げる日が来るとは思っていなかった! 


 汁が入ったままのカップラーメン容器や、友人から借りたいかがわしい雑誌などを急いで処理する。テーブルの上を拭いて窓を開け、ラーメンの残り香をなんとか消そうと悪あがきをした。


 ぱっと見そこそこ片付いた部屋に見えるように変身させ、ようやく僕は玄関へ二人を迎えに行った。


「お、お待たせ……ごめんね狭いんだけど」


 僕の促しに、土屋さんはゆっくりと部屋の中に入ってきた。星野さんも続いて入ってくる。二人が靴を揃えて脱ぐ姿になんだか感動しながら、これだからモテない男はダメなんだと喝を入れた。


 小さなテーブルを囲んで座り込む。とりあえずお茶ぐらいは冷蔵庫にあったので、なるべく綺麗なマグカップを選んで二人の前に置いた。自分の部屋だというのにガチガチに緊張しながら二人の正面に座り込む。


 土屋さんはやっぱり体調が優れなさそうな顔をしていた。凛として背筋を伸ばした星野さんとは違い、やや背中を丸くして緊張している様子が伺える。おとなしそうな子で、正直星野さんの友達には意外なタイプな気がした。


「え……っと、大山研一、です」


「あ、突然すみません。土屋るみと言います」


「土屋さん。なんか悩みでもあるんですか?」


 早速本題に入ってみた。星野さんは出されたお茶を飲んでいたが、土屋さんはコップに口をつけることなく話し出した。


「えっと、私が悩んでるっていうか。彼氏についてなんですけど」


「彼氏?」


 なんだ、彼氏いるのか。……なんてガッカリしたのは心の中だけに秘めておこう。お年頃の男子の脳内はこんなもんだ。


「ええと、彼氏さんがどうしたんです?」


「ずっと肩が重いって言ってて。あと夜すごくうなされたりするみたいなんです。本人は疲れてるせいかなって考えてるみたいなんですけど、私は心配で……」


「肩が重くて夜うなされる……他には?」


「いえ、それぐらいです」


 申し訳ないがずっこけてしまうかと思った。いや、本人は悩んでるんだろう。でもそれは怪奇な現象というより、疲れやストレスからよくくる現象だ。怪奇な方に話を持っていく方が強引とも思える。


「そ、それは……疲れてる、とかじゃないのかなあ」


「あの、私もそれは思うんですけど。こういうこと言うのあれなんですけど、彼すごく人気者でもてるんです。だから変な女の子が逆恨みとかしてないかなって」


 やたら視線を泳がせるように言う土屋さんをみて、なんとなく納得した。これはあれだ、土屋さん自身も恋愛に疲れてるのかな。モテる彼氏を持ってる悩みが行きすぎちゃってる感じなのかも。


 僕は困ったように星野さんに視線を送ったが、彼女は黙って土屋さんをみている。ううん、どうしたものか。


「えーと、じゃあ土屋さんじゃなくて彼氏さんと会うのが一番かな」


「彼はそう言う類の話信じないと思います。私がこうやって悩んでることも知らないから……」


「ううん、困ったな」


 腕を組んで唸る。ようやく星野さんが口を開いた。


「彼氏って誰?」


「え? 星野さん知らないの?」


 僕が驚いて声を出す。彼女は頷いた。


「土屋さんともこの前初めて喋ったの」


「……ああ、そう」


 仲良い友達、ってわけじゃないのか。納得。


 土屋さんは少し顔を緩ませた。そして鞄の中からスマホを取り出し画像を僕たちに示す。男友達と映ってる一人の青年が笑っていた。


「この子です、真ん中の」


「は〜……確かにモテそうだ」


 僕は唸った。自分とは正反対のキラキラ男子だ。中性的な可愛らしい感じの顔立ちと、明るいキャラが伝わってくる笑顔。こりゃ彼女としては心配かもなあ。


 土屋さんは嬉しそうに笑った。


「大学の先輩で……明るくて優しい人なんです」


(ここにきて惚気か。ご馳走様です)


「本当モテる人だから心配で。まあ、ただの体調不良とかならいいんですけど……いつも困ったように首を回したり、体調悪くて大学休むこともあるみたいで……」


 俯いて心配そうに言う彼女に、とりあえず僕は慰めの言葉をかけた。


「ええっと、肩が重くて眠れないことぐらい誰でもあるし、やばいのに憑かれてたらそれどころじゃなくなるし」


「そうなんですか……?」


「うん、ちょっと様子見でもいいんじゃないかなあ。もっと悪化するようなら彼氏と一緒にくればいいよ」


 多分来ないだろう、と踏んでいた。これは土屋さんの心配が行きすぎただけだ。多分この彼氏は憑かれてるわけじゃない。


 僕の言葉に彼女は少しほっとしたようだった。ようやく出したお茶を少し飲み、そのまま彼氏について少し話たあと、晴れた顔で僕の家から帰宅していった。


……なぜか星野さんを置いて。



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