第二部「破滅を照らす者:断罪の天秤」その7
目次
第18章「最期への疑問」
第19章「鏡面を覗いて」
第20章「己なき世界へ宛てて」
第21章「仲間」
第22章「未来の為に今を行く」
あとがき
第18章「最期への疑問」
「…まだ解決してない事がある。先ずはあんたが何で手鏡野郎を殺したくねぇと思ってたのか…結局、どうやって手鏡野郎を殺したのか…そして…」
【星次はそういうと、ポケットからメモを取り出した。】
「あんたが書いた遺書について…だ。」
「やっぱり…遺書って聞き間違いじゃ…」
「お前らはコレ読んでろ。話を聞きながらでも読めるだろ?」
【星次はそういうと、少し強引にメモを流輝と春喜に押し付けた。】
「え…いや…読めますけども!コレ遺書なんですよね!?話を聞きながら同時に情報処理できるような内容じゃあ…」
「とりあえず読んでみるっすよ。」
「あ…はい…ってこのメモ下の部分が破れてますけど?」
「メモが…?」
「気にすんな、最初からだ。」
【流輝の言葉を聞いた彼女が何か言及しかけたが、星次が彼女の言葉を遮るようにそう言い放った。】
何かジョゼフィーヌさんが言いかけてた気がするけど…
俺と春喜さんが寝てる間に誰かと戦ってたみたいだし、それでジョゼフィーヌさんも気付かないうちにメモが破れてたとかかな…?
「お前らはさっさとそれを読め。そんで…あんたには質問に答えてもらう。言え、何で手鏡野郎を殺したく無かったんだ…?」
「それは…」
いや!もっと聞きたいことあるんですけど!?
でも…
【流輝は彼女の表情をちらりと見ると、すぐにメモへと視線を戻した。】
何かめちゃくちゃ重たい表情してるし…
覚悟がいりそうな雰囲気してるから話ずれぇえぇ…!
【彼のその様子を見ていた春喜は、彼の肩に軽く肩を置いて、小さく声をかけた。】
「今は何か星次君がいつもと違う感じになってるし、ジョゼさんもちょっと打ち明けるのがなんて言うか…大変そうなんで、今は静かにしとくっすよ。」
「は…はい…じゃあ…俺達はコレ読みましょうか…」
え…?
何か春喜さんの雰囲気が変わりすぎじゃない?
まぁたまにこんな感じになったりしてたけど…
何か違くない…?
…えぇい!こんなんじゃ先に進まん!
もう読むぞ!
読みたく無いけど読むぞ!
【そしてようやく彼等がメモの内容を読み始めると同時に、ジョゼフィーヌが沈んだ声で星次の質問に答え始めた。】
第19章「鏡面を覗いて」
「実は私には…『禁域』に迷い込んだ時から特殊な能力が目覚めていたのです。初めは…『血を見たり、摂取・接触すると、視覚と聴覚が強化される』だけでしたが、時間が経つにつれてその能力は…『あらゆる感覚と身体能力、思考能力等が強化される』というものに変化しました。」
「じゃあ、あんたが血を見ると目が光ったりしてたのもそれが原因か?」
「おそらく…それで間違いないかと思われます。」
「なるほどな…続きを頼む。」
「私のその能力は現在…先程のステータスの強化に加えて、『血液を摂取するとその血液の主の思考や記憶、身体の情報等の一部分を読み取る事が出来る』というものに変化しました。」
「だからあんたは…こいつの血を吸収して骸に咲く花《Corpse Flower》で地図を作ったりできたのか…後は…」
「私が彼を殺害する事に罪悪感と抵抗感を覚えていたのも…彼の記憶の一部分と感情の断片を見ることができてしまったからです。」
【彼女のその言葉を聞いた星次は、恐る恐る尋ねた。】
「お前は…いったい何を見ちまったんだ…?」
「私が初めに見た物は…彼が、『救済の闇』の教祖である『レイ』に…彼女に向けている忠誠心と親愛の感情だけでしたが…2度目に彼と対峙した際に見た感情は…」
【彼女はそこで言葉に詰まると、震えるような涙声で、悲しみに満ち溢れた表情で話を続ける。】
「先程の感情に加えて…私と皆さん一人一人に対する尊敬の念や…私達と血を流し合わなければならないという状況への罪悪感と、彼女の役に立ちたいという思いと…それらの感情が生み出した…彼の良心の呵責でした…」
「どういう事だ…?アイツと俺らは…」
【そう話を続けようとしていた星次は、彼女の表情を見ると静かに口を閉じた。彼女の深い悲しみを帯びた表情を見た彼は、そうするべきだと悟った。】
「彼は…『魔道具』の能力で私の姿をコピーした際に…私の記憶の一部分すらもコピーしていたのです。そして彼と私は…お互いに互いの人間性を知ってしまったが故に…お互いが…悪意を持って刃を振るう様な人間では無く、良心を持った人間であると…理解してしまったのです…」
「だが、それでもあいつは俺達を…!」
「彼は…私と皆さんの事を本気で殺害する気は無く、あくまでも無力化と拘束を目的として私達と戦闘を行っていたのです…私と皆さんを殺害することに深い罪悪感を感じていたことと、『レイ』を…彼女を悲しませたくないという感情によって…」
「そう…か…だからアイツとあんたは…」
【彼女のその言葉を聞いた星次は独り言を呟くと、彼女の頬を伝う一筋の涙を見ながら躊躇いがちに質問した。】
「それじゃあ、あんたは最終的に…アイツをどうやって殺したんだ?」
「私の肉体をお母様が使用し、彼を壁際まで追い詰め…そこで私が自身の肉体の主導権を返してもらい、彼と言葉を交わしたのです。すると彼は突然…『魔武具』を自身の心臓に突き刺し、自決を行いました。そして…私は…」
【彼女が抑えていた感情が、彼等の前で見せまいとしていたものが、溢れる涙となって地に落ちて行く。くぐもった小さな声が、涙と共に零れ落ちる。】
「彼を救う事も出来ずに…彼の首を刎ねました…せめて彼が苦痛から一刻も早く開放されることを願って…目の前で苦しんでいる彼の姿を見る事に…耐えかねて…私は…私の心の苦痛から逃れる為に…彼を殺しました…1人の善良な人間を、この手で……!」
【そのとき、とても小さく消え入りそうな声が聞こえた。】
「どうして…どうしてジョゼフィーヌさんはそんなに…1人で何もかも抱え込もうとするんですか…?」
第20章「己なき世界へ宛てて」
『皆さんへ
この書き置きを、皆さんにこの旅の全てを残して去ることを深くお詫び申し上げます。』
「…ッ!」
【その文字の羅列が、彼等が今読んでいるものが、本来は彼女が去った後の自分達に宛てて書かれた物であるという事を再認識させる。】
『これを読んでいるということは、皆さんが爆発で目を覚ましたということでしょう。
爆発について説明する前に、皆さんが倒れた後に起きた事を手短に書いておきます。』
爆発で目を覚ます…!?
でも結局…俺達はジョゼフィーヌさん達に起こされたし…爆発っていったいなんのことだったんだろう…
倒れた後に起きた事は…さっきジョゼフィーヌさんが話してくれたから飛ばしちゃっても大丈夫かな…
『…ここからは爆発についてを書き残しておきます。
そして、結論から言うとその爆発を起こしたのは私であり、余程の事が無い限り、私はブービートラップによって確実に死亡しているかと思われます。』
「…ぇ?」
【その短絡的に書かれるべきでは無い内容に、本来は見ることが無いような文章に、彼の脳は理解を拒んだ。そして、あまりの衝撃に感情を紡ぐ事さえ困難になった。それでも彼の目は遺書の内容を、彼の耳はジョゼフィーヌの話の内容を淡々と受け取り続ける。】
『この様な事をしたのは私が彼の残した『魔道具』に干渉した際に、何らかの魔法によって私が手駒になり、皆さんに危害を加えるという事態を防ぐ為です。
ですので、もし爆発後に彼の『魔道具』を見つけた際は、絶対に触れたり近ずいたりしないで下さい。
また、爆発が起きずに『骸に咲く花《Corpse Flower 》』で体を串刺しにされた私の死体を見つけたとしても蘇らせないで下さい。
ブービートラップの起爆と刺殺のトリガーは、私に何らかの精神的な異常が発生する事です。
その為、上記の内の1つでも発生した場合は『私が皆さんに危害を加える敵性存在と化した』として扱い、その死体を家の裏手にある『|骸に咲く花《Corpse Flower 》』の棺の中に入れ、全てが終わった後に重要な研究資料としてマーリンさんに提供して下さい。』
【破れた遺書の端まで読み終えると、彼の手には自然と力が入り、メモを小刻みに震えさせた。】
「彼を救う事も出来ずに…彼の首を刎ねました…せめて彼が苦痛から一刻も早く開放されることを願って…目の前で苦しんでいる彼の姿を見る事に…耐え切れなくなり…私は…私の心の苦痛から逃れる為に…彼を殺しました…1人の善良な人間を、この手で……」
【そして、遺書の内容に対する衝撃によって明滅していた彼の感情を蘇らせるには、彼女の言葉は彼にとって過剰過ぎた。】
「どうして…どうしてジョゼフィーヌさんはそんなに…1人で何もかも抱え込もうとするんですか…?」
【それは彼の中に生まれた純粋な疑問だった。】
第21章「仲間」
「ジョゼフィーヌさんみたいに…俺にはあの人が本当はどんな人だったかとかは分かりません…それでも…俺には…」
【彼は何度も言葉に詰まりながらも、彼女に語りかける。】
「世界を滅ぼそうとした人の1人にしか思えないんです…!本当はどんなに良い人だったとしても…世界を滅ぼす事に賛成しても良い訳が無いじゃないですか…何であんな人が死んだ事に罪悪感を感じてるんですか!」
【彼のその言葉を聞いた彼女は…手の甲で涙を拭って、キッパリと言葉を返した。】
「それはもちろん理解しています。ですが…それでも私が彼を葬った事には変わり無いのです…私は…彼の死に対して向き合っていかなければならないのです…!」
「じゃあ、その罪悪感が変わらないんだったら…せめて…1人だけで全部を背負うのは止めてくれませんか…?だって…俺達は一人一人が自分の意思でここに来たんですよ!なのに…」
『皆さんは生き残る事を考えて下さい、皆さんが手を汚す事はありませんよ!』
『私は少し見回りをしておきます!私ひとりの方が動きやすいので!』
『何があろうと…私が皆さんのことをお守りいたします!』
「辛い事も危ない事も…何もかもジョゼフィーヌさんが1人でやって…いつも俺達の隣に居て助けてくれるのに、俺はいつも守ってもらう側で何も出来なくて…」
【彼はそういうと、涙を流しながら話を続けた。】
「もっと頼って下さい…せめて…話して下さい…隣に居るのに、遠くからただ眺めてるだけなんて…情けないし…悔しいじゃないですか!確かに俺は頼りないかも知れないですけど…俺は…ジョゼフィーヌさんの力になりたいです!!」
【彼がそう言い終えると、話を静かに聞いていた星次が口を開いた。】
「…違ぇだろ。」
「え…?」
「『俺はいつも守ってもらう』、『俺は頼りない』、『俺は力になりたい』?『俺』じゃなくて『俺達』だろ。」
「そんな!いつも役に立たないのは…」
「確かにお前は運動能力もなけりゃ特別な天才でもねぇ。だが、お前の持ってる『祝福』は『魔武具』も『魔道具』も便利な代物だ。俺は森の中でお前に助けられたし、アイツらのキャンプ場の偵察もお前がやったろ?役たたずじゃねぇ。」
「僕もそう思うっすよ。」
「それに…コイツはちょいと馬鹿だが、体力も筋力もずば抜けてやがる。しかも、『祝福』も使い方によっては一発で戦いが終わる強力なもんだ。それに比べて…」
【星次はそこで言葉を切ると、ため息を吐いて話を続けた。】
「俺は、お前らよりも殴り合いやら考えるのは得意だ。だが、お前らの『祝福』に比べりゃ俺の『祝福』は…はっきり言って使いずれぇし強力でもない。」
「つまり、僕達は皆あんまり役に立てないところもあるけど、得意なことがあるって言いたいんすよね?」
「そうだ。まぁ、それに関しちゃあお前も当てはまってるんだぜ?」
【彼はそういうと、ジョゼフィーヌの方を見た。】
「お前は俺達みたいな一般人からしたら何でも出来る天才だが…他人を心の底から頼る事を知らない。まぁ、誰かを守りたいってあんたの性格から来てるんだろうが…それでもお前は誰かを頼らなさ過ぎだ。つっても…俺たちみたいなレベルの低い奴らを頼る気にもなれねぇだろうが…」
「そんなことはありません!私は…皆さんを頼りない方達だと…能力の無い方達だと思った事はありません!」
「じゃああんたから見た俺達は何だ?ただの戦闘訓練を受けたことの無い一般人か?庇護の対象か?仲間か?」
「皆さんは…」
【ジョゼフィーヌは彼の質問に対し、即答する事が出来なかった。】
「やっぱりな…あんたは結局、俺達を『仲間』としては認識してねぇんだろ?あんたはいつも…俺達のことを守るって言ってたよな…あんたにとっての俺達は『庇護の対象』でしかない…違うか?」
「それ…は…」
「図星だろ?」
「じゃあ、これからははっきり…僕達のことを『仲間』と思って欲しいっすね。」
「そうですよ…!ジョゼフィーヌさんみたいになんでも出来るわけじゃ無いですけど…自分のことは自分で守るくらいはできます!だから…ジョゼフィーヌさんも…自分が誰かを守る事とか…犠牲になる事とか…そんな事は考えないで下さい!!」
「そうだな…あんたにも帰る場所があるんだろ?それを投げ捨てることは考えんな。それに…あんたが死んだら俺達は、どうやって戦って勝てば良いんだ?」
【彼らの言葉を聞いた彼女の目は、強い意志が戻ったかのように、涙が反射する光で輝いた。】
「俺達を守りたいって思うんだったら、死ぬことなんて考えないで最後まで隣に居てください!ジョゼフィーヌさんが生き残る為に…生きて俺達を守る為に…俺達を頼って下さい!!」
【彼らの言葉を聞いた彼女は右腕で涙を完全に拭い去ると、いつもの決意に満ちた表情で彼等に向き合った。】
「私は無意識の内に皆様の事を…戦闘面においては戦力外の存在として扱い…皆様の力を直視することも無く、自らの命を賭して守るべき立場の存在と認識してしまっていました。私はその事を皆様に謝罪します。」
【そう話す彼女の言葉や表情は、いつもよりも冷静で厳格な雰囲気をまとっていた。】
「そして、改めて…皆様にお願いがあります。」
「何だ。」
「これからも私に…『仲間』として力を貸して頂けませんか?」
「俺は言われなくてもそうするつもりです!」
「はっ…願うほどのものでもねぇだろ、当たり前だ。」
「もちろん、最初から最後まで助け合うつもりっすよ。」
「皆さん…ありがとうございます!それでは、私が彼の『魔道具』」に干渉した際に見たものと得られた情報を…皆さんにお伝えします。」
第22章「未来の為に今を行く」
【彼女は淡々と、へカーティアの『魔道具』から得た情報を話した。へカーティアの過去、クトゥルフという神が見せた力の片鱗、『救済の闇』の教祖である『レイ』本人に関すること、彼と彼女の関係性、へカーティアからの最期の餞別を。】
「『タイムリミットは、7月7日。空に闇が降り、月が赤く染まり、星の扉が開く時まで』…か。」
「星の扉って何なんすかね…?」
【2人がそう呟いていると、深く考え込んでいた流輝はハッと顔を上げた。】
「もしかして…!でも…うーん…」
「何だよ、話してみろ。」
「も…もしかして…『空に闇が降り』っていうのは『夜』の事で、『月が赤く染まり』っていうのは『月蝕』の『ブラッドムーン』の事じゃないかな〜って…」
「私も流輝さんと同じ様な推察に至りましたが…『星の扉』とはいったい何を指し示しているのか…」
「あの…最後の『星の扉』についてはちょっと自信が無いんですけど…」
「…!どうか教えて頂けませんか?今は少しでも情報が欲しいのです!」
「その…『星の扉』っていうのは…『天の川』の事じゃないかな〜って…それに…今日は『7月7日』の『七夕』ですし…」
【流輝のその言葉を聞いた彼等は、一斉に目を見開いて似たような言葉を同時に話した。】
「それだと思うっすよ。」
「それじゃねぇか!?」
「その可能性は高いと思います!」
「へぇっ…!?ほんとですか!?」
「なんでお前が驚いてんだよ…ってか何でそんな事を思い付けたんだ?」
「実は…俺のお父さんが星とかが好きで、一緒に天の川を見た時に…『星には色んな解釈があって楽しい』って話してくれて、その時に『どこかに繋がる星で出来た扉に見えてワクワクする』って言ってたんです!」
「でも天の川とブラッドムーンを同時に見るのって凄い確率っすよね。」
「もしかしたら別の事を指してたりとかも全然有り得そうだし…間違えたとかですかね…?」
「いや…今は『星の扉』=『天の川』の線で行くぞ。そんで…今までの情報を当てはめると…タイムリミットはどれくらいだ?」
【ジョゼフィーヌは星次の質問に深く考え込む素振りを見せた後に、少し申し訳なさそうな表情で答えを返した。】
「正確には分かりませんが…この地方は明るい時間が長く続くので、タイムリミットまでにはまだ時間がある筈です!」
「それなら…余裕がある内にとっとと『教祖』をぶちのめしに行くか。」
【星次はそういうと地面から立ち上がると、皆に声をかけた。】
「なぁ、こっからあの城までの距離はどれくらいかかるか分かるか?」
「今はまだ森の中にいるので、ここから城までを目測で話すことはできませんが…約15分程かかるかと思われます!」
「なるほどな…なぁ、お前らに頼みがあるんだが…」
「何ですか?」
「実はな…俺もちょいと足を痛めちまったんだ。だから…」
【星次はそこで言葉を切ると、流輝と春喜に向かって話をした。】
「お前は『異能』を使って敵に見つからない様に、少し先を見てくれ。そんでお前は、あいつと連携を取りながら少しづつ先に進んで安全の確保を頼む。」
「はい!分かりました!」
「分かったっす。じゃあ行ってくるっすね。」
【彼らはそう言うと、前の方へと2人で進んで行った。】
「皆さん!気をつけて下さいね!それでは私は星次さんの治療を…」
「すまねぇな、さっきのは嘘だ。」
【彼は春喜と星次の後ろ姿を見ながらそう言うと、何事も無かったかのように立ち上がり、ジョゼフィーヌに近づいた。】
「嘘…ですか?なぜそのような事を…」
「あいつらに聞かれると不味い話をするからだ…」
【彼は彼女の目の前で立ち止まると、ポケットから紙切れを取り出して彼女に見せつけた。その紙切れは彼女が書いた遺書の下の部分であり、星次はその1文を指さして話をした。】
『そして、もし宜しければ…
公衆電話で以下の番号を打ち込み、
『青薔薇が枯れた為、剪定を命ずる。また、黒薔薇が青薔薇の葉を受け取る事を許可する。』と伝えて下さい。』
「お前…本当はただの傭兵部隊に所属してる訳じゃねぇだろ?俺の勘が正しければ、バラとかは何かの隠語…しかも公衆電話で隠語を混ぜたメッセージを伝えるってのは…社会的にグレーラインな組織か完全な裏社会の組織が使う連絡方法だ。」
【その言葉を聞いた彼女は大きく目を見開き、驚いた様子で星次に問いかけた。】
「星次さん…貴方はいったい…!」
「俺は一応…裏社会の住人だ。もちろん普通に生活してるヤツらには迷惑がかからない様に生きてきたがな…」
【彼のその告白に彼女は少し困惑したが、すぐに合点がいったと言う様な反応を見せた。】
「なるほど…通りで星次さんは血を見慣れていたり、ハンドガンの扱いに慣れていたのですね…」
「あんたのこのメモ、あんまり知られちゃ不味いもんだろ?」
「…そうです。」
「やっぱりな…今は話せないんなら、互いに契約を結ばねぇか?」
「契約ですか…?」
「俺もアンタも…この戦いが終わるまでには…お互いの秘密を全員に話す。もちろん、タイミングは俺たち次第だ。」
「いえ…私の存在を知る事は皆さんにとって…!」
「俺達は『魔法』に触れて、『祝福』っていう特殊な能力まで手に入れちまったんだ…俺達が戦い終わって、これをそのまま隠し通して生きていくのも出来るだろうが…これは個人でどうこう出来る代物じゃねぇだろ?」
【彼はそういうと後ろを振り返って流輝達の方へと歩みを進めた。】
「俺達はこれから先も助け合った方が効率的だ。そんで、これからも助け合いを続けてる最中に秘密がバレる方が色々と面倒だ。だから先に話しとくんだよ…これからも気兼ねなく『仲間』って呼べるようにな…」
【ジョゼフィーヌは前を向いて歩きながらそう話す彼の後を追いかけ、返事を返した。】
「承知しました。では、この『契約』を果たす為に…そして、日常へと帰った後も皆さんと『仲間』として同じ道を行く為にも…必ず生きて帰りましょう!」
「はっ…その意気だ。さっさと行くぞ。」
【そして2人は、春喜と星次の後を追いかけた。】
あとがき
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!
ストーリーを進める為に今回は一気に詰め込んでしまって申し訳ありません!
『魂を映す鏡』で出てきた疑問等の回収すべき点は回収し終えたので、次回からは遂に城内への潜入と戦闘が始まります!
…次回を読む前にだらだらと話が続いてしまったので、いま1度読み返してみるとストーリーを理解しやすいかもしれません。