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第二部「破滅を照らす者:断罪の天秤」その2

目次


第3章「嵐の前の騒がしさ」

第4章「全力疾走」

第5章「罪を背に、覚悟を胸に。」

あとがき



第3章「嵐の前の騒がしさ」


「…輝さ…ん……きて……い…」

あれ…?

「流輝さ〜……起き…下さ……」

この声は…聞いた事が…

俺は確か…昨日…

「流輝さ〜ん!起きて下さい!」

そうだ…俺はッ!!

「へカーティアァァァァア!!」

【昨日の出来事を思い出した彼は、大きく怒りの声をあげながら勢い良く起き上がった。】

「ァァァア…あ…え?」


挿絵(By みてみん)


「あっ!おはようございます!お身体に異常はありませんか?」

【そして起き上がった彼が目にしたのは、へカーティアの『魔法』によって倒れていた筈のジョゼフィーヌの姿だった。】


挿絵(By みてみん)


「ジョ…ジョゼフィーヌさんッ!」

【彼女のいつも通りの姿を見た彼の視界は突然ぼやけ始め、彼の(ほほ)を何かが伝い、彼の服を濡らした。】

「ほ…本当に……本当にジョゼフィーヌさんなんですよね…?大丈夫…なんですよね?」

【彼のその言葉を聞いた彼女は、優しく微笑みながら彼の手を包み込むようにして握った。】

「ふふっ…はい、私です!私はここに居ますよ!もう大丈夫です…彼は…」

【彼女はそこで言葉を切ると一瞬だけうつむき、すぐに顔を上げた。】

「彼は、私が完全に殺害しました…今度こそ…確実に…」

【そう話す彼女の声と微笑みは、なぜか悲しげだった。】

「ジョゼフィーヌさん…?やっぱりまだ身体が…」

「おいッ!起きろ!!」

「えっ!?…じゃなくて!今のは…!!」

【彼が大声の聞こえる方を見ると、そこには見慣れた2人の姿があった。】

「起!き!ろ!つってんだよ!!」


挿絵(By みてみん)


「ガガッ…ガガガッ…!」


挿絵(By みてみん)


【怒った表情で大声を出す星次と、まるで肉食獣の様ないびきを立てながら穏やかな表情で眠っている春喜の姿がそこにあった。】

「良かった…本当に良かった……!」

皆が生きてて…良かった!!

「チッ…やっぱりぶん殴るのが1番…」

【この場に全員が生きて集まって居ることに安心し、また涙が溢れそうになる流輝を気にすること無く、星次は春喜の背中に狙いを定めていた。】

「ちょッ!ストップ!!今…シリアスな雰囲気だったのに急に…こう…っていうか!せっかく皆が無事だったんだからせめて殴るのは止めません!?」

「今はそんな事言ってる場合じゃねぇんだよ!」

「それってどういう事っすか?」

「簡潔に申し上げると、早くここを移動しなければ新たな戦力と衝突する可能性があるので、詳しく説明する間も無く……え?」

「…は?」

「…ん?」

「どうしたんすか?」

「春喜さんが…」

「あ…あの殴られない限り起きなかった春喜さんが…」

「俺が殴らねぇと起きねぇ様な奴が…」

【先程までいびきを立てて眠っていた彼が自ら起床し、会話に参加してきたのを見た彼らの感想はほとんど一致していた。】

「お目覚めになられたのですね!」

「自分で起きたぁー!?」

「自分で起きやがった!?」

「なんか皆が元気そうで嬉しいっすね。とりあえず早く移動した方が良いんすよね?」

「は…はい!ところでお身体の方は…」

「元気っすよ。なんか前よりも身体がまた良い感じになったっすね。あと喉が乾いたんで下に降りて水飲んで来るっすね。」

「はい!そのまま1階で待機して頂いても構いませんよ!」

「OKっす。じゃあ皆の分も水入れて待ってるっすね。」

「ありがとうございます!なるべく早く下に降りますね!」

「あ…あぁ…」

「あ…ありがとう…ございます!」

【春喜は彼らの返事を聞くと、身だしなみを整えながら寝室を出て行った。】

えぇ?

春喜…さん…だよね?

えぇ?

「なぁ…お前ら…」

「…あっ…何ですか?」

「あいつ…へカーティアが変身した偽物じゃねぇか…!?」

「はっ…まさかッ!?」

「いえ!落ち着いて下さい!春喜さんは春喜さんです!少々…話し方や雰囲気が変わっていましたが…春喜さんは春喜さんです!それに…」

【彼女はそこで言葉を切ると、胸ポケットからネックレスを取り出した。】


挿絵(By みてみん)


「ドッグタグの代わりとして、(へカーティア)が身に着けていたネックレスを回収してあります!」

「じゃあ…大丈夫だな。」

「あの…なんて言うか…」

寝起きで早々さぁ…

「感情も雰囲気もぐっちゃぐちゃのグダグダのギャッグギャグなんですけど!?」

「ギャッグギャグって何だよ…まぁこんなことしてる場合じゃねぇな。」

「そうですね!皆さんの身体に異常が無く、むしろパワーアップしている事には違和感を感じますが…今はそれどころではありませんね!早急にここを出る為の準備をしましょう!」

「じょ…状況はいまいち分かんないけど…急ぎます!」

「よし…40秒で支度しろ!」

「無茶ですよ!某天空の人ですか!星次さんは!!」

「ふふっ…何の事かは分かりませんが賑やかで良いですね!私は支度を終えたのでお先に失礼しますね!」

「俺も先に降りてるぞ。さっさと制服着て降りてこい!これから10分位は全力疾走のランニングだ!」

「寝起きでそれは死にますって!ってか…」

そういえば…

なんで俺は肌着で寝てたんですか〜!?

「ん?」

【彼が、自分が寝ていたベッドの枕元を見ると、そこには綺麗に折りたたまれた長袖の白い制服とメモが置いてあった。】

「何だろ…ってかなんで破れてたはずのシャツが綺麗に…?」

あとメモの内容は?

【彼は大急ぎでシャツのボタンを掛けながらメモを広げて読んだ。】


『流輝さんへ


制服を着たままでは寝苦しいかと思い、勝手な判断ながら私の方でお預かりし、ついでに破れていた部分を『魔法』で直してみました!


ジョゼフィーヌより』


「なるほど…そういう事か!」

ジョゼフィーヌさんって本当に気配りが凄い人だなぁ…

あとしれっと『魔法』使ってるし…ん?

まだ何か下の方に…どれどれ?


『追伸


ボタンの掛け違いにご注意を!』


「いやいやそんな…」

【彼は1人で呟きながら目線を下ろし、苦笑した。】

「一つだけ掛け間違えてる…」

ジョゼフィーヌさんは…未来予知でもできるのかな…?



第4章「全力疾走」


「はぁ…はぁ…!おい!タイムリミットまで後…何分だ!!」

「残り3分です!」

「ひぃ…ひぃ…」

「大丈夫っすか?きつかったら担ぐっすよ。」

「いや!大丈夫です!!なんか…きついんですけど…前よりもなんか走れます!」

そういや俺もそうだな…

元から体力とかはある方だが…

今までの状態ならとっくに息が切れてぶっ倒れてるはずだ。

「…ってかジョゼフィーヌさんは…どんな体力とスピード…してるんですか!?」

「私は傭兵(ようへい)としての訓練を受けていますので、これくらいはなんともありませんよ!」

【彼女は微笑みながら、息を切らすことも無くそう答えた。】

「傭兵って…すげぇ…」

なわけあるかよ…

確かに訓練は受けてるだろうし…

そもそもこいつの運動神経が良いんだろうが…

いくら何でもおかしいだろ!

しかもコイツは…全速力で走ってねぇ…

俺達にスピードを合わせてやがる!


『何が起きたのかは私にも分かりません。


ですが彼の魔法によって私が一時的に完全な人外の力を発揮した事。

その間は私の体の主導権が、私の中に潜んでいた『友好的な存在』に掌握されていた事…』


あの手紙の中に書いてあったやつと…

『友好的な存在』ってのと関係がありそうだな。

…後で絶対に洗いざらい話してもらうからな!

とりあえず今は…

「おい!俺達がどの辺に居るか分かるか!?」

「少々お待ちください!地図を取り出しますので…」

【彼女はスピードを落とさずにレッグポーチから黒紙を取り出して広げると、黒紙に描いてあった地図がホログラムの様に宙に浮き上がった。】

「この青い点が俺達か?」

「はい!その様ですね…私達の現在地は…『ホーウェンヅォレイルン城』までの距離が残り半分の位置です!」

「なんとか…許容範囲内か…?」

「そうですね…ここからはペースを落としましょう!」

「ちょっと大変だったっすね。」

「ちょっとどころじゃ…無いですって!それに…これから何をするつもりなんですか!?」

「成りすましだ、へカーティアのな…」

「え?」

「実は皆さんが眠っている間に…」

【彼女は走りながらも、『テミス』が送り込んだと思われる2人の暗殺者が家の中に侵入してきたこと、その暗殺者が持っていた通信機から聞こえた『テミス』のメッセージの内容を伝えた。】


『予定の時間を過ぎたわ。もし生きているのなら、朝の6時を過ぎる前に報告をして頂戴。』


『それまでに連絡がなければ、現状で動かせる最大兵力をそっちの方と儀式の間に割り振らないといけなくなるの…だから早めに頼むわね。』


「つ…つまり…6時までに連絡が無かったら…強い敵とか大量の敵が送られるかも知れないってことですか!?」

「そうです!そして、その兵力の動員と防衛の強化を中断させる為に、ある作戦を決行します。いま私達が少し横に()れて城へ向かっているのは、その作戦が失敗したときの保険のようなものです!」

「その作戦が…へカーティアの成りすましって事ですか?」

「はい…不確定要素しかありませんが、やってみるしかありません!」

「ギャンブルってのはそういうもんだろ?腹(くく)ってさっさと賭けろ。」

「はい!ん…んん!あ〜…あー…」

【星次がジョゼフィーヌにそう言うと、彼女は声を調整し始めた。】

「よし、それくらいだ。アイツがあんたに化けてた時はそんくらいの声のトーンだ。アイツの話し方を真似てみろ。」

「あぁ…こんな感じか?…大丈夫でしょうか?」

「よし、OKだ。」

「うわっ…ジョゼフィーヌさんが敬語を崩してるの初めて聞いた…しかも男口調!」

「何か新鮮っすね。」

「あの時はそんな状況じゃなかったから言えなかったけど…これはこれで何か…良い…」

「何か言ったっすか?」

「いえ!何でもないです!」

「では…準備が整ったので始めます!」

【彼女はそう言うと、教団員から回収した通信機を取り出してボタンを押し、通信機に向かって切羽詰まった様子で話し出した。】



第5章「罪を背に、覚悟を胸に。」


「おい、テミス!俺だ!今はゆっくり朝のティータイムなんかしてる場合じゃねぇぞ!緊急事態だ!!お前のとこの奴と俺の部隊がほとんどやられた!」

【彼女はいつもよりも少し低い声で、『へカーティア』の話し方を真似て話していた。】

良いぞ…上出来だ。

後はこっからどう転ぶか…

【彼がそう考えていると、通信機から女性の声が聞こえた。】

『罪人よ、我が問いに嘘偽(うそいつわ)り無く答えよ。』

【その言葉を聞いたジョゼフィーヌは突然、石化してしまったかのようにその場で動かなくなってしまった。】

「おい!どうした!」

「ジョゼフィーヌさん…?」

【彼女の顔を覗き込んだ彼らは、異常に気づいた。】

「はぁ…はぁ…ッ!」

【彼女の表情は強ばっており、呼吸は乱れて浅く、大量の冷や汗が彼女の首筋を伝って地面に(したた)り落ちていた。】

「まさか…!通信越しに『魔法』をくらったのか…!?」

間違いねぇ…こいつが『テミス』だ!

「ジョゼフィーヌさん…!大丈夫ですか!!」

【その様子を見た春喜が口を開いた。】

「ちょっと失礼するっすね。」

【彼はそう言うとジョゼフィーヌに近づき、彼女に手を伸ばした。その瞬間、彼女と彼の間に金色の光が現れ、彼の腕を弾いた。】

「これは…まずいっすね。」

「クソッ…」

成りすましもクソも無ぇ…

『…我が同胞を殺したのは貴様か?』

【その声は静かで冷たく、通信機越しでも感じ取れるほどの怒りがこもっていた。その声に思わず皆が(ひる)んでいると、ジョゼフィーヌが決然とした様子で口を開いた。】

「私が彼を殺害しました。1度ならず2度までも…私が彼を殺しました!」

『…ッ!』

「お前…何を…」

「1度目は彼の頭を撃ち抜き、心臓に刃を突き立て…2度目は…教団の秘密を守る為に自決を図った彼の首を()ねました…!」

【誠実に、真剣に、微かに声を震わせながらも、彼女は自分の罪を告白した。】

『そう…自決…ね…』

【彼女は独り言のように呟くと、少し間を置いて話を続けた。】

『貴女は誠実に…嘘偽り無く真実を述べた。そして、その殺人行為に悪意は見られなかった。とはいえ、私の仲間を殺したという罪は消えない…だから、貴女に2つの選択肢を開示するわ。』

「選択肢…?」

『1つめの選択肢は…今すぐにここから立ち去るという選択肢よ。貴女の誠実さに免じて、今からここを生きて去ることを許可してあげる。もちろん、後ろからあなた達を刺すような行為もしない。』

「では2つめは?」

『…あなたとその仲間全員が、私に首を刎ねられるという選択肢よ。さぁ…貴女は、あなた達はどうするのかしら?』

【そう問われた彼女は後ろを振り返り、彼等の顔を見た。】

「んなもん決まってんだろ?」

「そうっすね。」

「ここまで来たんだし…引き返したくないです!」

【彼等の言葉と顔には、決意と覚悟が満ち溢れていた。もはやこれ以上の言葉は要らないということを、既に皆が同じ決断をしているということを示していた。】

「申し訳ありませんが、私達にその2つの選択肢は必要ありません…私達は貴女を討ち倒し、先へと進みます!この世界を…守るべきものを守る為に!!」

『良いわ、戦力の移動も無しよ…私がこの手であなた達を裁いてあげる。罪を償いに来なさい…死する事でしか償えぬ罪を背負い、断頭台へと歩みを進めなさい!』

【彼女がそう言い終えると、ジョゼフィーヌの手に握られていた通信機が土となってボロボロと崩れ落ち、そのまま地面に溶け込んで消えていった。】

「戦力の移動は無し…これが本当かどうかは知らねぇが…」

「私は、彼女を信じます。戦力の移動は決してありません…!」

「推測に推測を重ねるお前がキッパリ言うか…らしくねぇな。」

「私も…これはただの感情論でしかないと、根拠が無いとは分かっています。ですが私は…彼女が嘘をつくとは思えないのです…」

「…そうか。」

「まぁ、ジョゼさんがそう思うならそうなんじゃないっすかね。」

「俺は…ジョゼフィーヌさんのことを信用してるので信用します!」

「俺もあんたを信用するぜ。」

「ふふっ…ありがとうございます!」

あぁ…俺も信用するさ…

ただし…

「昨日あった出来事と…あんたの身に何が起きたかを話してくれたらな。」

「せ…星次さん…?何をいきなり…」

あんたが悪人じゃねぇのは知ってる。

お前は…底無しの善人だ。

いや…お前ほどになると聖人って言った方がいいのかもしれねぇな…

だが…1人で秘密を抱え続けるのだけは許せねぇ…

俺のこの考えが…わがままなのは分かってるが…

それだけはダメだ…!

「そうですね…私には皆さんに、伝えるべき事が数多くあります。なので…皆さんもお疲れでしょうし、ここからは歩きましょうか!そして、星次さん…」

「何だ?」

「お2人に…私が書き残した遺書をお渡し頂けますか?」



あとがき


投稿が遅れてしまいましたが、ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!


今回の投稿が遅れた理由は、「物語の構成をどうするべきだ…?」というシンプルな悩みによるものです。

本来はもっと早く投稿する予定でしたが、投稿する前に「いや…ここをこうした方が…?」となってしまい、今に至ります…


これからもたまにこういう事があると思いますし、表紙のアイデアもまとまっていませんがよろしくお願いします!


感想・コメントもお待ちしております!

それでは次回をお楽しみに!

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