第二部「破滅を照らす者:断罪の天秤」その17
目次
第61章「我が家」
第62章「引き金」
第63章「ネズミ」
第64章「掟」
第65章「正しき道」
あとがき
期間が非常に開いているので、『断罪の天秤:その14』を閲覧する事を推奨します。
第61章「我が家」
『ほら…懐かしいでしょう?この場所は…』
「あぁ…最高に懐かしいな…」
この場所が血塗れになる前って所も含めてな…
【彼は、和風の屋敷の一室に立っていた。床には畳が敷かれており、襖が部屋と部屋の間を隔てている。外は晴れており、暖かな陽の光が庭を照らしている。星次さその景色に懐かしさを覚えると同時に、警戒を強めた。すると、テミスの声が聞こえてきた。】
『幼少期の貴方を連れ帰った男は、反社会勢力の組織のリーダーだったそうね。私たちで言うところのマフィアやギャングの様な存在…日本ではヤクザだったかしら?』
【彼女がそこで言葉を切ると、庭の方に幼い頃の星次と彼を連れ帰った男の影が表れ、話し声が聞こえた。】
「よし!ここが俺達の家だ。どうだ?デケェだろ?」
「…すげぇな。」
「ハハッ!だろ?」
「なぁ、そろそろアンタの名前を教えろよ。」
【星次の問い掛けに、男は身をかがめて楽しげに話しかけた。】
「俺の名前はな…星夜だ。意味も、その時が来たら教えてやるさ。」
「何だよそれ…まぁそんな事どうでもいいか…」
「どうでもいいって何だよ!?」
「確かに俺も着いていくって言ったけどなぁ!アンタについてとか…あとは何で孤児院に金があったのをしてるのかとか…兎に角もっと詳しく教えろよ!!」
【星次の質問を聞いた星夜は頭を掻きながら答える。】
「あ〜…分かった分かった!とりあえず家んなか入れ!」
【星夜がそう言い終えると庭の方の襖が独りでに閉じ、今度は星次の後ろの襖が開き、星夜と幼い星次か向かい合って座っている場面が映し出された。星夜は片膝に肘をつき、その手に頭を乗せながら話し始めた。その姿は影でありながらも、裏の世界を渡り歩く者の風格を感じさせた。】
第62章「引き金」
「先ず、俺は『正道会』っていう組の頭だ。『正しい道を進む』とか『道を正す』とか…意味はそんなところだ。」
「アンタ…ヤクザなんだろ?何でそんな良い人ぶってんだ?」
「おぉっと…お前、切り込みが鋭いな…まぁ、ちょうどいい。そのまま俺の事についても話しちまおう。」
【星夜は少し困ったような声でそう言うと、少し間を置いてから話し始めた。】
「俺も…元々は捨て子でな。俺もお前みたいに孤児院で拾われてたが、そこもお前らのとこと似た様な場所だった。だが…物好きな里親が汚ねぇ俺を引き取ってくれてな。」
【星夜は嬉しそうな声で話を続ける。】
「親父は面白いやつだが筋は絶対に通す奴で…おふくろは厳しいけど優しい人でな。そんな人らに拾ってもらった俺は本当に俺は運が良い奴さ。」
「ふーん…それで?」
「親父は医者やってて、結構な大金持ちで…俺を学校に通わせてくれてな。学校っていうのは…同じ歳のヤツらが集まって文字とか言葉とか習うところでな?そんな感じでデカくなったら俺も医者になるってお勉強してたんだが…」
【星夜はそこで溜息をつくと、悲しそうな声で話を続ける。】
「俺が大学…まぁ学校の1番上の所を卒業するちょっと前に、お袋が病気で倒れちまってな。それを電話で聞いた親父が病院から車とばしてる時に…死んじまったのさ。」
「死んだ…?何で…?」
あぁ…今の俺は知ってるさ…
この時のことも忘れられる訳がねぇ…
星夜の親父は…
【星夜が彼の問いかけに答えようと口を開いた瞬間、今までの朗らかで明るい雰囲気がまるで別人かのように消え去り、低く暗く、冷たい声で答えを返した。】
「ヤクザ同士の撃ち合いに巻き込まれて死んだのさ。信号が変わるのを待ってる間にいきなり始まった銃撃戦にな。しかも…流れ弾だ。ただの…流れ弾で…俺の親父はくたばった。」
この時の親父の声と顔は忘れらんねぇ…
人間ってのがあんなにも変われるようなもんだってのを…この時に初めて知ったからな。
「撃ち合い…?」
「これ、見た事あるか?」
【星夜はそう言うと、懐から拳銃を取り出して星次に見せた。】
「拳銃ってこれの事だったのか…何回か見た事あるよ。デカい音がする奴だろ?それでどうやって人が…その…」
【星次が躊躇ってそこから先の言葉を出せずにいると、星夜は真剣な声で答えた。】
「この引き金って所を引くとな…デカい音と一緒に、弾っていうのが目で追えないくらいの速さで飛ぶんだよ。それが頭とか胸とか…そこら辺に当たっただけでポックリさ。要は…これを向けて、引き金を引くだけで人は死ぬ。」
「…マジかよ。」
「本当だ。ヤクザってのはこんなろくでもない物騒なのを持ち歩いて…何かありゃすぐにこれを使うクズ野郎共さ。」
「じゃあ、何であんたもそんな奴らの仲間になってんだ?」
【星次の問い掛けに星夜は笑いながら答えたが、その声と瞳は冷たいままだった。】
「ハハッ!仲間?そりゃ違ぇな…ヤクザってのは皆が皆お友達じゃねえ。その中でも俺らは特にそうだ…俺達は、『ヤクザを潰す為に集まった』野郎共さ。もちろん…俺達も拳銃を持ってるからヤクザにはなっちまうが…俺達とアイツらは全く別物さ。」
【星夜がそう言うと、星夜の後ろにあった襖が開き、そこからショートヘアの女性の影が入ってきた。】
「野郎共じゃないでしょう?私を忘れないで下さいな。」
「おっと、悪ぃ悪ぃ!」
「なぁ…この人誰?」
「ん?あぁ、俺の嫁で…これからはお前のおふくろだ。」
【星夜がそう紹介すると、星次と女性は同時に声をあげて驚いた。】
「はぁー!?」
「ええっ!?」
「ぷッ…いい反応するじゃねぇか!ま、とりあえずだな。お前は今日から俺達の子供だ。俺の事は親父で、コイツはおふくろって呼べ。良いな?」
「良くありませんよ!貴方はいつもいつも…はぁ…ふふっ、いつもの事ですね。」
【女性は優しげな声でそう言うと、星次に向き直って声をかけた。】
「貴方、お名前は?」
「星次…」
「星次ね…さっ、こっちに来なさい。まずはお風呂に入って服も着替えましょうね。」
親父が俺達を助けたのと、孤児院に金があるのを知ってた理由は…
親父の組の『正道会』があそこに金を出てたからだ。
『正道会』はボロい孤児院に金を援助したり、ヤクザの被害にあって1人になったり復讐を望むヤツら同士で助け合う様な…
この世の不条理に耐えきれなくなった『まともな人間達の集まり』だった。
【星次が過去を振り返っていると先程の様に襖が閉じ、また庭の方の襖が開き始めた。しかし、襖が開くと、そこには薄暗い路地が映っていた。そこには大きくなった星次とおもわれる者の影と、彼の前で仰向けに倒れ込みながら彼を見つめる者の影が映っていた。それを見た星次は、手に爪が食い込む程に拳を握り閉めた。】
「あのクズ野郎が…ッ!」
あの時に…こいつを…
こいつをぶち殺してりゃあ…あんな事には…!
第63章「ネズミ」
「お前…ここに何の要だ?俺達のシマに入って来といと『知りませんでした』は通用しねぇぞ?」
【倒れた男の前に立つ星次は、男を見下ろしながら冷たく言い放った。すると、男は怯えた様子で話し始めたが、どこかふざけた様な印象を受ける態度だった。】
「い…いやぁ!ホントに知らなかったんだって!ここら辺が『正道会』って知ってて近づくようなやつは…」
【男の言葉を遮るように、星次は男の足を蹴りつけた。】
「いっ…ッ!クッソ…てめぇ…!!」
「黙れ。」
【星次はそう言い放つと、痛みに転げ回る男を踏みつけ、身をかがめて話した。】
「さっさと答えろ。何でここに、来たか。俺はお前にお喋りのお誘いを持ちかけてる訳じゃねぇんだよ…裏の掟は知ってんだろ?それに…俺が『正道会』の所属だって言ってもねぇのに、何でお前は俺を見てここが『正道会』のシマだって気づいた?」
【星次のその威圧感に男は怯み、今度は真剣な声と表情で星次の顔を見ながら話し始めた。】
「お…俺は…脅されてるんだ…」
「で?」
「俺を見りゃ分かんだろ!?俺は…ただのチンピラだ!そこら辺を適当に歩いて…適当な奴をカツアゲしようと思ったらマジのヤクザに捕まえられて、そのうえ捨て駒にされるとか…」
「…なるほどな。」
【星次は男の言葉を遮るように独り言を呟くと、男に問いかけた。】
「お前を拉致った奴はどこの組だ?どうせ俺達のシマの偵察でも命令されたんだろ?」
「い…言えない…」
【星次は男がそう答えた瞬間に、足に体重をかけて男を踏みつけながら更に顔を近づけ、囁く様に言った。】
「選べ…海か?山か?それとも正直に吐いて逃げるか?」
「ひ…」
「良く考えろマヌケ…お前はもう俺に別の組からの差し金だってバレてんだ…こんな状態でお前を拉致した奴らのとこに戻ってみろ。結局は殺されるだけだぜ?ほら…吐け。どうせ、お前の行動を監視してる奴も2人くらいは居るんだろ?」
【星次のその言葉に対して男はほんの微かに頷き、小声で言った。】
「…俺の後ろ側…あんたから見て前の路地の曲がり角に2人…!」
【星次はそれを聞くとため息をついて、小声で男に伝えた。】
「俺が片をつけといてやるから、俺の後ろに走って逃げやがれ…二度とここに近づくな、その後はテメェで何とかしろ。次はねぇ…分かったな?」
【星次は言い終えると男から足をどかした。その瞬間、男は這って逃げる様に星次の後ろまで行くと、立ち上がって走り去った。それを見届けることも無く、星次は路地の曲がり角に向かって言い放った。】
「居るんだろクズ。そこにずっと隠れてるつもりか?まだそこら辺のネズミの方がお前らより賢いな。」
「舐めやがって…!」
「このガキ…!」
【その言葉を聞いて激昂した2人の男が角から飛び出して来たが、星次は男が飛び出す瞬間に右足を前に伸ばして足をかけ、2人同時に転ばせた。】
「ほら見ろ、ネズミは勝てない奴には立ち向かわずに逃げるだけだ。それに比べてお前らは…逃げもせずにプライドを守る為だけに飛び出して…間抜け面晒して地面に倒れてるだけの馬鹿なんだよ…!」
【星次はそう言い放つと、二人の男の腹と頭に全力で蹴りを入れて気絶させた。その後、二人の腕を掴んでどこかに引きずって歩いていくが、途中で襖が閉じた。すると、テミスの声が星次の前にあった襖の向こうから聞こえた。】
『この選択が、貴方の運命を…貴方の父親と母親の運命を変えた。貴方のその詰めの甘さが…2人を悲劇に追いやった。』
「…黙れ。」
『あら、怖いわね。そんなに過剰な反応を取るなんて…思い当たりがあるんでしょう?貴方もそう考えていたんじゃないのかしら?』
「お前に何が分かる…!」
『貴方の過去と罪…そして招かれた悲劇を知っている。さぁ、準備は良い?あの日を思い出す準備は…』
【テミスがそう言い終えると、彼女の声が聞こえた襖が開いた。襖の向こうは和室で、そこには星次の母親になった女性とその背後に立つ人物の姿があった。】
「親父…ッ…!」
【そして、部屋の中央では星夜が血溜まりに浮かんでいた。】
第64章「掟」
「ハハッ!良いざまだぜぇ…!コレだからヤクザと『おはじき』はやめらんねぇなぁ!!」
【男は女性の首に左腕をまわしつつ、右手に持った拳銃と星夜を見て愉快そうに笑った。】
「あなた…あなた!!」
【女性は悲痛な叫び声をあげてもがくが、男は彼女を逃がそうとはしなかった。】
「おっと動くなよぉ?あんたもこのショーの見世物になるんだからさぁ…」
【外は暗く、雷鳴が轟くほどの悪天候であった。和室には明かりがなく、その和室の様子が薄暗く映し出されていた。星次がその様子を見ていると、男は彼の方を向いて笑った。】
「よぉ、クソガキ…あの時は世話んなったなぁ?」
「よぉ…チンピラ…」
「おぉ!気づいてくれたか…嬉しいねぇ…」
【星次は、男の顔立ちと声に覚えがあった。それは、路地裏のあの男だった。星次は男の顔を見ながら、冷静に思考していた。】
これは俺の過去だ…
これは『映像』か?
それとも『今、起きてること』か?
あの時とは展開が違うが…
俺とこいつとの会話はほぼ同じだ…
テミスの罠にはハマらねぇ様に、今はどちらにしろ冷静になるべきか。
【星次が黙っていると、男は笑顔で続ける。】
「まさか、あそこでテメェと会うことになるとは思わなかったぜ…お陰でもっと面倒でもっと…屈辱を味わうことになっちまったが……これは中々に清々しいなぁ!」
「そうか…良かったな。」
【星次はそう言いながら、星夜の元へ歩み寄り、血が体に着くのを気にも止めずに彼を抱えた。】
「おいおい…冷たい野郎だなぁ。お前の親父だろ?ソレ。もっとキレたり悲しんだりしてくれよ…最期のお別れは?感動の別れ話とかはねぇの?つまんねぇぞ?ハハッ!」
「なら、観客は黙ってろ…てめぇはマナーのねぇガキか?」
【星次はそういうと、星夜の目を見て静かに話しかけた。】
「親父…起きろ…」
あの時は…もっと取り乱してたな…
大声出して…親父の体を振りまくって…
だが今は…
「星次…か……」
「銃で…撃たれたんだろ?」
「そうだ……よく…分かっ…」
【星夜はそこで咳き込むと、血を口から吐き出した。】
「俺…は……ダメだ。」
「あぁ、分かるよ…」
「流石…だな…流石は俺の……息子だ…」
【星夜はそう言うと、星次の右頬に左手を添え、自身の顔に星次の頭を近ずけて耳元で囁いた。】
「俺の…懐に……」
「知ってるさ…全部な…」
何もかも知ってるよ…
あんたがどれだけ用意周到で、どんな時でも落ち着いてる奴なのか…
あの時のあんたが…俺に求めてた物はなんだったか…
【星夜は星次の言葉を聞くと、微かに不敵な笑みを浮かべ、こう囁いた。】
「殺れ…」
「あぁ…」
【その様子を笑顔で見守っていた男は、嘲笑うような声で話しかける。】
「あぁ…感動的な別れだなぁ?思わず涙が出ちまうぜ…!」
「おい、クズ野郎。」
「え?クズ野郎?もしかして…俺の事か?」
「…何でここを襲った。」
「何で?そりゃあ、俺達ゃヤクザだぜ?他の組を潰すのに理由が要るのか?それに…ヤクザの掟、知ってんだろ?舐められたら殺すだけだ!」
「その為だけに…1人でここまで来たんだな。相変わらず…アホくさくて最悪な返事だな…!」
【星次はそこで言葉を切ると星夜の服の内側に手を入れ、そこから拳銃を引き抜くと同時に男の右腕と右肩を撃ち抜いた。】
「ああぁぁあっ!?こんの…クソガキ…ッ!!」
【男はその痛みに拳銃を取り落とし、女性の首に巻いていた左腕を離し、女性を床に突き飛ばして右肩を抑えた。】
「きゃっ…!」
【男が身を屈めて拳銃を取ろうとした瞬間、星次は冷静に男の足を撃ち抜いた。それと同時に、男は床に倒れ込み、銃を取り損ねた。星次は星夜を優しく床に下ろすと、男の元へ近づきながら問いかける。】
「お前は『正道会』の掟を知ってるか?」
【星次は男を蹴って仰向けにさせると、その胸を足で踏み付けながら、男の頭に拳銃を構えた。】
「ヤクザは全員皆殺し…だ。」
【星次はそういうと、引き金を引き続けた。何度も引き金を引き続け、最後には弾が切れてしまった。床には血と脳の欠片が飛び散っていた。その時、微かに星夜の声が聞こえた。】
第65章「正しき道」
「星次…こっちに来い…」
【星次は後ろを振り返ると、何も言わずに星夜の元へ向かった。その時には、何故か女性の姿は消えていた。星次が星夜の元に辿り着くと、星夜は話し出した。】
「お前は…良くやった…ずっと……冷静で…居てくれて…安心したぜ…」
「ははっ…誰の息子だと思ってんだよ。俺は…お前の…」
「お前は…俺の息子で…お別れも二回目だな…」
「…は?」
【星次の驚いた様子を見た星夜は微かに笑みを浮かべると、自らの口を拭いつつ話した。】
「俺にも何が起こってるか全く分からん。だが…俺は今ここでまた死にかけて…いや、もう死んでるか。」
「待て…待てよ…どういう…!」
「呼ばれたみたいだな…あの天秤持った女に…だが…」
【星夜はそこで言葉を切ると、星次に自分の手を見せた。それを見た星次は驚きに言葉を失った。】
「どうやら…時間切れが近いらしい。役割を果たしたからな…」
【星夜の手は段々と存在感を失い、その手の向こう側が透けて見える様になっていた。その現象は徐々に手首へと侵食し始めていた。】
「親父…」
「いいか…星次…よく聞けよ。あの時見てぇに…耳をかっぽじってよく聞け…」
【星夜は真剣な表情で星次の目を見つめつつ、語りかける。】
「お前は、俺が死んだのは自分のせいだと思ってんだろ?」
「…」
「やっぱりな…全く…お前は真面目で優しすぎるな。」
【星夜はそこでかすかに笑みを浮かべる。彼の手が、腕が、足が、少しずつ薄れていく。】
「俺が死んだのは…お前の所為じゃない。悪いのはあのクズ野郎さ…」
「だが…俺はあいつを逃がして…選択を間違えた…」
「お前は、正しい事をした。命は…簡単に奪うもんじゃねえ。お前はどんな奴だろうと…先ずは冷静になって、相手を見つめて、その上で行動した。その結果がどうなろうと…お前が選んだ道はお前だけの物だ…その選択が間違いなんて…俺が誰にも言わせねぇさ。」
【星夜は誇らしげに星次を見つめる。彼のその微笑む顔さえも透明になり始める。】
「誰かを簡単に殺せる様になっちまった時が…人間としての死…ヤクザの仲間入りだ。その銃の引き金の重さを感じろ…銃口を向ける相手を間違えるな…そして…必ず、相手を想え。それが、お前を守り続ける為の教訓だ。」
【星夜の体が全て消えかけて、彼の存在が薄れ始める。】
「ははっ…ボケたのか?親父…あの時と…同じこと…言ってるだけじゃ…ねぇか…」
【星次の目から零れ落ちた涙が星夜の体をすり抜け、星夜の下に広がる血溜まりに落ちて行く。】
「そうか?まぁ、これは大切な事だからな…お前がお前であることが…お前が自分で生きられる事が大切なんだよ…だから…背負う意味も無い罪を背負うな。前を向いて…進め。復讐なんざくだらねぇもんは捨てろ…復讐の為に全部を捨てるのは…俺が最後でいい…」
「悪ぃな…親父…それだけは無理だ。」
【星次は涙をジャケットの袖で拭いながら答えた。】
「あの日から俺は…産まれてから今の俺になるまでの全部を背負って生きるって決めてんだよ…あんたが死んだあの日からな。何もかも背負って進んで…必ずクズ野郎共を皆殺しにしてやる…!」
【星夜は、彼の言葉を聞きながら微かに微笑みを浮かべた。】
「じゃあ好きにしろ…『正道会』の現当主のお言葉に口を挟まねぇさ。」
「なぁ…親父…最後に教えてくれないか…?」
「何だ?」
「アンタと俺の名前の意味は…何だったんだ?」
【星夜は星次を見つめ返すと、ただ一言だけ答えた。】
「全部が終わったら…お前のお袋に会って聞け。」
【星夜がそう答えると、彼の姿は完全に消え去ってしまった。星次の手には、星夜が持っていた拳銃だけが残っていた。その銃のグリップを力強く握り締めると、彼は立ち上がった。外で光った雷が部屋を照らすと共に、天秤を持ったテミスが彼の背後に現れた。】
「さぁ…貴方の答えは…?貴方はこの罪に…どう向き合うのかしら?」
【テミスは微かにうつむきながら、星次に問いかけた。彼女の表情は部屋の暗さも相まって読み取ることが出来なかった。星次は彼女の問いかけに、息を吐いた後に力強く答えた。】
「俺は『有罪』だ…さっさと俺を裁きやがれ。」
「…そう。」
【彼女が持つ天秤は、星次の言葉を聞きいれたかのように傾いた。それと同時に、銃を持つ彼の手に『烙印』が現れた。彼はそれを確認すると、テミスを無視するかのように彼女の横を通り過ぎ、屋敷の外へ通じる引き戸へと向かった。】
「理由は…聞かないでおくわ。」
【彼女のその独り言のような言葉に振り返ることも無く星次は戸を開き、外へ出た。そこに降り注ぐ雷雨は消え、美しい青空と陽の光が彼を照らした。空を見上げる彼の視界の隅に、黒い人影が見えた。彼はそちらに目を向けると微かに驚き、優しい頬笑みを浮かべた。そこには、和服に身を包み、笑みを浮かべて彼を見つめる星夜の姿があった。】
「じゃあな、親父。俺もいつかそっちに行くぜ…」
「はっ…それなら、ジジィになってから酒でも持ってくるんだな。」
【星夜は後ろを振り返ると、そのまま町のどこかへと歩き始めた。彼は振り返らずに星次に別れを告げた。】
「じゃあな!上手くやれよ!!」
【星次はその言葉を聞きつつ、星夜に背を向けて歩き出し。彼もまた振り返ること無く言葉を返す。】
「誰にもの言ってんだ馬鹿親父…俺はもうやらかさねぇよ。」
【そうして2人は互いに背を向けて、この町を去っていく。別れに深い言葉は要らなかった。ただ何も言わずとも相手を理解していたからだ。血の繋がりのない2人の親子の絆が薄れる事はないままに、2人は二度と交わらない道を歩んで行った。】
「俺は真っ直ぐに進み続けるだけだ。道は間違えねぇ…」
【星次の独り言を風が運び、陽の光が彼を包み込んだ。そうして彼は、その町を去った。】
あとがき
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!
テスト期間や学校行事、更にはバイト…
忙しすぎて小説の投稿が常に遅れてしまってすいません…
これからもこのような事があると思われますが…
それでも、この物語の終わりまでお付き合い頂けると幸いです。
次回はジョゼフィーヌの過去触れる話となります。
改めて、ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!