第二部「破滅を照らす者:断罪の天秤」その14
目次
第47章「ゴミ貯めに浮かぶ星」
第48章「薔薇が散る時」
第49章「神と人の違い
あとがき
※だいぶ投稿期間が開いたので、読み直す事をお勧め致します。
第47章「ゴミ貯めに浮かぶ星」
「チッ…」
また…このクソみてぇな場所を見る時が来るとはな…
【星次は、周囲に突然現れた風景を見て不機嫌そうな表情を浮かべた。すると、どこからともなくテミスの声が聞こえた。】
『ここは幼い貴方が実の親に捨てられた末に辿り着いた、劣悪な環境の孤児院。貴方が彷徨っている時にその孤児院を経営してた男と出会って、連れてこられた場所。』
ここはマジでゴミ貯めみてぇな場所だったな…
まぁ、それでも実の親と居るよりはマシなとこだった…仲間が居たからな。
『その孤児院を経営していた男は孤児を助ける為ではなく、孤児の数に合わせて貰える支給金を増やし、私腹を肥やす為に孤児を集めていた…』
「はっ…求めてもねぇナレーションをどうも…」
ここはゴミ貯めみてぇな場所だった…
あの偽善者野郎は、入ってきた金を孤児の生活費だったり孤児院の改修に使う事は無かった…
酒に煙草に賭博に女…
俺達に与えられたのはボロい床と天井だけの何にもねぇ部屋、キツい仕事、少ねぇ飯…
後は虐待で怪我と恐怖を植え付けられた…クソみてぇな場所だ。
それでも何とか俺達は生きてきた…
周りの同じ境遇の奴らと一緒に協力したり、飯を分け合ったり…生きる為に盗みを働いたりもした。
『幼い孤児の貴方達が生きるには、余りにも過酷な環境だった…そして、生きる為に盗みに手を染め初めて何年か経ったその時、貴方は里親に出会った。』
【テミスが話を終えると同時に、風景が変わった。そこは薄暗い路地裏であり、人気の無い寂れた場所だった。星次がその光景を見て過去を振り返っていると、3人の子供の影と1人の大人の影が現れ、声が聞こえた。】
「おいリーダー…あのおっさんは狙い所じゃねぇか?」
「そうだよなぁ…やろうぜ!」
「はぁ…分かったよ。じゃあ…■■と■■がこの紐で転ばせろ。俺がおっさんの持ち物とるから…いいか?ギリギリまで紐は隠して、足首を狙えよ?」
「おっけー!」
「流石はリーダー!いつも早く作戦立ててくれるな!」
「いいからさっさと行け!」
なっ…これは…
「この影は小さい時の俺と…あいつらか…じゃあこの男は…!」
【彼が思わず独り言を呟いていると、子供の影と大人の影が動き、次の瞬間には男が3人の子供の影を軽々と倒している場面に切り替わった。そして、少し歳をとった男の低い声が聞こえた。しかし、その男の話し方は優しげでユーモアを感じる雰囲気があった。】
「まったく…こんなちびっ子がお友達と道具使ってまで俺に挑んで来るなんてな…大した度胸だなぁ?こいつらのリーダーはお前か?名前は?」
「…そいつらを逃がしてくれるんなら答える。」
「へぇ…?男前だなぁ…まぁ、俺には子供を痛めつける趣味は無いし別にいいぜ。変わりに、質問に答えろ。お前達…どこの家の子だ?」
「俺達に家なんか無ぇよ…」
「…は?じゃあどこで生きてるんだ?」
「孤児院だよ…あのボロっちいところ。」
【幼少期の星次のその返答に、男は驚いた様子で言葉を返す。】
「…嘘だろ?あそこにはたんまり金が…」
「俺達に使われる金なんかねぇんだよ!そんな金があったらこんなことしてねぇよ!!」
あぁ…俺は知ってる…
この後に…このおっさんが何て言うのかを…
「じゃあ、俺のとこに来い。ちょうど跡継ぎを探してたからな。」
「は?おっさん…あんた何言って…」
「お前は俺の子供になるって事だ。お前が言う通りにしてくれんなら…その孤児院のクソ野郎の根性と汚ぇ建物も建て直してやれるぞ?」
「あんた…何者なんだよ…!」
「俺か?俺はな…表向きは医者で、裏じゃ腐った奴らを潰す…ヤクザみたいなもんだよ。」
「……マジかよ。」
「そもそも普通の奴がこんなところ1人で歩くと思うか?」
「…おっさんの言う通りだな。」
「で?どうする?ガキンチョ。」
「あんたに着いてくよ…」
「いい判断だ…そんで、名前は?」
「…無い。」
【その返事を聞いた男は、また先程のように驚いた。】
「嘘だろ…じゃあ…お前、何が好きだ?」
「夜になった時に光ってるやつ。」
「…そりゃあ『星』って奴だな。じゃあ…決めたぞ!お前の名前は…『星次』だ!」
「せいじ…分かった。あんたの名前は?」
「後で教えてやるよ。あと…お前が大きくなったら名前の意味も教えてやる。ほら、帰るぞ…俺達の家にな。」
『これが貴方と被害者との出会いね…じゃあ、時を進めましょうか…事件が起きるその時まで…』
【テミスのその声が響くと路地裏と彼らの影が歪み、別の景色が現れ始めた。】
『ほら…懐かしいでしょう?この場所は…』
「あぁ…最高に懐かしいな…」
この場所が血塗れになる前って所も含めてな…
第48章「薔薇が散る時」
「風景が…いや…空間そのものが…!?」
【ジョゼフィーヌは、周囲の景色が急に変化し始めた事に警戒心を抱いていた。その景色はノイズのかかった映像の様に乱れ、様々な場面が一瞬で流れて行った。その時、テミスの声が聞こえた。】
『貴女…やっぱり普通の人間じゃないわね……まさか、貴女の過去の記憶にロックがかかっていたなんて…まぁ、いいわ。貴女の罪を暴くのに支障は無いから…』
【彼女がそう言い終えると、不安定に変化を続けていた空間が徐々に安定し始め、とある景色が現れた。】
「…ッ!」
この…場所は……
『あの日』の場所だ…
【彼女がその風景に複雑な感情を抱いていると、無線機を通した様な声が聞こえた。】
「こちら『アマリリスの花束』、α区画のテロリストの完全制圧を完了、オーバー。」
「こちら『アガヴェの花束』、β区画のテロリストの完全制圧を完了、オーバー。」
「こちら『オシロイバナの花束』、γ区画のテロリストの完全制圧を完了、オーバー。」
【彼女が立っている廃墟の様な建物内の至る場所から、銃声と共に薬莢が地面に落ちる音が鳴り響く。しかし、その音も先程の報告の声が聞こえると共に沈黙していく。完全に銃声が消えると、テミスが話し始めた。】
『これは…明らかに特殊部隊の状況報告ね。それに…花束はチーム名かしら?いや…花…?確かどこかで……まだ情報が足りないわね。記憶を進めましょう。』
【彼女がそう言い終えると、また声が聞こえた。その声は若い男性の声であり、非常に焦っている様子だった。】
「こ…こちら『UKSMS』!全部隊に通達します!現在、制圧を完了した全ての区画に新たな熱源反応を複数感知しました!敵襲に備えて下さい!!」
【彼がそう告げると同時にまた周囲から銃声が鳴り響き始めた。そして、ジョゼフィーヌが立っている廊下の奥にある扉の向こうからも足音が聞こえ始めた。その足音が近づく度に、彼女の脳内で『罪』が蘇り始め、息と思考が乱れ始める。】
「はぁ…はぁ…!」
来るな…その扉を開けるな…
私に…私に近づくな…!
『UKSMS…なぜ…なぜ『英国秘密軍事支援部隊』の名が!?いえ…まさか…!』
【今のジョゼフィーヌには、テミスの声と銃声はただの雑音でしか無かった。彼女の耳には、銃声にかき消されるはずのただの小さな足音が、この世の何よりも大きく響いて聞こえる。彼女の心は、確かな絶望と死の気配を携えて迫り来るその足音に支配されていた。】
『私はこの事件を知ってるわ…これは…『UKSMS』と傭兵部隊が、英国政府の命令で秘密裏に行ったテロリストの合同制圧作戦の場面ね…!』
【テミスは驚愕した様子で話し始めた。】
『確かその作戦に動員された特殊傭兵部隊は、全ての隊員のコードネームに花の名前を使うとされる世界最強の特殊傭兵部隊…』
【彼女がそう話す間にも、段々と足音が迫り続けている。】
『その傭兵部隊の中でもトップクラスの実力を持つチームは『薔薇』だと聞いた事があるわ…けれど…彼等も人間である事に変わりはない…』
【彼女がそこで言葉を切ると、扉の向こうの足音が止まった。】
『この事件の被害者は、『赤薔薇』…そして、その加害者は『青薔薇』…私は当事者じゃないから詳しくは知らないけれど…貴女なら知って居るのでしょう?』
【彼女がそう言い終えると、扉が音を立てて開き始めた。】
『なぜ『赤薔薇』が凶弾に倒れたのか…それを目の前で見ていた貴女なら…『青薔薇』の貴女なら知っているでしょう?』
「私は…私は……ッ!」
お姉様を…護ることが出来なかった人でなしだ…
【扉の向こうから、2人の人影が現れる。その姿は、大人と子供の姿だった。】
第49章「神と人の違い」
『さて…貴女の罪を見せてもらおうかしら…』
【テミスは、暗闇の中で佇むエリザベートに語りかけた。彼女は己の姿を消し、一時的に声のみの存在でエリザベートを観察するつもりだった。しかし、見えないはずの彼女の方を、エリザベートの鮮血の様に赤く鋭い瞳が見据えていた。】
「貴女に私の記憶を覗かせるつもりはありませんが、私は貴女の間の抜けた顔を見せてもらいましょう。」
【エリザベートがそう言いながら右手をテミスの方に向けた瞬間、テミスの姿が徐々に現れ始めた。】
「なっ…なぜ…なぜ私の姿が!?貴女…私に何をしたの!?」
「ふふ…先程の宣言通り、貴女のその間の抜けた顔が見られて少しは気が晴れましたね。」
【エリザベートのその言葉に冷や汗を流しつつ、テミスは天秤を取りだしてエリザベートに向けた。】
「裁きの天秤の下に汝に問う…貴様は我に何をした!」
「私が答える義理はありません。ですが、代わりにいい事を教えて差し上げましょう。」
【エリザベートはそういうと、冷たい微笑みを浮かべながらテミスに言い放った。】
「貴女が先程から感じているとおり、私はただの人間ではありません。貴女が持つ程度の低い堕ちた神の力など、今の私には無意味です。やろうと思えば…今すぐにでもその紛い物の『祝福』を無視して貴女を殺害できます。」
「なら…なぜ私を今すぐに殺さないのかしら?」
「理由は単純です。1つめは力を温存する為、2つめは私が手を出さずともあの子達が貴女を殺害できるからです。3つめは、あの子の成長の為です。」
「いいえ…それはありえない事よ!彼等は必ず罪を認めて…!」
「確かに、あの子達は過去の出来事を自らの罪と捉えるかもしれません。ですが、貴女はその事態に耐えられますか?」
「…どういう事?貴女は何を言っているのかしら?」
「確かにその天秤には、裁きの女神である『テミス』の力と意思が宿っています。ですが、神々と人間の価値観は全くの別物です。中には例外も存在しますが、『テミス』も人間の価値観とは相容れない部分があります。」
「何が言いたいのかしら…?」
【テミスのその問いかけに、エリザベートは真剣な表情で答えた。】
「その天秤が…『テミス』が定義する『罪』と、貴女が定義する『罪』は別物です。神々と人間は存在そのものが全くの別物…故に彼らと私達の常識や思考は根本的に異なります。つまり…『必ずしもその天秤は、貴女が思う様な裁きを行わない』という事です。このまま続ければ、確かに貴女はあの子達に罪を認めさせる事ができるでしょう。ですが…」
【エリザベートはそこで言葉を切ると、指で首を掻き切る仕草をした。】
「それは貴女を…貴女の心を殺すことになりますよ。良心の呵責によって…貴女は既に感じ始めているのでは無いのですか?己の信じる正義と、現実との違いによる心の拒絶を…」
【エリザベートのその言葉を聞いたテミスの瞳が揺れて一瞬だけ動揺したが、すぐに平静を装った。】
「そんな事はどうでもいいわ…私は、『レイ』と『儀式』の成功の為ならなんだって良いのよ!」
「実に愚かですね、貴女は…では、最後に忠告して差し上げましょう。もしも、このまま裁きを続けて力を得たとしても…貴女は必ず己の『祝福』に拒絶反応を起こし、すぐに力を失いますよ。無駄な事をせずに、今のうちに降参する方が懸命な判断です。」
「ご忠告どうもありがとう。けれど…私には必要の無い忠告ね。このまま貴女達を全員…殺すわ。」
【その言葉を聞いたエリザベートの瞳が赤く光り、彼女は心の底からの笑顔を見せた。】
「その言葉を聞けて嬉しいです。なぜなら、貴女が降参してしまえば、貴女が無様に地面に倒れ伏す様を見る事ができなくなってしまうところでしたから。」
【彼女がそう言い終えると、テミスとエリザベートの姿が次第に揺らめき始めて、お互いに周囲の暗闇の中へと溶け込んで行った。】
「さぁ、続けて下さい。あの子達の過去を掘り起こし終えた瞬間から…貴女の敗北への喜劇が始まるのですから…」
「本当に…どこまでも馬鹿にしてくれるわね。別にいいわ…貴女は、ただの観客として彼等が私に裁かれる所を見ていれば良いのよ…!」
【そして、テミスのその言葉を聞いたエリザベートは、笑みを浮かべながら完全に暗闇の中へと消えたのだった。】
あとがき
本当に1ヶ月くらい投稿が遅れて申し訳ない…!
この時期は本当にやる事が多く、小説を書くことも遅れたのです…
次回とその次くらいでテミス編が終わり、ついに教祖との最終決戦に近づき始める予定です!
これからも遅れてしまうことが多々あるかもしれませんが、これからも皆様に読んで頂けると心の励みになります。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!
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