第二部「破滅を照らす者:断罪の天秤」その13
目次
第43章「罪状」
第44章「迫り来る罪」
第45章「広がる黄昏、広がる血溜まり」
第46章「全校集会」
あとがき
第43章「罪状」
「貴方の罪は…『友人を見殺しにした』事よ。」
【テミスのその言葉を聞いた流輝は突然、激しく動揺し、呼吸を乱し始めた。】
「次は貴方よ。貴方の『罪』は…『自らの手で里親を…それも父親を殺した』事。」
【その発言を聞いた星次は、拳を握り締め、手を震わせていた。】
「次は貴方。貴方の罪は…『生徒を導く教師という立場の人間でありながら、殺人を犯した』事。」
【彼女が言い終えると同時に春喜は頭を抱えながらその場にうずくまってしまった。】
「さて、最後は貴女ね。ジョゼフィーヌ。貴女の罪は…『撃つべき罪人を撃たずに仲間を死の危機に陥れた』事よ。」
【その『罪』を告げられたジョゼフィーヌの瞳は光を失い、その瞳は微かに揺れていた。先程まで確かにそこにあったはずの強い意志や力が消え去ったかのように、彼女の雰囲気が変化した。】
「最後は貴女ね…彼女の内側から出てきなさい…!」
【テミスはジョゼフィーヌを見据えたままそう告げた。そして、テミスが持っている天秤から放たれた金色の光がジョゼフィーヌを包み込んだ。その光の強さが徐々に収まるとその場でジョゼフィーヌは倒れており、その隣に彼女に良く似た女性が立っていた。】
【その姿を見たテミスは彼女のあまりの威圧感に怯むが、それを押し殺す様に語気を強めて力強く言い放った。】
「貴様の1つめの罪は我が同胞であるへカーティアを殺害した事、そして、2つめは…『自らの手で同族のほとんどを滅ぼした』事だ…!」
【テミスが罪状を読み上げた瞬間、エリザベートの威圧感が更に強くなり、彼女が発する恐怖と殺気がその場を支配した。彼女は鮮血の様に赤い瞳でテミスを鋭く睨みつけ、怒りと殺意のこもった声で静かに言葉を発した。】
「いくら堕ちた女神とはいえ、不完全ながらも私をこの子から分離させることはできるのですね。実に不愉快です。それに…あの穢れた外道共と私を同族と言った事も不愉快です…身体が自由であれば貴女を一瞬で殺してしまう所でした。」
【彼女はそこで微かに笑みを浮かべた。しかし、依然として殺意と怒りが増すばかりで、目は全く笑ってはいなかった。】
「貴女の裁判ごっこに付き合って差し上げましょう。もちろん、被告人は貴女です。」
「それは叶わないことよ…彼らは必ず罪を認めることになる。」
「確かにそうかも知れませんね。ですが、彼らと私の子はそんなことでは止まりませんとも…ところで、いつまで無駄に立ち尽くすつもりなのですか?早く『裁魂の間』を開いて下さい。」
【彼女がそう言った途端、テミスは驚愕の表情を浮かべた。】
「な…なぜ貴女がそれを…!」
「私は、貴女に力を貸している女神と知り合いです。もっとも…今の彼女には初めて出会った時の様な正義の女神としての威厳は微塵もありませんが…」
「まさか…貴女は『神』と直接会った事があるとでも言うの…!?」
【テミスのその発言に、彼女はあからさまに不快感をあらわにしたため息を吐いた。】
「私の発言で推測できるでしょう…強力な力や知能がありながら、やる事と思考は赤子同然…これだから神とその配下は嫌いなのです。」
「貴女…やはり只者じゃないわね…」
【テミスはそう呟くと、天秤を揺らしながら言った。】
「まぁいいわ。結局、やる事も結末も変わらない…貴女達は『裁魂の間』で罪を認め、私の天秤と剣に裁かれて死ぬ…それだけよ!結局は貴女も私の力…女神『テミス』の『祝福』の影響下でしょう?」
【それを聞いた彼女の表情は一瞬にして冷たいものに変わり、遂に殺意や怒りを抑えることをやめた。】
「『通常種』の小娘如きが図に乗るな。貴様が我が物顔で振るうその玩具は貴様の物でも、『テミス』の本来の力でさえない紛い物に過ぎぬ。貴様が審判でどれ程の力を得ようと…真の『祝福』を持つ者には敵わぬ。」
「随分と見下してくれるじゃない…」
「ふっ…地を這う蟲をどうやって見上げろと言うのだ?愚かな小娘よ。」
【テミスはその挑発に答えること無く、『詠唱』を始めた。】
「我は罪を見定め、罪を裁く者。今この刻、罪人の懺悔の間をここに開かん!開廷せよ!『裁魂の間』!!」
【テミスがそう唱え終えると、天秤に着いている黒い瞳から黒い光が放たれた。そして、その光が彼らを包む中でテミスが見たのは、エリザベートの不気味な笑みだった。そして、黒い光が彼らを包み終えると今度はテミス自身をも包み込んだ。その光が消えた時、その場に立つものはいなかった。】
第44章「迫り来る罪」
「ここは…?」
【黒い光に包み込まれていた流輝は、漆黒の闇の中で目を覚ました。】
「俺は確か…テミスに何か言われて…ってか皆さんは!?」
う〜ん…本当にどこなのここ!?
めっちゃ暗いしくっそ怖いんですけど!?
あとさっきまでいた場所は!?
「ここは『裁魂の間』よ。」
「うわっあァ!?」
【後ろから聞こえた声に驚いた彼は、即座に後ろを振り向いた。するとそこには、テミスが立っていた。】
「先に言っておくけど、この『裁魂の間』の中に居ても『法』は適用されるわ。」
――――――――――
「お前…あいつらをどこにやったんだ…?」
「貴方と同じ場所よ。『裁魂の間』は私の『祝福』の1つ。この『裁魂の間』では、貴方達の様に己の罪を忘れた者や罪を封印した者、そして…」
――――――――――
「罪を認められない者に罪を認識させる為の場所よ。」
「じゃあ君は…それを利用して僕の記憶を思い出させようとしているのかい?」
「えぇ、そうよ。」
「1つ教えてくれないかな?君はさっき、僕と同じ場所に皆が居るって言ってたけど…」
――――――――――
「今この場には、あなたと私しか居ません…皆さんは今どこに…!」
「説明が悪かったわね。分かりやすく言ってあげると…『貴女達はそれぞれが個別の「裁魂の間」の中に居る』。そして私も、それぞれの『裁魂の間』に居るの。」
「それぞれの場所に…?」
「この場所は、貴女達の心や精神を反映する場所…貴女なら『魂の領域』に似た様な場所とでも言っておけば何となく分かるでしょ?物理的な空間ではなく、精神的な場所…だから私は一人一人の『裁魂の間』に私の思考を分割して、貴女達と対峙しているの。」
「つまり…あなたは私たち4人を隔離し、全員に対して同時並行で『審判』を行うつもりなのですか?」
「えぇ、そういう事よ。まぁ…正確には、4人じゃ無くて5人ね…貴女の母親を『人間』として数えるならの話だけれど…」
――――――――――
「け…結局…何をするつもりなんですか!」
「さっき言った通り、『裁魂の間』では貴方達の様に己の罪を忘れた者や罪を封印した者、罪を認められない者に罪を認識させる事が出来る。だから、それを利用して貴方達を裁くのよ。」
く…くそ!
正直に言うと何が何だか分からないけど…
皆の足は引っ張りたくない!!
「じ…じじじ…じゃあ!やってみて下さいよ!」
「えぇ、言われなくとも…貴方が望まずとも罪は裁くつもりよ。けれど忠告しておくわ…」
「え?忠告?」
「この『裁魂の間』に足を踏み入れた者は…一度の判決で『烙印』が2つ追加される程の罪を犯している可能性がある。貴方達はこれから…それ程までの重罪と向き合う事になるのよ…!」
第45章「広がる黄昏、広がる血溜まり」
「流輝…貴方の罪をもう一度教えてあげる。貴方の罪は、『友人を見殺しにした』事よ。貴方が忘れているその罪を…思い出させてあげる…」
【テミスが流輝にそう言い終えた瞬間、テミスの姿が揺らいで消える。そして、流輝の周りに広がっていた闇が変化し、とある景色が映し出された。】
「あれ!?景色…が…」
【そこに映し出された景色を見た流輝は、言葉を失ってしまった。目の前にあったのはとても小さな公園で、特に目を引く様な遊具も無かった。振り返ると、すぐそこには車道があった。空は夕暮れ時で、既に日が沈みかけている。既に子供達も家に帰っている時間帯の筈だ。】
「ここは…見た事が…」
【何かを思い出しかけた流輝の脳内に、テミスの声が響き渡る。】
『事件当時、貴方と被害者の年齢は6才だった。季節は秋、9月の初め頃…時刻は5時45分。日本では12月に近づくにつれて、日が沈むのが早くなるらしいわね…』
【彼女がそう言い終えると、流輝は鋭い頭痛に襲われた。】
「あ…頭が…ッ!」
何で…何でここに見覚えがあるんだ…!?
俺はここに来たことなんて…
『それが事件発生の要因の1つとなってしまった。そして何故、そんな時間になるまで帰らずに公園に居たのか。それは、貴方が彼を止めなかったから…』
「俺が……見殺しにした…?血塗れになって…目の前で…?」
『あら…思い出してきたかしら?そうよ…貴方は見殺しにした…でもその衝撃的な場面が貴方のトラウマになった結果。己の精神を護る為に、貴方の脳がその記憶に鍵を掛けた…いわゆるPTSDね。そして今…その鍵が開き始めた。』
【彼女がそう言い放つと、流輝の後ろにあった車道から車のクラクションと共に、何かが潰れる音が聞こえた。そして、彼が後ろを振り返った時、そこにはボンネットが凹み、血まみれになった車と地面が目に映った。】
「あ…あぁ…優…斗…?」
『ユウト…それが貴方の友人の…被害者の名前なのね。じゃあ、最後のひと押しをしてあげる…貴方が全てを思い出す為の最後のひと押しを…』
【すると突然、車の前に広がる血溜まりが動き初め、その血が人の形に変化し始めた。そして、それは声を発した。】
「りゅうき…ひさしぶりだな。」
「…そうだ。俺が…」
優斗を…殺したんだ…
第46章「全校集会」
「ここは…学校の廊下…かな?」
【春喜は1人、陽の光が差し込む廊下に立っていた。】
【彼が状況を把握しようとしていると、校内放送が聞こえた。】
『ただいま、玄関に大きな荷物が届きました。』
「この放送は…!」
『貴方が居た場所では、それが不審者が入ってきたことの合図だった。』
【彼の目にテミスの姿は見えないが、彼女の声が聞こえてきた。】
「テミスさん…君は何をするつもりだ!」
『貴方が自らの罪と向き合うことを手助けするだけよ…それに、私が貴方を裁くには、貴方の乱れた過去の記憶を見る必要があるの。正直、このケースは異常ね。さぁ…貴方の過去を見せなさい。』
【彼女の声が聞こえなくなるとと同時に、また校内放送が聞こえた。】
『只今より、全校集会を行います。生徒、職員の皆さんは体育館へ集合して下さい。』
【放送が終わると、廊下にその姿は見えないが、大勢の足音と小さな話し声が聞こえた。その中でも彼の耳に良く届いたのは、4人の男女の学生の会話だった。】
「ねぇねぇ…不審者が入ってきたってマジ…?」
「いやいや!どうせ訓練かなんかでしょ…」
「それは無いだろ…訓練だったら朝で何か言われるって…!」
「え?⬛︎⬛︎ビビってんの…?」
「そりゃそうだろ!春喜先生は先生の中でも真面目な人だぜ?あの先生が訓練のこと言い忘れるわけねぇだろ!コレはマジだぜ!」
春喜…先生?
僕の事…なのか…?
「う…それはそうかも…」
「ね…ねぇ…春喜先生は大丈夫かなぁ…」
「確かに…春喜先生ってあんまり強そうには見えないしな…めちゃくちゃ細身だし…」
細身…?
…やっぱり僕じゃないのかな?
「…あれ?そういえば…何で春喜先生いないんだっけ?いま私達と一緒に居るのって副担だよね?」
「そういやお前寝てたんだっけ?」
「それがな…春喜先生は、副担の先生が放送を聞いて教室に来た時に、その先生に話しかけられてたんだよ。それで話の途中だったらしいんだけど、急に全力で走って教室を出ていったんだよ…」
「めっちゃ速かったよな…」
「わ…私もその話が聞こえたんだけどね…?⬛︎⬛︎ちゃんが…東側の校舎の1階のトイレに行ったきり帰ってきてないって…!」
【その話を聞いた春喜は、何かとても嫌な予感がした。】
まさか…取り残された子が居るのか!?
何だろう…この感じ…
僕は前にもこの胸がザワつく感じを…
「あ!確かに⬛︎⬛︎居ねぇじゃん!ヤバくね!?」
「しかも東側ってあの廊下の向こう側のとこでしょ?あっちはボロいから工事してる場所もあるって聞いたし…」
廊下の向こう側…?
もしかして…!
【春喜は廊下を見渡すと、廊下の端の方に標識を見つけた。そこには矢印で方角が示され、彼の後方が『西棟』、彼の向いている前方が『東棟』と示されていた。】
「…行かないといけない!何か…そんな気がする!!」
【彼は独り言を呟くと、全力で廊下を走って『東棟』を目指した。その時、最後に彼が聞いたのは、『春喜先生』を心配する不安そうな声だった。】
「じゃあ春喜先生はもしかして…」
「そうかも…しれねぇな…」
「そ…そんな!先生…!」
「だ…大丈夫だろ!先生は頭が良いし!」
【しかし、彼はその会話を聞いても思考する事を放棄していた。ただ今の彼の頭の中には、1人で取り残されたであろう少女に対する無事を願う気持ちと、焦燥感しか無かった。】
あとがき
またまた遅れて申し訳ない…
就職活動が忙しくなって来たので投稿が最近は遅れがちです…
それでも読みに来てくれる皆様には感謝しかないですね!
今回は春喜と流輝の過去が明かされましたね!
次回はジョゼフィーヌ、星次、エリザベートの過去が明かされる予定です。
そして、全員の過去が明かされた後は…
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!
それでは次回もお楽しみに!