第二部「破滅を照らす者:断罪の天秤」その12
目次
第40章「Dead or Alive」
第41章「真と偽りを織り交ぜて」
第42章「逃れられぬ枷」
あとがき
第40章「Dead or Alive」
「私がここに居る限り…あなたが皆さんを傷つける事は許しませんッ!」
「やってみると良いわジョゼフィーヌ。貴女の守護と私の裁き…どちらが強いか思い知らせて上げる!」
【テミスがそう言った瞬間、ジョゼフィーヌは彼女の黄金の剣を『死神の薔薇』の刃で押し返し、体勢を崩させようとしたが、テミスは1歩も後退すること無く逆にジョゼフィーヌを押し返した。】
「まさか…これ程までの力があるとは…!」
「私も驚いてるわ…貴女…速さだけじゃなくて力もあるのね。」
【テミスが不敵な笑みを浮かべながら彼女に語りかけた時、ジョゼフィーヌの左右にいた星次と春喜が同時に挟み撃ちを仕掛けた。】
「俺達を忘れてねぇか…?」
「悪いけど…倒させてもらうよ!」
【2人がそれぞれの『祝福』を用いて彼女に攻撃を仕掛けると、彼女はその場で1歩後ろに下がり、黄金の長剣を片手で真横に振りながら回転斬りを行った。窓から溢れる光を反射しながら、風を斬る鋭い音と共に刃が彼等に迫る。】
「これは…受け止めるしかないね!」
「あっぶねぇな…!」
【春喜は『先立つ者《Predecessor》』で刃を受け止め、星次は『|天国と地獄《Eden&Hell》』でガードしながら後ろに飛び退いた。】
「皆さん!大丈夫ですか!」
「あぁ、ギリギリな!」
「皆、気を付けて!彼女の力はだいぶ強い…僕は筋力に自信が有るけど…彼女はきっと僕以上に強い!」
「え…あの春喜さんよりも!?」
とりあえず彼らは無事だ…
そして今は彼女との距離が確保出来ている。
先ず初めに行うべきことは…彼女の分析だ。
今の彼女は見て分かる通り『審判』という能力によって全体的な能力が上昇している。
だがこれは…あのルールには無かった…
つまりこれは彼女の別の能力…
恐らく…『相手の罪を確定させた瞬間に能力が上昇』といったところだろう…
あの『審判』では『自白』を選ぶ事が最善の選択だが…問題は効果の重複だ!
おそらく1対1の状態であればそこまで大した効果になる事は無かっただろう。
だが、彼女は4人分の『自白』の効果を受けている。
『自白』の効果によって私達が受けるダメージが減少しているとはいえ、今の4人分の『自白』を受けた状態ではそれすらも意味を成さないだろう…!
それに加えて…彼女本人の剣技と判断能力は凄まじい!
さらに『自白』によって私達の能力が低下している事が戦闘の厳しさを引き上げている…!
この状態で彼女を倒すには…出し惜しみをしては居られない!
【その時、彼女は自分の心の奥深くに呼びかけた。】
『お母様!』
『はい、分かっています。私の能力の一部解放と戦闘のサポートを行います。それとジョゼフィーヌ…』
『何でしょうか?』
『貴女がどうにか彼女を出血させる事が出来れば、彼女の『祝福』の力への干渉と、私の能力をもう一段階解放できます。そしてあともう1つ…』
『はい?』
『今の貴女には、彼を治療して成長した事で目覚めた『血を統べる者《Ruler of Blood》』の能力があります。それを使えれば…より彼等との連携を深める事が出来るでしょう。』
第41章「真と偽りを織り交ぜて」
「皆さん!先ず最初に私が彼女を抑えます。その間に皆さんは挟み撃ちをお願いします!」
【ジョゼフィーヌはその場で屈み、後ろ手に何かを準備しながら彼等に指示した。】
「あぁ。」
「OKだよ。」
「が…頑張ります!」
「あら、そんなに大声で作戦を叫ぶのね。貴女は私が思っていたよりも馬鹿なのかしら?」
いえ…彼女はそんな馬鹿な真似はしない。
私には分かる。
貴女のその身のこなし、雰囲気、その目…
貴女は明らかに戦いを知っている側の人間。
それも…貴女はただの兵士に留まらない…
強者なんて言葉じゃ生温いほどの実力の持ち主…!
「…時が経てば経つほど私達にとって不利になると判断したのみです。あなたの血は…私が貰い受けます!」
確かに合理的な判断ね…
けれど…突然、雰囲気が変わった。
私が見た彼女の記憶の中に居た『謎の存在』に近い雰囲気に…
そして返答へのほんの一瞬の間…
「何か妙ね…」
【テミスはそう呟くと一瞬だけ剣を天秤に戻し、ジョゼフィーヌに向けて呟くように『魔法』を唱えた。】
「『審判』…」
【彼女がそう唱えると、天秤の皿の上にはとても小さな向日葵と青い薔薇が出現し、薔薇の乗った皿の方が僅かに下に傾いた。】
この傾き方は…
「微かな真実と大半の嘘…」
【彼女は天秤の傾きを見て呟くと、瞬時に天秤を剣に戻した。】
彼女が思っている事は恐らく本当…
じゃあこの嘘はどこから来ているのか…
「挟み撃ち…余りにも単純すぎるわね。」
「単純だからこそ…効果的な物もあるのです!」
【ジョゼフィーヌはそう言うと拳銃を取り出し、テミスに向かって全力で走り出しながら、左手で拳銃を3発撃った。大きな炸裂音と共に弾丸が彼女を目掛けて飛んで行く。それと同時にジョゼフィーヌの『死神の薔薇』が右手で投げられ、風を斬る音を立てて回転しながらテミスに向かって行く。】
「速いわね…けれど、甘いわ!」
【テミスは剣で銃弾を全て弾き、こちらに向かって飛んでくる大鎌を刃で叩き落とした。】
彼女が使ってる拳銃はベターメント…
彼女は既に私に対してこの空間に入る前に3発、今のを含めて合計6発…残りは2発!
【そこで彼女が視線を落とすと、ジョゼフィーヌが投げた大鎌が目に映った。】
これは彼女の『魔武具』の1つね…
でも明らかに投擲用じゃ無い…
なのに投げる理由は?
「よそ見をしている場合ですか…?」
【テミスが目を上げると、すぐ目の前までジョゼフィーヌがアーミーナイフを構えながら迫って来ていた。】
「そんな…ッ!」
どういうこと…!?
今の彼等は能力が下がっているはず…なのに…
ここまで早く移動できるのは明らかな異常!
だが…これは好都合だ!
「そんなナイフで私の剣を受け止められるかしら?」
今は彼女の対応を優先するだけでいい。
彼等は彼女のスピードに追いつけていないはず…
全員に囲まれる前に少しでも彼女の体力を…!
【彼女か剣を振り上げ、ジョゼフィーヌを切りつけようとした時、圧倒的な違和感に気づいた。】
あのナイフに着いてる血は…?
あれは乾いてない、それもたった今…数秒前に着いた様に…
【そして、彼女の目線がジョゼフィーヌの左手に移る。】
これは…
「切り傷…!?」
【彼女は何か嫌な予感を感じ取りながらも剣をそのまま振り下ろそうとすると、ジョゼフィーヌは瞬時に後ろに飛び退いて叫んだ。】
「『骸に咲く花《Corpse Flower》』!」
【すると、テミスの目の前に落ちていた大鎌の周りから蔓や茨が生え始め、彼女の足や腕に高速で伸び始めた。】
拘束するつもりね…!
彼女がこの『魔武具』を投げたのはこれが狙い!
なら…あのリストカットは?
でも今は…
「断ち切るしかない…!」
【彼女はジョゼフィーヌへと向けていた剣を急速に方向転換し、そのままの勢いで伸び始めた植物を切り落とした。そして次の瞬間、彼女の後ろから複数の音が聞こえた。】
「なにッ!?これは…!!」
【それに気づいた彼女は反射的に後ろに反転し、薙ぎ払う様に剣を大きく振るった。すると何も無い空間に振るった筈の彼女の剣に、何かを斬った感触が伝わった。そして、そこから流輝と星次が現れた。】
「…っうあ!」
「チッ…退くぞ!」
【流輝は左腕から血を流しており、無傷だった星次は彼の肩を掴んで後ろに引き寄せた。】
「いったい何が起きて…!」
幻覚魔法か認識阻害での隠密行動?
それとも瞬間移動…?
いや、それよりも…2人?
【その瞬間、彼女の左側から現れた春喜が、彼女の頭を目掛けてメイスを全力で振り下ろした。】
「避けられない…ッ!」
【彼女は急いで剣で彼のメイスを受け流そうとするが完全に受け流すことはできず、左肩にメイスが命中して思わず痛みに声を上げる。】
「うあ…っ!」
「今です!」
【それを見ていたジョゼフィーヌがナイフを構えて彼女に迫ったその時、振り子時計から大きな鐘の音が鳴り響いた。】
「時間よ…!『審判』!」
【テミスがそう叫ぶと、全員が1回目の『審判』の時に立っていた位置に戻された。】
第42章「逃れられぬ枷」
「本当に、危ない所だったわね…まさか…初めからここまで追い込まれる事になるとは思わなかったわ。けれど、それも1回限りよ…!」
【テミスは左肩から血を流し、歯を食いしばりながら言った。】
「貴女は最初に後ろに手を回していた…その時点で自分の手を切っていた。その理由は…『血を媒介とした情報伝達の魔術』を使用するためね…!でなければ…貴女の自傷行為と彼等との無言の連携に説明が付かない。」
【彼女は左肩を庇いながら続ける。】
「拳銃を撃ちながらその鎌を投げたのは…鎌は私を拘束する為。拳銃を撃ったのは私への攻撃と…『彼等の気配と足音を発砲音で誤魔化す為』ね。いきなり私の後ろから現れたのは…貴方の『祝福』ね…」
「なっ…!」
【彼女の発言に思わず流輝は反応してしまい、その様子を彼女に見られてしまった。】
「その反応で確信したわ…私が貴方を斬った瞬間に貴方達の姿が現れた…それは痛みで集中が切れたからでしょう?」
まさか…全てをここまで完全に言い当てられるとは!
彼女は『血を統べる者《Ruler of Blood》』の…私に新たに目覚めた『血を介する思考共有の能力』を知っているのか…?
【その時、エリザベートがジョゼフィーヌに話しかけた。】
『ジョゼフィーヌ、聞いて下さい。』
『何でしょうか?』
『彼女は恐らく普通の情報伝達系の魔法と、私達『|血を統べる者《Ruler of Blood》』の血の能力を誤認しています。まだ彼女は私達の力を完全に理解出来てはいません。』
『ですが…彼女が今言ったことは全て当たっています。いずれは私達の真実が…!』
『いえ、ジョゼフィーヌ。焦ることはありません。私が初めに言ったことを覚えていますか?彼女を出血させられれば能力を更に解放し、『祝福』に干渉することができるということを…』
『まさか…!』
『えぇ、私達が勝つのは時間の問題です。この『審判』を乗り越えた後は…彼女の傷口に貴女の血を混ぜるか、彼女の血に接触して下さい。その後は私に任せて下さい。』
『はい!分かりました!』
【彼女達が話し終えると、テミスは右手で天秤を掲げた。】
「第二の『審判』を初めるわ。次の罪状はあなた達一人一人が抱えている『罪』よ。最初の被告人は…流輝、貴方よ。」
「え…俺は犯罪なんてやった事も…?」
「貴方の罪は…『友人を見殺しにした』事よ。」
「見殺し…?俺はそんなこと…」
「貴方の脳はその『罪』を奥深くに隠している。思い出せないのなら…私が思い出させてあげる…!」
【テミスのその言葉を聞いた流輝は突然、激しく動揺し、呼吸を乱し始めた。】
「俺が…?俺が…誰かを見殺しに…?友達…?俺が…俺が…?」
「流輝さん!落ち着いて下さ…」
「静粛に。」
【テミスが一言そう言うだけで、また彼等は声を出せなくなる。】
「他の被告人同士の発言は認めないわ。今の彼には…あなた達の声も聞こえない。」
【テミスは残酷な微笑みを浮かべながら、星次に向き合った。】
「次は貴方よ。貴方の『罪』は…『自らの手で里親を…それも父親を殺した』事。」
【その発言を聞いた星次は、拳を握り締め、手を震わせていた。】
「テメェが…赤の他人が……俺の過去に踏み込むんじゃねぇ!!」
「あら、それは失礼したわね。でも私は罪人には容赦しないと決めてるの。正義の為なら人はどこまでも残酷になれる…時には犯罪者よりも…!」
【彼女は挑発するように言い放つと、次は春喜に向き直った。】
「次は貴方。貴方の罪は…『生徒を導く教師という立場の人間でありながら、殺人を犯した』事。」
「僕が…教師……?」
「何かの理由で記憶が欠損してるみたいね。でも、私の『審判』の能力でその当時の記憶を見れるの。完全に見ることは出来ないけれど…貴方がどれほど拒もうとも思い出させてあげる。公正な『審判』の為に。」
【彼女が言い終えると同時に春喜は頭を抱えながらその場にうずくまってしまった。】
「ぐっ…あぁ…頭が……僕は…いったい…!?」
「さて、最後は貴女ね。ジョゼフィーヌ。」
私の『罪』か…
あぁ…それは…きっと…
「貴女の罪は…『撃つべき罪人を撃たずに仲間を死の危機に陥れた』事よ。」
あとがき
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!
本来は昨日出す予定でしたが、データが残っていなかったので絶望しながら書き直しました。
次の話で、キャラクター達一人一人の過去や真実が明かされていくと思うので、是非お楽しみに!
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