第二部「破滅を照らす者:断罪の天秤」その11
目次
第35章「開廷」
第36章「罪が辿り着く場所」
第37章「審判」
第38章「無か有か」
第39章「傾く天秤」
あとがき
第35章「開廷」
「早いわね…ジョゼフィーヌ。」
「あなたは…!」
【彼女がその攻撃の主に反撃をしようとした瞬間、その人物は素早く後ろにステップを踏み、距離を取った。そして、門の前に立つと金色の剣を手に、彼らに告げた。】
「ようこそ、罪人の皆さん。あなた達がここに来るのを待っていたわ。」
「おっと…初対面で罪人呼ばわりか?先ずは…名前から名乗ったらどうだ?想像は着くがな…!」
【星次のその言葉に、門の前に立つ者は答える。】
「我が名は法と正義を司り罪を裁く者、『テミス』。私は『ロキの化身』の1人にして…貴様らを断罪する処刑執行人である。」
【彼女はそう告げると、彼らを鋭い目で睨みつける。】
「ここがあなた達の墓場よ。あなた達がこの門を通り抜ける事は無い。あなた達がこれから潜くぐる事になるのは…冥界への門よ!」
【その言葉と共に、彼女が手にしていた黄金の剣の刃が光と共に消え、剣の柄が天秤の様な物に変化した。】
「な…何だあれ!?ってかさっきあの人…何でジョゼフィーヌさんの名前を…!」
「…通信機使ってた時だろうな。お前があいつの名前を呼んじまってたからだ。」
【星次の言葉を聞いた流輝が後悔の表情を浮かべる様子を見ながら、嘲笑うような声でテミスが彼らに告げる。】
「いえ、それだけじゃないわ。」
「じゃあ…君はどうやって…?」
「私の天秤の『審判』によって…『被告人の有罪が確定した瞬間に、被告人の名前が公開される』のよ。」
「そ…それは嘘だ!そうだったらとっくにジョゼフィーヌさんは…」
【流輝が反論しようとした時、目を淡い緑色に光らせた星次がその言葉を遮った。】
「いや、『隠された真実』でこいつの感情を読んだが…嘘の感情が混じってねぇ…」
「では彼女が発言した能力について、星次さんの証言から推理すると…『完全に対象の真名を知る為には、何らかの条件がある』という事になる筈です!」
【ジョゼフィーヌの言葉を聞いたテミスは、冷たい笑みを浮かべながら答える。】
「流石、へカーティアを殺しただけはあるわね。」
【その時『先立つ者《Predecessor》』を構えた春喜が、彼女を諭す様に語りかける。】
「条件の内容は分からないけれど…君がジョゼフィーヌさんにやったみたいにその能力を僕たちの内の誰かに使うなら…君は残りの3人を同時に相手にする事になる。勝ち目は無いはずだ!だから、今すぐに降参してくれないかな…?」
【彼女は彼の言葉を冷笑し、言い返した。】
「随分と優しいのね。それとも、仲間と自分の力を過信しすぎた間抜けなのかしら…?それに…私が仲間の仇を黙って見逃す様な乙女にでも見える?」
【彼女の言葉には段々と皮肉と殺意が混ざり、怒りがヒートアップし始めた。】
「貴方達の様な戦いを知らない人間が私に勝てるとでも?さっきの斬撃にだって彼女以外は反応も出来なかったくせに。」
「そ…それでも皆で戦えば…一人一人に『祝福』があるんだから勝てるに決まってるじゃないですか!」
「貴方…本当に馬鹿なのね。まぁ、仲間の名前をばら撒く様な人間には想定できない事でしょうけれど…」
【テミスは流輝を見つめながら言い放ち、冷酷な笑みを浮かべながら続ける。】
「いつ私が、『同時に審判にかけられる対象は1人だけ』なんて言ったのかしら?」
「…ッ!」
【彼女のその言葉を聞いたジョゼフィーヌは表情を変えることも無く即座に拳銃を構え、引き金を3回引いた。しかし、発射された弾丸はテミスに届く直前で金色の光に包まれて消滅した。それを見届けたテミスは、天秤を掲げて口を開く。】
「罪人よ!我が断罪の秤を前に、己の罪を受け入れよ!!」
【彼女のその言葉と共に、天秤が光を纏い始める。そして彼女は、力強く静かに『詠唱』を終える。】
「開廷せよ…『咎め立てる視線』!」
【天秤に着いている黒い瞳が彼らを見つめる。その漆黒の不気味な瞳は、どこから見ても全員と目が合い、彼らの視線を釘付けにする。次の瞬間、天秤が纏っていた光が周囲に広がり、空間を侵食し始める。】
「皆さん!構えて下さい!!」
【ジョゼフィーヌのその言葉を最後に、テミスと彼等は『第三の門』の前から光と共に姿を消した。】
第36章「罪が辿り着く場所」
「ここは…」
【彼等は光に包まれた後、徐々に光が収まると周囲を見渡す。すると、テミスの声が前方から聞こえた。】
「ここは私の法廷。全ての罪が暴かれ、裁かれる場所…そして、貴方達の様な罪人が自らの罪と向き合う場所よ。」
【彼等が前を見ると、テミスが赤色の玉座の様なものに座っていた。】
「改めてようこそ、罪人の皆さん。周りを見てみるといいわ。」
【彼等が立っていた場所は、黒い大理石の床と白い石の壁で構成された古風な建物の中だった。テミスが座る椅子の後ろには巨大な振り子の時計があり、ただ静かに左右に揺れては時を刻んでいた。窓から射す光は夕暮れ色で、その光を受けた窓ガラスが黄金色に光っている。そして、天井は青色でその中心にはめられた円形の天窓が、巨大な室内に光を広げていた。その美しい光景は、法廷と言うよりも教会や聖堂の方に近い荘厳な美しさを漂わせていた。】
この空間の全体的な広さと、私達と彼女との間の距離は約80m辺りといった所か…
窓を突き破って室外に脱出する事は…
【ジョゼフィーヌがテミスの事を警戒しつつ、策略を練りながら窓の外を見たその瞬間。彼女は想定していた作戦の内の1つが無意味になったことを悟った。】
【彼女達が居たのは、巨大な壁に取り囲まれた塔の最上階だった。その壁には無数にアーチ状の門の枠の様な穴が開いており、その先は漆黒の闇に支配されているせいで何も把握出来ない。しかし、時折その闇の中からは何かの視線を感じる。室内の天窓から空を見渡すと、その塔を閉じ込めるかのように、更に大きなガラスのドームが空を隔てている。】
室外からの奇襲と狙撃は余りにも開け過ぎていて不可能だろう…その上、この塔からは周囲の光景がひと目でわかる構造になっている。
『咎め立てる視線』…ここはその名に相応しい空間だ。
とにかく…
今は、近接武器よりも遠距離武器を使うべきだ!
「『|深淵の夜《Night of the Abyss》』…!」
【彼女が『魔武具』を取り出そうとしたその時、黒い影が一瞬だけ現れては直ぐに霧散して消えた。】
「無駄よ。」
「なぜ私の『魔武具』が…!?」
【彼女のその困惑に対し、星次も歯を食いしばりながら静かに彼女に告げた。】
「いや…お前の『魔武具』だけじゃねぇ…俺の『魔道具』も出せねぇ…!」
「実は…俺も出せません!」
「僕もなんだ…!」
【その様子を冷ややかな目で見ていたテミスは、椅子から立ち上がると数歩だけ前に進み、天秤を彼等に突きつけながら話始めた。】
「この『咎め立てる視線』は異空間と結界に近いものよ。そして私の『祝福』の1つ。この中では、私も貴方達も法に縛られる…」
「ルール?」
「まず、この空間を展開する条件は『相手に絶対的な罪が存在している』こと。そして、『この空間に足を踏み入れた者は、審判の最中にお互いに攻撃ができない』というのがルールの1つ。それが貴方達の攻撃系『祝福』の使用を妨げている。もちろん、『祝福』以外の攻撃も今は不可能よ。」
「へぇ…こんなに自分から能力を喋ってくれるとは…あんた、随分と優しいんだな?」
「これも私の『祝福』のルールよ。『審判の前には、相手に法を話す』こと…私は公平なのよ。さぁ…」
【彼女はそこで言葉を切ると、天秤を揺らした。】
「審判を始めましょう…!」
第37章「審判」
【黄金の天秤の鎖が、ジャラジャラと音を立てて揺れる。そして彼女は軽蔑が込もった冷たい声で、罪状を述べる。】
「貴方達は…私達の仲間である『へカーティア』を殺害し、彼の部下を襲った。それが貴方達の絶対的な罪。」
【彼女がそう言い終えると、天秤の片方の皿にはへカーティアの『手鏡』が、そしてもう片方の皿にはジョゼフィーヌ達の『魔武具』や『魔道具』の小さなレプリカが現れた。】
「しかし、私達がこの古城を占領しているのが不当であることや、彼の部下を殺害ではなく捕縛に留めている点から考慮して…刑罰は軽いものとする。そして、あなた達には選択肢がある。だが…」
【彼女がそう言い終えると、彼等は体が硬直して動かなくなり、口を開くことしか出来なくなった。そして、ジョゼフィーヌの右手の甲にのみ黒い模様が現れた。】
「貴様にその選択肢は無い…!」
「うっ…!?」
何だ…この模様は!
手の甲に…焼けるような痛みが…!
「ジョゼフィーヌさん!」
【痛みに呻く彼女を見た彼等は思わず駆け寄ろうとしたが、なぜか体が動かない。】
「チッ…マジで体が動かせねぇぞ…!」
「君は…ジョゼフィーヌさんに何をしたんだ…!」
「それは罪人に刻まれる『烙印』よ。先に言っておくと、それが3つ刻まれた者は『完全に私の支配下に置かれる』。そして、彼女は既に通信機ごしに罪を自白している…本来であればその時点で処刑にしてたけど…面倒な事にその誠実さが『女神』の力を抑えた様ね。」
「は…?『女神』…?」
「私達の『祝福』は、実際に神々の力と特徴その物が組み込まれている。つまり、私のこの天秤にも『テミス』の力と意思が込められているのよ。」
【その時、彼女の言葉が真実である事を裏付けるように、エルゼーべトの声がジョゼフィーヌの脳内に聞こえた。】
『ジョゼフィーヌ、気を付けてください。あの者の言葉は真実です。彼女の『祝福』には神の力があります。とても懐かしく…愚かで哀れな者の力が…神の『魔力』は特徴的です。私が間違えるはずもありません。』
『とても懐かしい…私が間違えるはずも無い…?その言い方は…まさか…お母様は…!』
『今は置いておきましょう。問題は彼女の『祝福』の効果についてです。大人しく彼女の説明を受けた方がよろしいでしょう。』
『…わかりました!』
【ジョゼフィーヌとエリザベートの会話が終わったのを見計らっているように、テミスが話し出した。】
「脳内会議は終わったかしら?貴女のお母様との会話は…」
まさか…
「なぜ彼女がお母様の存在を…!」
「なぜ私が貴女の内側に居る者の存在に気付いているのか…それも含めて、『審判』のルールを教えてあげるわ。無駄死にしたくないのなら良く聞いておく事ね。」
第38章「無か有か」
「まず、この『審判』は定期的に発動される。そして、この空間にいる限り『審判』からは逃れられない。『審判』にはあの振り子時計が12時を指すまでのクールタイムがある…」
【彼らが振り子時計を見ると、長針と短針と秒針が12時を指していた。】
「次に、『審判』ではあなた達がこれまでに犯してきた罪が告訴される。『審判』は三審制よ。審判の際には、私は『被告人が罪を起こした当時の記憶の一部』を覗き見ることが出来る。」
「まさか…だからあなたはお母様の存在を…!」
「えぇ、そうよ。それに、貴女の母親も『審判』の対象よ。だけれど…力が強すぎるせいで彼女の真名の欠片さえも知る事が出来ないわね…まぁ、いいわ。」
【テミスは至って冷静にそう言い放っていたが、彼女の首筋に冷や汗が伝っているのをジョゼフィーヌは見逃さなかった。】
あれはお母様の力への明らかな動揺と緊張の証…
お母様の力を最適なタイミングで使えば、確実に彼女を無力化する事が可能になるかもしれない…!
それにしても…
お母様の存在への謎が更に深まるばかりだ…
先程のお母様の『神』に対する発言や、『神』の力に対抗できるほどの力を持ち得ているというのは…
【そこで彼女は頭を横に振り、思考をリセットした。】
今は後回しだ…
戦闘時に別の事を考えるのは愚行でしかない!
「さて、ここからが私がさっき言った選択についての説明よ。あなた達には罪状を述べられた後に、『弁解』、『黙秘』、『自白』の3つの選択肢が与えられる。そして、その選択と内容から『判決』を下すわ。」
「裁判官はお前がやんのか…?それだとお前は俺達にとって不利になるような事を…」
「それは絶対に無いと私の全てに誓えるわ。それに、この天秤には『テミス』の意思も入ってるの。私がそんな安い悪事を働く事はそもそも出来ないわ。」
「…まぁいい。続けろ。」
「まずは、『弁解』。これはそのまんまの通りね。結果によっては無罪にも有罪にもなり得るわ。次に『黙秘』、これは罪を否定せず認めもしない。この場合は『相手に少なからず罪を犯した事実がある』として有罪よりの判決にする。最後に『自白』、これは被告人が自らの罪を認める事。この場合は、『被告人の誠実さに免じて罪を軽くする』わ。」
「え…えっと…無罪と有罪はどんな事が…?」
【流輝が恐る恐る尋ねると、テミスは指を鳴らした。すると、彼らの前に黒いスクリーンの様なものが現れ、文字が映し出された。】
「聞くよりも読んだ方が分かりやすでしょう?」
【開示されたルールを読み終えた彼等は、それぞれが内心で様々な事を考えていた。思考を巡らせていると、テミスが話し始めた。】
「もういいでしょう?さて…あなた達3人の選択を聞かせてくれるかしら?あなた達は…我が同胞であるへカーティアを殺しておいて、一体どんな選択をするのかを…!」
第39章「傾く天秤」
どんな選択をするのか…か…
【星次は思考を巡らせながらテミスを睨み付けていた。】
こいつは俺達の記憶を覗ける…
となると、『弁解』は確実に無駄だ。
無罪まで持って行けるわけがねぇ…
そんで『黙秘』はやるだけ損だ。
ここは…
「おい、お前ら…」
「黙れ。」
【星次が春喜と流輝に声をかけようとした瞬間にテミスが言い放った言葉が、星次の口を無理やり塞いだ。】
クソッ…口が開けねぇ!
「選択は個人の自由。それに干渉する権利はあなた達に無い。分かりやすく言ってあげると…1人でしっかりと考えて罪と向き合えって事よ。さぁ、あなた達の選択は?あなたはどうするのかしら?」
「お…俺は…!」
【テミスはそういうと、流輝の方を見た。彼が口を開いた瞬間、春喜、星次、ジョゼフィーヌは突然、音が聞こえなくなった。星次が横目で彼らを見ると、驚いた表情をしていた。】
なるほどな…
他のやつの選択肢を聞かせて連携を取られない様にしてんのか…!
どこまでも徹底してめんどくせぇ女だ…!
「では、次はあなた。」
「僕は…」
【その時、また先程の現象が起きた。春喜が話し終えると、テミスが星次に目を向けた。】
「最後はあなたよ。」
「俺は…『自白』だ。実際に、俺はあいつの殺害に加担してるからな。」
【彼のその言葉を聞いた彼女は、冷ややかな目で睨み付けながら冷笑を浮かべた。】
「あら、自分の罪をよくわかってるのね。」
【彼女がそういうと、天秤を高く掲げて宣告した。】
「被告人に告ぐ、貴様らは全員が己の罪を認めた。よって、判決は『有罪』とするが『自白』の意思を認めて減刑とする。」
【彼女がそう言い終えると、彼らの『魔武具』や『魔道具』が乗った皿が傾いた。その瞬間、彼らの手にも1つの『烙印』が浮かび上がると同時に、体が重くなった気がした。】
「この『審判』は終了よ、次の『審判』の時間が訪れるまでは…」
【彼女がそこで言葉を切ると、天秤を振り下ろした。その瞬間、天秤が変化し、黄金の剣に変化した。】
「殺し合いの時間よ!」
【その時、彼らの体が自由に動くようになり、皆がそれぞれの『祝福』を取り出した。】
「皆さん!最大限の警戒をして下さい!彼女の戦闘パターンを把握するまでは無闇に動くのは避けましょう!」
【ジョゼフィーヌはそう言いながら、テミスの方に静かな殺気を向けていた。彼女が初めて、へカーティアを殺すことを宣言した時のように、彼女の戦闘のスイッチが入る。その様子を見ながら、星次はテミスを挑発した。】
「ハッ…てめぇのは随分と地味な『魔武具』じゃねぇか?そんなので俺達全員を同時に相手できるのか…?」
【彼は『隠された真実』を密かに発動させながら、彼女の返答を待っていた。すると彼女は、ジョゼフィーヌに負けない程の威圧感を出しながら剣を両手で低く構え、姿勢を前に傾けた。】
「今はまだ『魔武具』が強化されていないだけ…でも、さっきの4人分の『自白』で私の能力は強化されている…彼女は別だけど、あなた達の様な一般人が束になった所で無駄よ…!」
『怒り』に『殺意』に『恨み』に『冷静』…
嘘の感情は混じってねぇ…チッ…
「そんだけ強いんなら少しくらいは慢心しろよ…」
【彼が独り言のようにつぶやくと同時に、テミスが凄まじい速さで彼らの前に移動し、その剣を振った。】
「させません!」
【ジョゼフィーヌがそう叫ぶと、彼女の剣を瞬時に『死神の薔薇《Reaper Rose》』で受け止めた。】
「私がここに居る限り…あなたが皆さんを傷つける事は許しませんッ!」
「やってみると良いわジョゼフィーヌ。貴女の守護と私の裁き…どちらが強いか思い知らせて上げる!」
あとがき
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!
本来は先週にこの話を出すつもりだったのですが、あまり期間を開けて投稿するとルールについて忘れてしまいそうなので、一気に書きだめて投稿する事にしました!
誠に申し訳ないです!
既に続きも書き終えているので、テミス戦は連続で投稿するつもりです!
改めて、ここまで読んで頂きありがとうございました!
感想・コメントもお待ちしております!