危機一髪
「エリーばーちゃん! 中に入ってろ!!」
「で、でも……逃げよう! アドルフくん!」
「そんなのダメだ!!」
「で、でも、この量を相手にするのは無理だよ!!」
「……この近くには村がある。もしこいつらが村まで行ったら……」
エミリーは必死に訴えるが、アドルフは余裕を見せるようにニコッと笑う。
「大丈夫だ、このぐらい! 俺こう見えて強いんだからな! とにかくエリーばーちゃんは小屋の中に入ってるんだ。絶対小屋には近づけさせないから!!」
アドルフはそう言うと腰に刺していた剣を抜く。
いつもの明るい可愛らしい表情から、今まで見たこともない真剣な厳しい表情へと変わる。
剣をすっと構え、姿勢を低くする。
エミリーは緊張からゴクリと唾を飲み込み、瞬きを一つした瞬間、目の前からアドルフが消えていた。
はっとして視線を魔物の群れに向けると、一瞬でアドルフは魔物の前に移動していた。
(は、速い!!!)
あまりの速さに目を見開き驚くエミリーをよそに、アドルフは次から次へと魔物を倒していく。
(なんて速さなの……! それにすごく強い!!)
目の前にいる魔物の群れは下級魔物だ。しかし、通常、数人で一体を相手にするのだ。
それを一人であの速さで倒していくなど……
(アドルフくん、本当にとっても強いんだわ……)
エミリーがアドルフの動きに釘付けになっていると、耳をつんざくような咆哮が響く。
エミリーはビクッと肩を震わして、声の方を見て、その驚きの光景に固まった。
「な、何で……?」
アドルフも音のほうに視線を向けると、驚きに目を見開いた。
そこにはアリと蜘蛛を足したような、人の三倍の大きさがある、真っ黒な魔物が怒りに満ちた咆哮をあげていた。
(何で……何でこんなところに中級魔物がいるの!?)
エミリーはあまりの圧迫感に体が硬直する。
中級魔物は人の住む場所に滅多に現れることはない。
数十年に一度現れるかどうかだ。
しかし、それが今、目の前に三体の中級魔物がいる。
(中級以上の魔物が群れで行動することなんて聞いたことがないわ……でも、これは……)
さすがにアドルフの戦闘力の高さであっても、この数の下級魔物と中級魔物三体を一人で倒しきるのは不可能だろう。
エミリーはふとアドルフに視線を向けると、目を見開き叫んだ。
「アドルフくん、後ろ!!!」
エミリーの声にはっとしたアドルフはすぐさま構えると後ろの魔物をなんとか倒した。
その様子にふっと息を吐き出して安堵していると、今度はアドルフにほうが目を見開いて叫んだ。
「エリーばーちゃん!!!」
その瞬間背筋がぞっとするような悪寒が襲う。
横に視線を向けると先程まで遠くから咆哮を上げていた中級魔物が、エミリーの隣で鋭い刃のついた足を振り上げていた。
「あ……あ……」
エミリーが身動きできないまま、言葉にならない声をあげる。
(あ……もうダメだ……)
どれだけアドルフの動きが素早いとはいえ、助けに来るには遠すぎる。
間に合わない……
次にくる衝撃を思い、エミリーはぎゅっと目を閉じた。
しかし、その衝撃はエミリーを襲うことはなく、ふわっと体が浮き上がる。
(な……なに……?)
エミリーは恐る恐る目を開いた。
「大丈夫か?」
光を反射し、キラキラと光る白銀の髪に、吸い込まれそうな蒼色の瞳を持つ美しい男性が、エミリーを覗き込んでいた。
一つ人間と違うことがあるとすれば、彼の頭には虎のような丸い耳がついていることだ。
一瞬のことで何が起こったか分からず、男性をじっと見つめ返す。
美しすぎるその姿に惚けてしまいそうになりながら、エミリー今はそんな場合ではないと意識を取り戻す。
「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
男性は抱きかかえていたエミリーを安全な場所でそっと下ろした。
どうやら、あの一瞬でこの男性に抱き抱えられ、助けられたようだ。
「ルーカス!! よかった!!」
アドルフは彼の顔を見ると安心したように、ふっと表情を緩める。
「安心するのはまだ早いぞ、アドルフ」
「な、何なんですか? この魔物の量は……」
「いっぱいいる……」
ルーカスの後ろからバーナード、アーノルド、ファハドが現れる。
「とにかく今はこいつらをとっとと倒すぞ! アーノルド、ファハドは下級魔物を倒せ! 私とバーナード、アドルフは中級魔物を倒すぞ!」
ルーカスの言葉にみんなが頷くと、それぞれが動き出す。
「あなたはここから動かないで」
ルーカスはエミリーにそう言葉をかけると、一瞬で中級魔物の前に移動した。
(すごい……みんなもとても動きが速いわ……)
エミリーは目の前で繰り広げられる、人間では考えられない素早い動きに衝撃を受けながら、誰も傷つかないよう祈りながら見守った。