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呪いからの解放

 ルーカスの唇が触れるのと同時にルーカスの暖かな魔力がエミリーの中に流れ込んでくる。

 それは全身に流れていき、身体中をルーカスに包まれているような不思議な感覚に、エミリーは思わずぎゅっとルーカスの服を掴んだ。


 ルーカスはエミリーの様子にふっと微笑むと、さらに口付けを深くする。


(全てがルーカス様に染まっていくみたい……このままずっと時が止まればいいのに……ずっとルーカス様と一緒に……)



 そんなことは無理だとわかっている。

 しかし強くそう望んでしまう……


 その時エミリーたちを包み込むように暖かな風がふわりと足元から吹き上げる。



『私の愛しい子……その願い叶えよう』


(え?……今の声って……)



 それはレイラの時と同じように頭に直接響く声でありながら、あの時のような気持ち悪さは全く感じない。

 子供のような、女性のような柔らかな優しい声はむしろ耳に心地よく、穏やかな気持ちにさせてくれる。


 すると突然、周囲が優しい光に包まれる。

 その光は中庭全体を照らすように広がっていく。


「これはいったい……」


「この光はまさか光の木の……」


 二人が光の木を見上げると、騒ぎに気づいた者たちが中庭へと駆けつける。



「こりゃ何事だ?」


「あれ? エミリー! よかった! 目覚めたんだな!」


「それよりこの光はなんですか?」


「不思議な光……」



 アドルフたちが駆けつけ、エミリーが目覚めたことに安堵しそれぞれ笑みを見せるが、すぐに光の木へとみんなが視線を向ける。


 周囲に広がっていた光はエミリーの頭上で集まると、そのまま一つの丸い光の玉となって、エミリーの中へと吸い込まれた。

 するとエミリーの全身が優しい暖かな光で包まれる。


(暖かい……気持ちがいいわ……それにとても穏やかな気持ちになる……)



「エミリー? エミリー、大丈夫か?」


 エミリーがゆっくり目を開くと心配そうにみんながエミリーを覗き込んでいた。



「大丈夫です」


「よかった……さっきの光はいったい……」



 ルーカスたちは不思議そうに光の木を見上げる。

 エミリーはそっと自分の胸に手を当てると、体の中の魔力を確かめる。



(やっぱり……あの声は光の木の声だったの? 光の木が私を……)



 エミリーの目からポロリと自然と涙が溢れる。


「エ、エミリー!? どうした辛いのか?」



 突然泣き出したエミリーにルーカスがギョッとして焦り出す。

 他のみんなも心配気な表情でエミリーを見つめる。



「いいえ……いいえ、大丈夫です……嬉しくて……これからもずっと……ずっとルーカス様と……みなさんと一緒にいれるのが本当に嬉しくて……」



 エミリーは何とか涙を堪えると、目に涙を溜めながらにっと笑いかける。

 それに一瞬呆然としたルーカスだがはっとしたように叫んだ。


「まさか……呪いが解けたのか!?」


 エミリーが笑みを浮かべたまま頷くと、ルーカスがぎゅっとエミリーに抱きついた。


「よかった!! 本当によかった!!」


「はい!」


 エミリーもルーカスの背に手をまわし抱きしめ返す。


 アドルフたちもやっと状況を理解できたのか、それぞれ顔を見合わせて満面の笑みで笑い合う。


「本当によかった! 俺、エミリーが呪いを受けたって聞いてどうしたらいいかって……」


 小さな子供のように不安気な表情で目に涙を浮かべアドルフがエミリーに近寄る。

 エミリーは元気無く垂れ下がったアドルフの耳にふっと笑みを浮かべると、手を伸ばし優しく頭を撫でた。


「心配かけてごめんなさい。アドルフくんありがとう! 私はもう大丈夫!」


「エミリーよかった! 僕も嬉しい」


 ファハドもエミリー近づくと、嬉しそうに尻尾を振りながら、ちょんちょんとエミリーの服の袖を掴む。


「うん! ファハドくんありがとう!」



「本当によかった……これで以前にした約束……エミリーさんが望む時に獣王国の空にお連れすることができそうですね」


 アーノルドも嬉しそうにニッと笑いながらモノクルを押し上げる。


「やっぱりエミリーにはこれからも元気でいてもらわねーと!」


 バーナードがニカっと笑うと、エミリーの頭をポンポンと優しく撫でた。



「みなさん、ありがとうございます!」


「おい! みんな近いぞ! 離れろ!」



 エミリーを囲むみんなを引き剥がすように、ルーカスがエミリーを引き寄せ、自分の腕に閉じ込める。



「私の番だ! そう簡単に触れないでもらおう!」


「なっ……つ、番!? い、いつの間に?」



 アドルフの驚きの声に、ルーカスがニヤッと笑う。



「さっきだ! もちろんエミリーの了承は得ている!」


「ず、ずるいぞ! ルーカス!!」


 耳と尻尾を逆立てるアドルフに、ファハドとバーナードがぽんと肩に手を置く。


「仕方ないよ。エミリーが了承したんだから」


「そうだぞ。それにアドルフ、お前じゃ無理だったって……」



 そしてさらにアドルフに追い討ちをかけるようにアーノルドが囁く。


「そうですよ。アドルフ、エミリーさんの顔見てみてください」


 ルーカスに抱き込まれ真っ赤になりながらも、幸せそうに微笑むエミリーに、アドルフがうっと言葉を飲み込む。



「うっ〜…………ルーカス! エミリーを悲しませるようなことしたら俺が絶対許さないからな!!」


「もちろん! そんなこと私がするわけないだろう?」



 その後もルーカスに噛み付くアドルフに騒がしい声を聞きながら、エミリーは笑顔で光の木を見上げる。そして目の端にたまる涙を堪えながら呟いた。



「ありがとうございます……本当に……ありがとうございます」


 まるでエミリーの声に答えるように光の木の葉が優しくゆらゆらと揺れていた。



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