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解ける封印

「は? 私を倒すですって?」


 レイラはギロリと三人を睨みつけると、ふっと嫌な笑みを見せ、声をあげて笑い出す。


「あはははは! お前たちが私を倒す? そんなことできるわけがないでしょう? その女の光の守り手としての力は弱すぎる。たとえ獣人族が何人いようと強力な力を持つ光の守り手無しに私を倒せるはずがないのよ!」


「それはやってみないとわからないでしょう? ルーカス様、アドルフくん!」


 ルーカスとアドルフはエミリーを見つめ頷くと、魔石を握り込む。そして次の瞬間大きく咆哮をあげた。

 エミリーはすかさず光属性の力を二人の持つ魔石へと送り込む。

 するとアドルフの表情が穏やかなものに変わり、美しい黄色の瞳に変わる。


(よかった。アドルフくんは無事獣化できたわ。ルーカス様は……)



 ルーカスが獣化するのは初めてだ。

 エミリーがルーカスに視線を向けると、ルーカスは俯いたまま、まだ唸り声をあげている。

 その声は苦しそうで、今まで見た他のみんなの獣化とは何か違うように感じる。



「ルーカス様?」


 エミリーが不安気に名前を呼ぶと、荒い呼吸をしながらルーカスがゆっくりと顔をあげる。

 その表情は苦しそうに歪み、口元からの鋭い犬歯を覗かせ、目は真っ赤に染まっている。



(これって……アドルフくんが最初に暴走した時と同じ……)



「ル、ルーカス様……大丈夫ですか?」



 エミリーがルーカスに近づこうと一歩足を踏み出すと、ルーカスが唸りながら、なんとか絞り出した掠れた声あげる。



「うっ……ぐ……くるな……」



 エミリーは足を止め、ぎゅっと手を握り込んだ。



「どうして……」



 他のみんなはエミリーが光属性の力を流すと獣化を自分で制御できていた。

 なぜルーカスだけ暴走状態になってしまったのか……

 ルーカスの表情は苦し気で、このままでは危険だ。


「ルーカス! 大丈夫か?」



 アドルフもルーカスの状態に気づき近づこうとするが、そこに突然中級魔物が現れ、アドルフに刃を向ける。

 アドルフは素早く身を翻し、中級魔物の攻撃を避けると、剣を振り下ろし目の前の一体を倒した。


「何なんだ! いきなり現れるなんて……」


「ふふ! いい反応ね……それじゃああなたにはこの子達の相手をしてもらおうかしら」


 レイラがにっこり笑みを見せると、レイラの足元の影から次々魔物が溢れ出す。



「なっ……なんだよあれ!」



 アドルフは次々襲い来る魔物をなんとか切り倒していく。

 レイラは楽しそうに微笑むと、ルーカスに視線を向けた。



「やっぱりね。お前の力では白虎の神の力を引き継ぐ獣人の力は抑えられないようね。獣人族の中でも王族は特別。お前の力じゃ無理だと思ってたわ」


「ルーカス様! 頑張ってください!」



 レイラが嘲笑(ちょうしょう)を浮かべるなか、エミリーは必死にルーカスに呼びかけ、光属性の魔力を流し続ける。



(どうしたらいいの? 本当に私の力ではルーカス様の獣化の暴走を抑えられないの?)


 エミリーの視界がぐにゃりと歪む。


(うっ……力を使い過ぎているんだわ……でも魔力を流し続けないとルーカス様が……いいえ! 今は悩んでる場合じゃない!!)



 エミリーは覚悟を決めて、ルーカスに向かって走り出す。

 そしてルーカスの頭に手を伸ばし、自分の方へ引き寄せると、ぎゅっと抱き寄せた。



「ルーカス様、どうか頑張ってください!」


「うっ……ぐぁーーー!!」



 唸りをあげ必死にあらがているルーカスに、エミリーは光属性の魔力を注ぎながら、ぎゅっと力を込めて抱きしめる。


「危険だ、エミリー!! だめだ! ルーカスから離れろ!!」


 魔物に邪魔をされ、近づけないアドルフが叫び声をあげる。


「ふふっ! 無様ね。何をしたって無駄よ! お前には何もできない! 母親と同じよ!! お前は無力。何もできやしないのよ!!」



 レイラの高笑いが響く中、エミリーはぎゅっと目をつぶる。


(私にもっと力があれば……みんなを守りたいのに……)



「そのまま暴走し、仲間を殺し、自らの命を燃やし尽くすがいい!」


「ダメ!! そんなことさせない!! ルーカス様、頑張って!!」


(このままじゃダメ……どうすればいいの?……ルーカス様はいつも私を守ってくれた。不安な時は優しく微笑んで勇気づけてくれた……絶対こんなところで死なせない! 私は……ルーカス様を失いたくない! 今度は私がルーカス様を守る!!)



「ふふ! そのまま二人仲良く死ぬといいわ!」



 レイラが手を上げると、大きな黒いモヤが広がり、獣王国に現れたような上級魔物が姿を現す。

 上級魔物はニヤッと笑うと、姿勢を低くし、エミリーたちに向かって走り出す。


(うそ……どうしたらいいの!?)


 エミリーがぎゅっと目を瞑ると、どこからか声が響いた。



『エミリー、ごめんなさい』


 エミリーの記憶に残る朧げだった母親の記憶が鮮明に(よみがえ)る。


『でもきっとこの力が必要な時が来たら目覚めるから。あなたは力のことで悩んでしまうかもしれないけど……でも約束するわ。この力をあなたが扱えるようになった時、私の封印が解ける。あなたなら大丈夫』


(お母様?……そうだ……私の、私の本当の力は……)



 エミリーの力は子供の体には大き過ぎた。

 その大きすぎる力は子供のエミリーにとって制御するのも不可能で、さらには魔物たちに危機感を与え、襲われる危険性も高まるものだった。

 だからこそエミリーの母親は力を封じたのだ。


 エミリーの母親はそれほど強い魔法使いではなかった。

 しかし、封印の力だけは特別強く、本来常人には不可能な、魔族であるレイラの力を一時的でも封印するほどの力を持っていた。

 同じ光属性であったことも幸いし、エミリーの大きすぎる光属性の力を今まで誰にも気づかれることなく封印することができたのだ。



(お母様……私はもう大丈夫! あの力、今なら扱えるわ!!)



 エミリーは体の奥深くに押さえつけられた力を引き上げるように、意識を集中する。体の奥底で何かがガラリと崩れるような感覚がある。


 次の瞬間、エミリーの体から全てを飲み込むような眩しい光が放たれた。



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