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復活

 マチルダを中心に風が吹き荒れ、それと同時に黒いモヤを纏った風の刃がエミリーを襲う。


「エミリー!」


 ルーカスはエミリーを抱き寄せると自分の体で庇いながら、風の刃を剣でさばいていく。

 アドルフもエミリーを守るようにルーカスの隣に立つと、剣で風の刃の軌道を変えていく。


「あんたたちは邪魔なのよ! そこをどきなさい!」


「どくわけないだろ! あんたのほうこそ諦めたらどうだ?」


 アドルフの叫びにマチルダが憎々しげに睨みつけ歯がみする。


「いつもあんたは誰かに守られて……いつもみんなに囲まれて……たまたま光属性の力を持っていたってだけで!!」


「それは違う! 私はエミリーだからこそ守りたいと思うんだ。確かに光属性の魔法を持って生まれたのはたまたまだ。しかしここまで力を使いこなせているのはエミリーが努力したからだ! そしてエミリーの周りに人が集まるのは人を思いやれる優しい心を持っているからだ! 君とエミリーではまるで違う!」


「ルーカス様……」


 ルーカスはエミリーに優しく微笑みかけると、鋭い視線をマチルダに向ける。



「違う! 違う! そうじゃない!! 私はいつも全ての中心なの! その女のせいで……その女が悪いのよ……」


 目を見開き、荒い呼吸で頭を掻きむしるマチルダは以前の可愛らしい彼女とはかけ離れている。

 負の感情に染まり、恨み言ばかり垂れ流すマチルダには以前の魅力を一切感じない。


(魔族であるレイラさんと一体となってしまったせいで闇属性の力が体中に(あふ)れているんだわ……人間の精神ではあの力に耐えきれなかったのね……早くレイラさんと引き離さないと精神の崩壊が始まっているわ……)


 エミリーの哀れみのこもった視線にマチルダはキッと睨みつける。



「そんな目で私を見るな!!」



『そうよね。本当嫌な女よね』


「レイラ……」


『でも大丈夫。あとは私に全てを任せればいいんだから』


 レイラがマチルダに笑いかけるとマチルダは途端にほっとしたように息を吐き出した。


「レイラ……そうよね! そうだわ! 今までずっとレイラの言う通りにすればうまくいったんだもの! 今度はどうすればいい? 私は何をすればあの女を殺せるかしら?」


『ふふっ! マチルダは何もしなくていいのよ?』


「で、でも……それじゃあ、あの女をどうやって殺すの?」


『大丈夫! マチルダは体を私に渡してくれればいいだけなんだから」


「え? レイラ? 何を言っているの? 体はもう私と一緒に使っているでしょう?」


『違うわよ、マチルダ。私が言っているのはこの体を私だけのものにするってこと。あなたの精神がなくなれば、私がこの体の(ぬし)になるのよ。そしたらマチルダの望み通り私があの女を殺してあげる』



 その瞬間マチルダから吹き出していた黒いモヤが濃密な塊となって意思を持ったようにマチルダの体を包み込んでいく。



「レイラ待って! 冗談言わないで! 私とずっと一緒にいてくれるのでしょう?」


『ええ。あなたの体を私のものにして、これからはあなたの体が私の体になる。ずっと一緒よ?』


「待って! いや! そんなの嫌よ!! レイラやめて!!!」



 マチルダはなんとか逃れようと手を伸ばすが、あっという間に全身を黒いモヤに包み込まれる。


 思いもよらない展開にエミリーたちは呆然と黒い塊と化したマチルダを見つめる。

 そしてしばらくすると黒いモヤが少しずつ薄くなり、その中心に人影が現れる。


「マチルダ様?……」



「はー……長かったわ……本当に長かった……でもこれでやっと体をまた手に入れられたわ」


 黒いモヤの中から現れたのは真っ黒な長い髪にぬけるような白い肌、そして毒々しいほどに真っ赤な瞳の作り込まれたように完璧な美貌を持つ妖艶な女性だった。

 その女性はエミリーに視線を向けると、美しい笑みを浮かべる。



「ありがとう。あなたのおかげでやっとこの体を手に入れられたわ」



 エミリーはその笑みにブルリと体を震わせる。

 美しい笑みの中にぞっとするほどの何か異質なものを感じる。


「まさか……あなたはレイラさんなの? マチルダ様の体を乗っ取ったの?」


「乗っ取っただなんて……人聞きの悪いことを言わないで。マチルダが体を差し出してくれたのよ」


「違う! マチルダ様は嫌がっていたわ!」


「そう? でもあなたも手伝ってくれたじゃない?」


「手伝ったですって?」



 エミリーが怪訝な顔で問いかけると、レイラがニヤッと笑う。



「そうよ。あなたがここに来たからあの子の心がより不安定になったのだもの。あなたはいつでもあの子に自分との差を見せつける。あの子の心は劣等感と嫉妬でより闇に染まる」


「違う私はそんなことしていないわ!」


「いいえ、あなたが無意思にあの子を追い込むの。あなたは本当に光の守り手に相応しいのかしら? マチルダのことだけじゃないわ。あなたの力が足りないから魔物が次々出現するんじゃないの? そして傷つく人たちが増えていく」


「違う……わ、私は……」


「エミリー!!」



 エミリーはルーカスの声にはっとする。



「気をつけるんだ。あの女は魔族だ。少しの隙をついて心を惑わせるぞ」


(そうだわ……気をつけないといけないと思っていたのに……しっかりしなくちゃ!)


「ありがとうございます、ルーカス様。もう大丈夫です」



 エミリーがレイラを睨みつけると、レイラは楽しげに微笑んだ。



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