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対面

「見えました! あの部屋がジェームズ殿下の部屋で、さらにその廊下の奥に陛下の部屋があります」


「それにしても……国王とそして王太子の部屋だというのにここにも兵がいないのだな……ここに行き着くまでもほとんど誰とも会わないのもおかしいが……」


 確かにルーカスの言う通り、異常な王宮内の様子にエミリーもさらに警戒を強める。

 通常であれば護衛騎士が警戒しているはずの王宮内でほとんど誰とも遭遇しないのはおかしい。


「まぁ、とりあえず何事も無くここまで来れたんだし、いいんじゃねぇ? それより真っ直ぐ国王の部屋に行くか? それとも王太子の部屋に入るか?」


「どうやらこのモヤの発生源は王太子の部屋のようだな……」


 ジェームズの部屋の扉から漏れ出ている黒いモヤにエミリーは眉を寄せる。

 部屋の外にこれほど流れ出ているのであれば、中はどうなっているのだろうか?

 それに町の人たちの様子から、このモヤはおそらく人体に悪い影響があるはずだ。

 近頃ほとんど部屋から出ていないと噂のジェームズはいったいどうなっているのだろうか?



「このモヤの発生を先にどうにかしましょう」


 エミリーの言葉にルーカスとアドルフが頷く。

 アドルフが扉のノブに手をかけると、ルーカスが剣を構える。三人は視線を交わし頷くと、アドルフが勢いよく扉を開いた。



「これは酷い……」


 扉を開いたことで濃密な黒いモヤが一気に流れ出す。

 部屋の中のモヤが少し薄くなり、部屋の中央に人影が現れる。



「はぁ……やっぱりここまで来たのね……」


 苛立たし気な高い女性の声に、エミリーはぎゅっと体を固くする。



「お久しぶりですね。マチルダ様」


 エミリーは震えそうになる体に力を入れ、気丈に相手へ話しかけた。


 モヤが流れ出て、やっとクリアになった視線の先で、マチルダがニヤリと笑う。



「本当に。私はもっと早くあなた会いたかったのよ? ねぇ、ジェームズ様?」



 マチルダが同意を求めるように動かした視線の先には力なく椅子に座るジェームズがいた。

 その瞳に感情の色はなく、中身が抜け落ちたように表情も動かない。まるで人形のような状態のジェームズにエミリーは眉を寄せる。


(イーサンの話ではジェームズ殿下の精神操作魔法は解けかかっていたって話だけど……)


「マチルダ様……あなたジェームズ殿下にどれだけ強い精神操作魔法をかけたの?」



 エミリーが警戒しながらマチルダを見つめる。

 マチルダはジェームズの座る椅子の手すりに腰をおろすと、ジェームズに寄りかかるように身を寄せる。

 そして怪しげな笑みを浮かべた。



「エミリー様ったら、酷いわね。私がジェームズ様に何もするはずないじゃない? 彼が私のそばにいたいって言うからこうしてずっと隣にいるだけだもの」


「それはあなたの精神操作の魔法のせいでしょう? とにかくジェームズ殿下にかけた魔法は解除させてもらうわ!」



 エミリーが一歩踏み出すと、ルーカスがエミリーの手を引き抱えると、そのまま後ろに飛び退いた。



「ルーカス様?」


 エミリーが突然のことに驚いていると、直後にゴンっと大きな音が響く。音に方へと視線を向けると、エミリーが先ほどまで立っていた場所が大きく凹んでいた。



「な、なに?…………あの魔法って……」


 あのままあの場に立っていれば間違いなくただではすまなかった。



「あーあ……残念。逃げられちゃった……私もやっと闇属性魔法が扱えるようになってきたから、ようやくあなたを潰せるって思ったのに……」


「闇属性魔法ですって!? それは本来人間が使えるものではないはずでしょう?」


 エミリーの驚いた表情にマチルダは楽しげに笑う。



「そうよ! でもね、レイラが、レイラが教えてくれたのよ! すごいでしょう?」


「レイラだと!?」


 ルーカスの驚きの声にエミリーが困惑したように尋ねる。



「ルーカス様はその人物を知っているのですか?」


「いや……本当に同じ人物かはわからない……しかし……五百年前の光の守り手が倒した魔族の名前はレイラだったはずだ……」


「魔物たちが言っていたあの方とはまさか……そ、それでは五百年前の魔族はまだ生きていたということですか?」


「わからない……しかし魔族は長寿と言われている……もし五百年前、何とか生き延びていたとしたら……今も生きていたとしても不思議ではない」



 ルーカスとアドルフの険しい表情に、エミリーはゴクリと唾を飲み込んだ。



「なーんだ……知ってたんだ。そうよ、レイラはね魔族なの! 五百年前の光の守り手に酷い目に合わされたって言ってたわ。レイラはとっても優しいの! 私の願いを何でも叶えてくれる、私の大事なお友達なのよ!」


 マチルダは子供のようにはしゃぎ、そしてぞっとするような笑みを浮かべる。

 その異様な様子にエミリーはブルリと体を震わせた。

 



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