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潜入

「ハワード侯爵」


 衛兵はイーサンが門に近づくと敬礼する。


「お疲れ様。今日は火急の要件で陛下にお話があって来た。中に入れてくれないか?」


「それは……ハワード侯爵といえど、殿下の命には逆らえません。申し訳ありませんが、どうかお引き取りください」


「それはわかっている……しかし、一刻を争うのだ。今回だけでいい! 中に入れてくれ」


 無理矢理中に入ろうとするイーサンを衛兵が三人がかりで止める。


「ハワード侯爵どうかお引き取りを!!」


 衛兵たちが必死に止める中、イーサンは一瞬だけ視線をエミリーたちの方へと向け合図を送る。



「今だわ! みなさん行きましょう!」


 騒ぎを聞きつけた衛兵が次々イーサンの方へと集まって行く中、エミリーたちは誰の視線にも触れず、すんなりと王宮の中に入ることができた。




「本当にエミリーの魔法はすごいな……みんなハワード侯爵に注目していたとはいえ、あれほど人がいる中を堂々と中に入れるんだから……」


「エミリーさんの魔法があれば諜報活動も簡単そうですね」


「そうだよなぁ〜びっくりしたぜ……あれ? エミリー難しい顔して、どうしたんだ?」



 ルーカスとアーノルドが手放しで褒める中、アドルフがエミリーを覗き込む。



「あ、いえ……先日私の魔力量があがったというお話をしましたが、それに伴って魔法自体も強くなっているのかもしれません……」


 幻惑の魔法を使っているといえど、以前のエミリーの魔法では、さすがにあれほどの人の目に一切触れず王宮の門を通り抜けるなどできなかった。

 それが今、誰もエミリーたちを認識することも無く通り過ぎて行った。もはや認識の阻害というより、エミリーたちが見えていないようだった。



「そうなのか? それよりも、エミリーの体調は大丈夫なのか? 魔法が強くなったということはその分魔力の消費も大きいのではないか?」


「いえ、それは大丈夫です」


(前は光の守り手としては力が弱いって思っていたけど……もしこのまま力が増えていったら、私にも本当に文献にあったような歴代の守り手にような力が使えるのかしら?……)




「まぁ何はともあれ中に入れたんだ。先を急ごうぜ」


 バーナードの言葉に頷くと、エミリーたちは王宮の奥へと急いだ。





「もう少しです! この先は王族の居住区域になっています」


 王妃教育のため何年も王宮に通っていたのが役に立った。

 ずっと通っていたからこそ、人通りが少ない道、最短距離で行ける道などをエミリーは熟知している。

 幻惑の魔法の効果も絶大で、エミリーたちはすんなり目的の王族の居住区域へと辿り着いた。




「なぁ……何だかこの辺、空気が悪くないか?」


「そうですね……あれは! みなさん、あれを見てください」



 王族の居住区域のほうから、黒いモヤが流れてきている。しかも奥に行くほど濃くなっているようだ。



「こりゃひでーな……」


「しかし、目的地に辿り着くには進むしかない。みんな気を引き締めるんだ。エミリー、私から離れないでくれ」



 エミリーが頷くと、ルーカスが突然立ち止まり、廊下の奥を睨みつけ、エミリーを自分の背へと庇う。

 他のみんなも険しい表情で剣に手をかけ、身構えた。


(この嫌な感じ……まさか……)




 コツコツと廊下の奥から二人分の足音が聞こえる。



「あーあ……やっぱり人間は使えないよなぁ。こんなとこまで獣が入り込んでんじゃん」



 声が聞こえた瞬間キンっと高い音がなる。

 目にも止まらぬ速さで迫った相手をルーカスが剣で受け止めていた。



(早すぎて全く動きが見えなかった……やっぱり……この気配は……)


 エミリーの背筋を冷や汗が伝う。



「上級魔物……」


 エミリーの小さな呟きに、上級魔物がニヤッと笑う。

 しかもこの上級魔物は以前獣王国で戦った魔物よりもずっと強い。魔物が放つ気配が違う。

 見た目も以前戦った上級魔物は上半身は人間のようだったが下半身は蜘蛛のような体だった。

 しかし今、目の前にいる魔物は下半身も全て人間のような見た目をしている。


 人間と違うところといえば、頭から突き出た禍々しい二本の角と、腕から先が真っ黒に染まり長く鋭く尖った指先だ。

 まるで剣のように鋭い指先を、ルーカスが剣で受け止めている。




「おい、一人で潰す気か? 私も久しぶりに暴れたいんだ。一人で楽しむなよ」


 ぞっとするような重低音の声が響くと、今度は真っ黒な魔力の塊がエミリーたち目掛けて飛んでくる。

 エミリーは咄嗟に防御の結界をはった。



(何なのこの魔力……何て強い力……)



 下級魔物であればどれだけ体当たりされようと、びくともしないエミリーの結界があまりの衝撃にゆらゆらと揺れる。

 エミリーは気合いを入れてふっと息を吐き出すと、結界に力をさらに注ぐ。

 しばらく拮抗が続いたが、なんとか黒い魔力の塊が消えた。



(あれは……闇属性の力……)



 エミリーがその魔力を放った相手に視線を向けると、意外そうに目を見開いた。そして面白そうにニヤッと笑う。



「俺の魔力を結界で防ぎきるとは、まぁまぁやるよるだな」


(まさか上級魔物が二体もいるなんて……)



 こちらの上級魔物もほぼ人間と近い見た目をしている。

 頭には二股に分かれた二本の角があり、肩から腕にかけて黒い羽に覆われている。



「あの方が言ってた獣人族と光属性の女が来たようだし、とっとと片付けちゃおうか」



 楽しそうに笑う上級魔物二体に、ルーカスたちは険しい表情で姿勢を低くし、剣を構えた。



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