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王都の調査

 あれから数日、エミリーたちはオルティス領内の各所を回りながら、町の調査をしていた。

 あの日以降は魔物が現れることもなく、穏やかに過ごしていた。



「アドルフ様、ファハド様、アーノルド様がお戻りになられました」


 スチュワートからの知らせに、エミリーはすぐさまアドルフたちを出迎えるため、エントランスに向かう。

 そこにはルーカス、バーナード、そしてニールもすでに集まっていた。


「アドルフくん、ファハドくん、アーノルドさんお疲れ様です」


 エミリーの声にルーカスと話し込んでいた三人が視線を向ける。

 しかし、三人は浮かない表情で、視線を逸らす。

 エミリーが首を傾げ、三人の前に来ると、アドルフがばっと頭を下げた。



「エミリー、ごめん!!」


「アドルフくん? いったいどうしたの?」


 突然の謝罪にエミリーは困惑しながらも、頭を上げるように促した。



「俺のせいで……すぐにでもオルティス領を立たなければいけなくなった……」


「いえ、止められなかった私たちにも非はあります……」


「ごめんなさい……」


 アドルフに続くようにアーノルド、ファハドが頭を下げる。


「とりあえず、詳しい話を聞かせてくれ」


 ルーカスの言葉に三人は目を合わせると頷いた。





 アドルフたちは王都に着くと早速、情報収集のため町中や店を回った。

 一見、魔物の被害も少なく平和そうに見えたが、ところどころで異様な光景を目にした。


 大通りから離れた人目につきにくいところで、力無く項垂れる人や、(うつ)ろな目で道の端に座り込む人を何人も見かけた。



「なぁ、あれって……」


「そうですね……まるで精神操作で操られた人のように見えますね」


 ファハドも二人の意見に頷く。

 あの不気味な様子はウォルターに会った時とよく似ている。

 しかし三人にはエミリーほどの魔力探知の能力はないため、魔法が使用されているとは断言できない。



「やっぱりエミリーに直接見てもらうしかないかな?」


「そうですね……思っていたよりも警備も多くないですし、王都へは難なく入れることはわかりました。エミリーさんを連れて来ても問題ないでしょう」


 アーノルドの言葉にファハドは頷き、項垂れている人たちに目を向ける。


「そうだね。でも魔法が使われているなら何で町の人たちがかかっているのかな? 僕なら城の人間にかけるけど……」



 ファハドの言う通り、城にいる貴族にかけるなら使い道もあるかもしれないが……他に何かの企みがあるのだろうか。


 三人は黙り込んで考える。

 するとファハドがはっとしたように路地の奥を見つめる。



「どうしたんだ?」


「もしかして……アーノルド地図持ってたよね?」


「ええ。持ってますよ」


 アーノルドがファハドに手渡すと、ファハドは地図を見てやっぱりと頷いた。


「さっき通った路地にはこの人たちみたいな人はいなかったでしょう? でもその前に通った路地にはいた。その前に通った道にも……これってさ王宮の塀と隣接してる区域なんじゃないかな?」


「見せてください」


 アーノルドとアドルフが地図を覗き込むと、確かにファハドが言っている場所とあの異様な人たちを見た場所とが一致する。



「ねぇ、それにあれ見て」


 アドルフとアーノルドがファハドが示した場所を見ると、塀の小さな隙間から何か黒いモヤのようなものが少しずつ流れ出しているように見える。



「うわぁ……何だよあれ……気持ち悪りーな」


「あれはもしかして……魔物との戦闘の時の……もしかしてあれが原因でしょうか? ですがあれは魔物と一緒に現れるものでは? なぜ王宮から流れ出てくるのでしょうか?」


「わからないけど……でも何か関係があるはず……」



 その時三人の後ろでばたりと何かが倒れる音がした。

 三人は振り返り、人が倒れたのだと気づくと、急いで駆け寄った。



「お、おい! 大丈夫か?」


 倒れていたのは五、六歳くらいの少女だった。

 どこも怪我はしていないようだが、目は虚ろで、何も感情を宿していない、まるで人形のように見える。

 アドルフは抱え上げて、声をかけるが、一切反応する気配がない。



「なぁ、どうしよう? エミリーならなんとかできるかな? この子をエミリーのところに連れて行ければ……」


「それはダメですよ。人に見つかれば騒ぎになります。どう見たって我々のようなローブを被ったもの達が少女を抱えているなんて怪しいでしょうが」


「うん……人攫(ひとさらい)いと間違われる可能性もある……」


「で、でも……」



 ちょうどその時、後ろから怒声が響く。



「ちょっとあんた!! うちの子に何してんだい!!」


 間が悪いことに少女の母親と思しき人物が走ってくるのが見えた。

 そしてアドルフから少女を奪い取ると、きっと三人を睨みつける。



「いや、俺たちは……その子が倒れたから助け起こそうとしただけで……」


「嘘だ!! じゃあ何でローブなんか被って顔を隠してるんだい! 顔を見せな!!」


 女性は興奮状態でアドルフ達の話を聞くことも無く、ローブを掴むと無理矢理引っ張る。



「と、とにかく今は一旦ここを離れましょう」


 アドルフとファハドは頷くと、三人は女性を残して走り出す。


「あっ!! 待ちな!! 人攫いだ!!! 誰か捕まえてちょうだい!!」


 女性の大きな叫び声に、周囲人たちが何事かと三人に視線を向ける。

 そしてさらに間の悪いことに、近くを巡回していたらしい警備兵がその声の集まって来た。


「くっ! これは面倒なことになりましたね……仕方ありません……このまま王都を出ましょう」


 三人はそのまま何とかその場の兵を振り切り、オルティス領へと帰って来た。


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