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力の増加

「エミリー?」


 ピクッと動いたエミリーの手をルーカスが優しく包み込む。ルーカスの声に反応するようにエミリーの(まぶた)が震えた。



「ルーカス様?」


「目が覚めてよかった! 体の調子はどうだ?」


 ルーカスの安堵した表情にエミリーはぼうっとする頭で考える。



(そうだわ……町で力を使って……私そのまま倒れてしまったのね)



「ご迷惑をおかけしてすみません……少し(だる)さはありますが、大丈夫です」


 起き上がろうとするエミリーをルーカスが留める。


「迷惑などではない。それよりまだ辛いだろう? もう少しそのまま寝ているといい」


「そうだぞ。ゆっくり休め! エミリーが倒れた時は肝が冷えたが、無事でよかったよ」



 バーナードも安心したようにふっと息を吐き出すと、ニカっと笑う。

 二人の表情で相当心配をかけてしまったことがわかる。

 謝るよりもお礼を言ったほうがいいだろうと、エミリーは申し訳なく思いながらも、笑みを浮かべた。



「連れ帰ってくれて、ありがとうございました」


 二人は優しく微笑むと頷いた。




トントン


 ノックの音が聞こえ、エミリーが返事をすると、ニールが焦ったように部屋に入ってきた。


「エミリー大丈夫か?」


「はい。ご心配をおかけしました」


 エミリーの言葉と表情で、ニールもまた安心したように大きく息を吐き出した

 どうやらニールにも相当心配をかけてしまったらしい。



「いや、無事ならいい。しかし、だいぶ魔力を使ったようだな。エミリーが魔力を使い過ぎて倒れるなど、今まで聞いたことがない」


 確かに今までそんなことは一度もなかった。

 あの時はただ、魔力を濃く広げていこうと意識していて、エミリーの感覚としてはまだ余裕があると思っていたのだ。



「医者は魔力を一気に使ったことの反動だと言ってたな。体が驚いただけで、魔力が枯渇(こかつ)しているわけではないそうだが……エミリーはあれだけの魔力を一気に使ったのは初めてだったのか?」


「そう……みたいですね……私自身もそんなに魔力を使っている感覚はなかったんです……」


「でもありゃ驚いたな……エミリーの光属性の魔法でも魔物を倒せるんだな」


 それについてはエミリー自身も驚いていた。


「私も今回のことで初めて知りました。まさか私の光属性の力で魔物が倒せるなんて……そういえば気になることがあるんです」



 エミリーはいつも、自分の魔力の総量から減った量の割合で使用した大まかな魔力を捉えていた。

 エミリーの感覚としては今回使った魔力は、獣王国での魔物との戦闘時に使った力と大差ないと思っていた。

 しかし、実際は一気に使うと反動がくるほどの力だった。ということは魔力の総量の認識がエミリーの今までの感覚とずれていることになる。



「獣王国にいた時より、私の魔力量が増えているのかもしれません……」


「この短期間で?」



 ルーカスが驚くのも当然だ。

 魔力量は基本的に一気に増えることはない。

 魔力を使い、操作し続けることで少しずつ増えるものだ。



「私も不思議に思っているのですが……魔物を倒せたのは光属性の濃い魔力があの一帯に広がったからだと思います。ですが魔物を倒せるほど濃い魔力を展開することは以前の私にはできませんでした」


「なるほど。それをできるほどに魔力量が上がっているというわけか……」


「そうか……義姉上が言っていたことは本当だったのだな……」



 ニールの驚いたというような小さな呟きに、エミリーは首を傾げる。


「お義父様、それはどういうことですか?」


「昔、義姉上が、君の母親が言っていたんだ。エミリーは特別な子だから、いずれみんなを守れるような強力な力を使いこなすようになるとな。まぁ義姉上は光属性の特殊魔法の中でもさらに珍しい力を持っていたからな……」


「そうなのですか? お母様も光属性の使い手だったのですね。珍しい力ってどんな力を持っていたのですか?」


 まさか自分の母親も光属性の特殊魔法を使えたとは知らなかった。

 今までニールとこうして話すこともなかったので、自分の知らない母親の話にエミリーは興味津々で問いかける。


「そうか……エミリーはまだあの頃は幼かったから、知らないのだな。エミリーの力とは比べ物にならないが、義姉上も光属性の魔法を少し使えたんだ。一つは先見(さきみ)の魔法、そしてもう一つ使えたらしいが、それは私も知らない」


「先見の魔法とはどんな魔法なんだ?」



 ルーカスとバーナードは聞いたことのない魔法に、首を傾げる。


「先見の魔法は未来を予測する魔法だ」


「そんなすごい魔法があるのか?」


「確かにそれだけ聞けばすごい魔法だが、そんな都合の良い魔法ではない。先見の魔法は自分で操れるものではない。だからこれが見たいと思っても自分の知りたい未来が見れるわけではないんだ」


(先見の魔法……もしかしてあの日もお母様は……)


 思い当たる不思議な母親の行動に、エミリーは嫌な感覚を覚える。



「あの……お義父様、もしかして……あの日も……お母様とお父様が亡くなったあの日も……お母様には何か見えていたのでしょうか?」


 エミリーの実の父親と母親が事故にあった日、本当はエミリーも一緒に向かう予定だったのだ。

 エミリーは両親との外出をとても楽しみにしていたのだが、突然母親がエミリーは連れて行けなくなったと言い出した。

 エミリーはグズって泣いたが、どれだけ泣いてもいつもなら折れてくれる両親が、その日は決して同行を許してはくれなかった。



「それは……私にもわからない。しかしあの時の兄上と義姉上の様子は確かに少しおかしかった……思い詰めた表情でエミリーをくれぐれも頼むと言って出て行ったんだ」



 今思い返すとあの時の両親の表情は何かを堪えるような、とても寂しげな顔をしていた気がする。

 最後にぎゅっとエミリーを抱きしめ、まるで最後の別れのように寂しげな微笑みを残して出て行った母親の表情が今でも忘れられない。



「もし、お母様があの事故を魔法で予測していたのなら、どうして二人は外出したのでしょうか? それならあの日行かなければよかったのに……そうすれば二人は……」



 エミリーの今にも泣き出しそうな小さな呟きに、ルーカスはそっと寄り添いエミリーの背を撫でた。



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