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力の目覚め

 ルーカスとバーナードの視線の先を見つめると、黒いモヤが立ちのぼり、その中から魔物が現れる。


(またあの黒いモヤ……しかもあの魔物、中級魔物だわ……)


「おい……なんだよあれ……」


「あんなの見たことねぇ……」


 町の男性たちが口々に呟く。

 さらにその不安を(あお)るように、町の周囲を囲むように所々で黒いモヤが発生し、次々魔物が現れる。




「こりゃやばいな……どういうことだ?」


「何故いきなりあの黒いモヤが発生したんだ? いや、こうしてる場合ではないな」


 ルーカスとバーナードは顔を見合わせ頷くと、町の人に声をかける。



「あなたたちはここから出ないでくれ。あの魔物たちは私たちで倒す。もし万が一、町の中に入ってこようとする魔物がいれば、そいつらをみんなで阻止してほしい」


「いや、でもあんたたちだけに任すわけには……あんなに数がいるんだぞ?」


「みなさん、彼らに任せましょう。大丈夫、彼らは強いです」


「エミリー様、ですが……」



 町の男性たちは困惑したように顔を見合わせている。

 ヴァージル王国の常識で考えれば、困惑するのは当然だ。数人で相手にする魔物をたった二人に任せると言っているのだから。

 それも下級魔物ではなく、ヴァージル王国では騎士たちの中でも手練(てだれ)の数人で相手をする中級魔物をだ。



(町の人たちがいては逆にルーカス様たちにとって足手まといになってしまうわ……だからルーカス様たちもああ言ったのでしょうし……)


 エミリーはふっと息を吐き出すと、町の人たちを安心させるように微笑む。



「私を、そして彼らを信じてください! ルーカス様、バーナードさんお願いいたします」


 ルーカスたちは心得たというようにふっと笑って頷くと、二人で町の外へと走って行く。

 そして境界の外に出ると同時に剣を抜き、周囲にいる魔物を斬り倒していく。

 その凄まじいスピードに町の男性たちから驚きの声が上がる。



「なんて速さだ……」


「あんな動き見たことねぇ……ヴァージル王国の騎士団長より強いんじゃないか?」


「ありゃ俺たちがいたら邪魔になるな……」


「エミリー様、彼らはいったい……?」


 エミリーはルーカスたちが褒められたことを嬉しく思いながら、誇らしげに胸を張り、ニコッと笑う。



「彼らは私の命の恩人です!」


 こっそりヴァージル王国に来ている今、彼らの正体を明かすことはできない。

 しかし、全てが片づけば、みんなに彼らを紹介したい。




(私もルーカス様たちに頼るだけじゃなくて、私のやれることをしないと!)


 エミリーは深呼吸すると、黒いモヤが出現しているあたり一面に光属性魔法を広げていく。

 これでモヤの発生が止まり、魔物の動きも鈍くなるはずだ。

 少しでもルーカスたちが楽に戦えるように、エミリーはどんどん魔力を流していく。


(もっと……もっとよ!!)


 エミリーは目を閉じ、魔力を流すことだけに集中する。

 すると周囲で歓声が上がった。



「こりゃすげぇ!!」


「さすがはエミリー様だ!!」


 その声にエミリーが目を開くと、中級魔物たちがエミリーの光属性魔法に包まれると、バラバラと体の形を崩し、光の玉となって消えていく。



「え……? これは……何が起こっているの?」


 エミリーの魔法はあくまで中級魔物たちの力を抑えるものであって、攻撃はできなかったはずだ。

 驚きの光景に目を見開いて固まっていると、ルーカスたちもまた驚いたようにエミリーへと振り返る。


 エミリーの魔法が最後の一体の魔物を飲み込み光の玉になって消えると、町の人たちがエミリーを取り囲む。


「ありがとうございます! エミリー様!!」


「なんてすごい力だ!」


「やっぱりエミリー様は光の守り手様だったのですね!」


「いえ、その……私は……」



 エミリー自身信じられない光景に、半ば呆然としていると、ルーカスたちが町の人たちをかき分け、エミリーの元にやってくる。

 そしてエミリーの表情から、エミリー自身も困惑していることを悟ったのか、エミリーを隠すように自分たちの背に(かば)う。



「大きな魔法を使った後だ。彼女も疲れているようだから、このまま屋敷に連れて帰る。もしまた何か異変があれば、オルティス伯爵邸まで知らせてくれ!」



 ルーカスの言葉に町の人たちは快く頷くと、エミリーたちが通りやすいようにパッと道を開ける。

 エミリーはルーカスに手を引かれるまま、町の人たちの歓声に包まれながら、馬車に向かって歩いて行く。



(いったいどういうこと? 今まであんな力、私にはなかったはず……)



 その時ふと母の記憶が蘇る。

 先程よりも鮮明に……


『……ごめんなさい。でもきっと……必要な時が来たら目覚めるから……約束するわ……あなたなら大丈夫』



「エミリー? 大丈夫か?」


「はい……すみません、大丈夫……」


 突然目の前が真っ暗になり、力が抜ける。

 エミリーは倒れそうになり、寸前のところでルーカスが受け止めた。


「エミリー!? 大丈夫か?」


「お、おい! エミリー?」


「だ、大丈夫です……」


(すごく体が重いわ……魔力を一気に使いすぎたのかしら……とても……眠い……)


 ルーカスとバーナードの焦った声を聞きながら、エミリーはそのまま意識を手放した。


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