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進路

「みなさん、おかえりなさい。町の様子はどうでしたか?」


 エミリーは客間で休んでいるルーカスたちに声をかける。


「ただいま。今日行った町もエミリーが力を込めた植物を町の周囲に置いていて、魔物の侵入はないようだった」


「そうなのですね」


 エミリーは安堵の息を吐く。

 オルティス領内ではエミリーと育てた植物を町の周囲に置くと安全だと、領民たちの間で広がり、全ての町がその対策をしているらしい。


(でもいつまで保つかはわからないわ……やっぱり一番大切なのは根本を断つことよね)





「そういえばさ、さっきは驚いたよな?」


 アドルフは困惑した表情で、頬を掻く。

 他のみんなもお互いに視線を合わせて、アドルフの言葉に頷き合っている。


「何かあったの?」


「いや、さっき廊下でオルティス伯爵に会ったんだけどさ……」


「お義父様に?」


「なんか突然じーっとこっちを見てきたな〜と思ってたら、耳を触らしてくれないかって聞いてきて……」


「え? お義父様が?」



 お茶会でニールと打ち解けたエミリーは、みんなのことを知ってもらおうと、いろいろな話をした。

 その中でアドルフのことを話したことを思い出す。


 アドルフが体調を崩し、看病している時、しんどそうに寝ているアドルフの頭を撫でたのだ。

 その時に触れた耳がふわりとした柔らかい毛並みでとても手触りが良かったと話した。


 その話をしている時、ニールは興味深いというように真剣にエミリーの話を聞いていた。

 そういえばスチュワートが以前、旦那様はああ見えて動物が好きなのですよと話していたのを思い出す。



「えっと……それでお義父様はどうしたの?」


「世話になっているし、それくらいなら断るのもと思って、いいぞって言ったんだ。そしたら俺の耳を触って『なるほど……』って言って、しばらく頭を撫でられたんだ。何だったんだろうな? しかもなんか機嫌良さげだったような?……」


 みんなが困惑した表情で、首を傾げる。


(まさかお義父様……アドルフくんを犬と重ねて、動物を可愛がるような感覚だったんじゃ……私がみんなの話をしたことで警戒は解いてくれたみたいでよかったけど……流石に失礼すぎるわ……)



「に、人間とは違う耳だからお義父様も気になったのかもしれないわ……」


 エミリーはなんとか笑って誤魔化す。

 アドルフは「そうかな?」と不思議そうに首を傾げた。



「エミリーのほうは? その表情なら良いお茶会になったようだな」


 話が別にそれたことに内心ホッとしながら、エミリーはにっこり笑みを浮かべて頷いた。


「はい! 誤解があったようで、いろいろと話し合うことができました。みなさんのおかげです。ご心配おかけしました」


「いや、エミリーが勇気を出してしっかり向き合えたからだ。良かったな」


 ルーカスの優しげな微笑みに、エミリーは感謝を込めて満面の笑みで頷いた。





「明日は私もオルティス領内の別の町に向かおうと思っているのですが、ルーカス様たちはどうされますか?」


「そうだな……エミリーはオルティス領内の町の様子を見て、その後どうしたいと思っているんだ?」


「え? それは……」


「エミリーのことだ。オルティス領内の町の安全が確認できても、このままにしておくつもりはないのだろう?」



 心の中を見透かされたような言葉に、エミリーは躊躇(ためら)いながらも頷いた。


 ルーカスたちはエミリーの安全のためにこうして付き合ってくれている。だからこそ自分から危険なことに飛び込む行為はすべきでないとはわかっている。

 しかし、このまま無視して獣王国に戻ることなどエミリーにはできない。みんなの命がかかっているのだ。いつ何時、魔物に襲われるかもわからない。


 この状況をどうにかするにはジェームズか陛下に直接話をする必要があるだろう。

 しかし、直接ということは王宮に出向かなければいけない。エミリーにとって最も危険なマチルダがいる王宮へ。

 そんな危険ことにみんなを巻き込むわけにはいかない。



「ごめんなさい、みなさん……みなさんは獣王国に先に戻って」


「それなら決まりだな! アーノルドとファハドとアドルフは明日から王都の調査に向かってくれ」


「え? 俺もかよ」


「お前はここのところずっと調査に出向いてなかっただろ? ちょっとは役に立って来い」


「ちょっと! その言い方はないだろう」


「諦めろ、アドルフ。確かに最近ずっとお前はエミリーと留守番してたんだ。仕方ねーだろ?」


「うっ……」


 バーナードの言葉にアドルフは言葉に詰まり、諦めたように項垂(うなだ)れる。

 ファハドが慰めるようにアドルフの肩にポンと手を置いた。



「あ、あの……みなさん?」



 以前と同じようにエミリーを無視して進んでいく会話にエミリーが声を上げると、みんながエミリーを振り返る。

 そしてみんながにっと笑う。



「まさかエミリーを置いて帰るわけがないだろ?」


「そうだぞ! そんなの一緒に来た意味ねーじゃん!」


「まぁエミリーの性格を考えりゃ、何となくこうなるだろうって思ってたからな」


「エミリーは優しいから……」


「調査は私たちに任せてください」


 みんなはいつもエミリーの意思を尊重し、協力してくれる。温かい笑顔と言葉にエミリーは深く頭を下げた。


「みなさん、ありがとうございます! よろしくお願いします!」




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