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オルティス領へ

「エミリー、気をつけて。もし何かあればいつでも私を頼ってほしい」


「ありがとう、イーサン。あなたも気をつけてね」



 翌日の早朝、エミリーたちはハワード侯爵邸を後にした。


 イーサンの話では、オルティス伯爵邸にも何度か宰相子息がエミリーを(かくま)っていないか調べに来たようだ。

 しかし、エミリーとオルティス伯爵の関係は社交界でも有名な話だったため、数回の調査で終わったらしい。


(これからお義父様に会わないといけないと思うと気が重いわね……)


 重苦しい気持ちのまま、それでも順調に旅は進み、エミリーたちは昼前にはオルティス領の最初の町に着いた。




「ここがエミリーの育ったオルティス領か……すごく空気の良いところだな。話しに聞いていたとおり、町が荒れている様子もないな」


「でも不思議だよな? 隣のハワード領はハワード侯爵が魔物の討伐をしてるから魔物が少ないのはわかるけど、なんでオルティス領は無事なんだろ?」


「ああ。オルティス領の町は本当に魔獣の被害がなさそうだな……どこにも魔物の痕跡が見られない」



 エミリーは町の様子に安堵の息を吐いた。

 ルーカスたちの言う通り、町に魔物が侵入した形跡が一切見られない。他の町とは違い、遠くから人々の元気な声が聞こえてくる。


(オルティス領は何も変わっていないわね……よかった……)




「お、おい! あれって……エミリー様か?……」


「本当だ! エミリー様だ!!」


「エミリー様!!!」


「おい! みんな呼んでこい! エミリー様だぞ!!」



 エミリーに気づいた町の人たちが次々と集まってくる。そしてすぐにエミリーの周りに人だかりができた。



「エミリー様、ご無事だったのですね!」


「お元気そうで、本当に良かった!」


「ずっと心配していたんですよ」



 エミリーの様子にみんなが嬉しそうに笑い、中には目に涙を溜めている人もいる。

 昔からよく町に通い、たくさんの経験を共にする中で、町の人たちもまたエミリーを家族のように思っていた。

 暖かい歓迎に、エミリーは自然と笑顔になる。



「みんなありがとう。私は元気よ。それよりみんなは? 町に魔物が来たりはしていない?」


「はい! 大丈夫です! エミリー様のおかげです!」


「私の? どういうことかしら?」



 エミリーが首を傾げると、側にいた子どもたちが元気よく指を指す。



「あれだよ!」


「あれのおかげ!」


「あれがあれば安全だもん!」



 子どもたちが示す方向に目を向けると、そこには沢山の鉢植えが並べられていた。

 中には地面にそのまま植えられている植物もある。



「あれって……」


「はい。エミリー様が一緒に植えてくださった植物です」


「ええ、覚えているわ……でもどうして町を囲むように置いているの?」


「あれがあれば魔物が入って来ないのですよ」


「それは本当か!? あの植物で魔物を遠ざけられるのか?」



 ルーカスが驚きの声をあげると、町の人たちが不思議そうにルーカスたちを見つめる。




「エミリー様、彼らは?」


「彼らは私の恩人です。私が今まで無事でいられたのは彼らのおかげなのです」


「そうでしたか。あの方達のおかげなのですね」


「エミリー様を助けていただきありがとうございます」


 町の人たちはまるで自分の家族が世話になったとでもいうようにルーカスたちに深々と頭を下げる。



「頭を上げてくれ。私たちは大したことはしていない。それよりもさっきの話を詳しく教えてくれないか?」


「さっきのとは、あの植物のことですか?」


「ああ。あの植物があると魔物は寄って来ないのか?」



 町の人たちは顔を見合わせると、口々に話し出す。


「魔物たちはあの植物より中には何故か入って来ないんですよ」


「そうそう。近くまで来ても、あの植物のあたりで止まってうろうろしてから、また帰って行くのよね?」


「ああ。俺は町の外にいる時に襲われそうになったが、あの植物より内側に逃げ込んだら、そのまま帰って行ったぞ」


(まさか、私がみんなと一緒に植えた植物にそんな効果があったなんて……でもこれってまるで……)


「光の木……」



 ルーカスの呟きに、エミリーはパッと視線をルーカスへと向ける。

 エミリーが思っていたことと全く同じことをルーカスも考えていたらしい。

 どうやらアドルフたちも考えていることは同じようで、みんながルーカスの言葉に頷きあっている。





「なぁなぁ、エミリー様はオルティス領に帰って来たんだよな?」


 エミリーたちが考え込んでいると、男の子がエミリーの服の袖を掴む。


「本当? じゃあまた一緒に遊んでくれる?」


 その言葉に女の子が駆け寄ってくる。

 エミリーは困ったように微笑み、目線を合わせるため、しゃがみ込んだ。



「ごめんなさいね。今回はみんなが無事か確かめるために戻って来ただけなの……だからまた行かなきゃいけないわ……」


「え?……じゃあまた会えなくなるの?」



 悲しそうな子どもたちの表情に、エミリーは慰めるようにそっと頭を撫でる。


「ええ、ごめんなさいね。でももうしばらくはここにいるから」


 エミリーの言葉に子どもたちは寂しそうにしながらも小さく頷く。





「それではそのしばらくの間はどうぞお客様と屋敷でゆっくりお過ごしください」


 突然聞こえた懐かしくも優しい落ち着いた声に、エミリーは勢い良く振り向いた。



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