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ヴァージル王国の現状

「エミリーのおかげで私は少しずつ正気を取り戻していったが……その頃からマチルダ嬢は私を避け始め、ジェームズ殿下や宰相子息からのあたりが強くなった。彼らは協力して私を王宮から追い出そうとしたんだ」


 イーサンは国防を担うハワード侯爵家の当主だ。

 王宮での発言権は強い。

 となれば彼らにとって、自由に動かせないイーサンは邪魔でしかなかったのだろう。



「だけど彼らに国防が勤まるとは思えないわ……」


「ああ。だから重要な書類や兵の配置など諸々の確認のため、宰相子息が数週間に一回、必ずハワード領にやって来るんだ。おそらく私の監視も含めてな」


「なんて馬鹿馬鹿しい……」



 ヴァージル王国内の状況にエミリーは頭痛を感じて大きなため息を吐く。個人の感情で国を危険に晒すなど、あってはならないことだ。


 エミリーは王太子の婚約者であったため、幼い頃から王妃教育を受けて来た。

 その中で散々、国を守るため、統治するために必要なことを叩き込まれた。それはもちろん、王太子であるジェームズも宰相子息も同じはずだ。

 その彼らが精神操作をされていたとはいえ、ここまで一人の女性に狂わされ、全てにおいて盲目的になるとは思わなかった。



「本当に馬鹿馬鹿しいことだ。かくいう私もエミリーが力を貸してくれなければ、ああなっていたと思うとぞっとする……とにかく私はこのままではいけないと思い、殿下にある条件を出した」


「条件?」


「ああ。彼らが望む通り、私は王宮には出入りしない。その代わり、殿下にエミリーからもらった魔石を肌身離さず持っているように条件を出した。この魔石は特別仕様だから、殿下が持っていなけれすぐわかると嘘をついてな」


「イーサンあなたって……」



 王族に嘘をつくのは罪に問われる可能性がある。

 ジェームズを正気に戻すために必要だったとはいえ、なかなか大胆な行動にエミリーは呆れた表情でイーサンを見つめる。

 イーサンはニヤッと笑うと何という事はないというように手を振った。



「気づかれなければ嘘ではない」


「あなたね…………」


 イーサンの態度に頭を抑えながら、エミリーは大きく息を吐き出した。


「まぁいいわ……それで? 殿下は精神操作が解けたの?」


「会う度に少しずつ元に戻りつつあるように感じた。マチルダ嬢への不信感も出てきたようだった。しかし、少し前から殿下と連絡が取れなくなったんだ」


「連絡が取れないって?」


「今まで殿下とは手紙かまたは王宮の外で会って話をしていた。しかし、先日は約束の場所に来なかったんだ。手紙も返って来ないから、王宮に赴いたんだが……宰相子息に追い返された。殿下は体調が悪いと言われてな」


「でも以前の殿下に戻られつつあるなら、体調が悪ければ会えないと先に連絡をよこすでしょう?」



 マチルダの言いなりになっていた頃ならいざ知らず、本来のジェームズなら約束をすれば、何も連絡をしないまますっぽかす事はない。

 体調が悪いならば悪いと直接連絡をするはずだ。

 エミリーの言葉に同意するようにイーサンが頷く。



「私もそう思う。だから少し話を聞いて回ったんだ。そうしたら、最近殿下は部屋にこもりきりで、ほとんど姿を見た者がいなかった。さらにおかしな事に体調が悪いはずなのに医者は呼ばれず、ずっとマチルダ嬢が殿下の部屋に出入りしているらしい。怪しいだろう?」



 マチルダへの不信感が芽生え、警戒していたはずのジェームズがマチルダをずっと部屋に招いているのは確かにおかしい。

 精神操作が解けかかったことで、さらに強い精神操作をかけられたのか……



「とにかく私は殿下の様子をもう少し探ろうと思う」


「そうね……何かわかれば教えてくれる?」


「もちろんだ。そういえば、もう一つエミリーに話しておきたいことがあったんだ。オルティス領に行くなら、もちろんオルティス伯爵邸には行くんだよな?」


「それは……お義父様(とうさま)のご迷惑にもなるから……」


「やっぱり寄らないつもりだったのだな……」


 エミリーの返事にイーサンはやれやれというように、ため息を吐く。




「エミリーは自分の家に寄るつもりではなかったのか?」


 ルーカス達も意外だというようにエミリーを見つめる。

 エミリーは以前、ルーカスたちにオルティス伯爵との親子関係は冷め切っているとは話していたが、やはりオルティス領に行くのであれば屋敷には戻ると思っていたようだ。



「事前にお伝えしてなくて申し訳ありません。私はオルティス伯爵邸に行かずともオルティス領が無事か確認できれば十分だと思っていたので……」


「だがオルティス領内の詳しい情報はオルティス伯爵の元に集まるだろう? それならばやはり、オルティス伯爵邸に寄った方がいいのではないか?」


「エミリー、私もオルティス伯爵邸にはいった方がいいと思う。それを伝えておきたかったんだ」


「イーサン、あなたは私とお義父様の関係はよく知っているでしょう?」


「確かに私は今までエミリーの話を聞いていたから、二人の態度を見て、家族という関係には見えないと思っていた。しかし、今回のことで度々オルティス伯爵に会ううちに、エミリーの話が全てではないのではと思ったんだ」


 エミリーは怪訝(けげん)な顔でイーサンを見つめる。



「それってどういうこと?」


「オルティス伯爵は間違いなく君をとても心配しているよ。オルティス伯爵と話して思ったが、君たちはもっとお互いしっかり話をしてみるべきだ」


「で、でも……」


 エミリーの渋る態度に、イーサンは仕方ないというように困ったような笑みを浮かべる。



「オルティス伯爵の事は別にしても、あの屋敷には君のことをとても心配している使用人たちがいるだろう? ここは私に免じて、少しでもいいからオルティス伯爵邸に寄ってくれないか?」



(オルティス伯爵邸に行くという事は必ず主人であるお義父様に挨拶しなければいけないわ……でも確かに屋敷のみんなのことは気になる……)



 エミリーとしては町の様子を見て、町の人たちからオルティス伯爵邸の様子を聞こうと思っていた。

 しかし、直接自分の目で見た方が安心できるのは確かだ。



「エミリー、何かあれば私たちもついている。行って嫌だと思うのなら、すぐ出発すればいいんだ。エミリーはどうしたい?」


 エミリーの悩む様子にルーカスが後押しするように優し気な笑みを浮かべる。



(私は…………オルティス伯爵邸のみんなにも会いたい)



 エミリーは決意して、顔をあげる。



「ルーカス様、ありがとうございます! イーサンわかったわ。一度オルティス伯爵邸にも行ってみる」

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