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騒がしい食事の席

 ハワード侯爵邸に着くと、エミリーたちはイーサンと一緒に夕食を取ることになった。


「エミリーは明日、オルティス領に向かうのだな?」


「ええ。そのつもりよ」


「私も一緒に行ければよかったのだが……そろそろ彼らが来る頃だろうから私はハワード領から離れられないからな……」


「その必要はない」


 笑みを浮かべながらもルーカスは冷たく言い放つ。



「護衛がルーカス殿下では心配だと思ってね」


 イーサンもまた上部だけの笑みを浮かべて、冷たい声音で言い返す。

 冷えきった笑みを浮かべながら火花を散らす二人に、エミリーは小さくため息をついた。




 ハワード侯爵邸についた後、エミリーはイーサンにルーカスたちを紹介した。

 そして簡単にエミリーがどういう経緯でルーカスたちと共に行動する事になったのかも話した。


 お互い自己紹介をし、言葉遣いだけは丁寧になったものの、残念ながら相手への敵意は全く変わらなかった。



「ありゃダメだな……似た者同士って感じだ」


「うん。二人ともエミリーのことは自分が守るって思ってるし、独占欲が強そうだから」


「同族嫌悪ってやつでしょうかね」


 バーナード、ファハド、アーノルドが呆れたように見つめる。

 エミリーが苦笑を浮かべていると、エミリーの前に突然肉料理が差し出された。




「エミリー! これすっごくうまいぞ!」


 ニカっと笑って差し出すアドルフに、エミリーはきょとんとした表情でアドルフを見つめる。



「お前……よくこの空気の中、平気で飯を食えるよな……」


 バーナードが呆れたようにアドルフを見つめる。

 しかし、アドルフは全く気にしていない様子で食事を続ける。



「え? 何が? 食べれる時に食べとかないとだろ?」


「いや、そうじゃなくてだな……お前は参戦しなくていいのかよ?」


「だから何がだよ? エミリーのことを守るのはもちろんだろ。ハワード侯爵とエミリーは幼馴染なんだし、ハワード侯爵がエミリーのこと心配するのは当然のことじゃん」


「いえ、それはそうですが、そういうことでは無くてですね……」


 アドルフがバーナードとアーノルドの言葉に首を傾げる。



「アドルフがダメなとこはそういうところだよな……」


「どっしり構えるのはいいことなのですがね……まず大事なことに気づいてないってところが……」


「うん……残念……」


「だからなんだよ!!!」


 バーナードたちの残念な者を見る視線に、アドルフはムッと頬を膨らます。


 そんな騒がしい食事の席の中、エミリーはふっと笑みを浮かべる。


(やっぱりみんなといると賑やかで楽しいわ)



 ヴァージル王国を追放された時は知り合いもいない、ましてどんな国かもわからない場所に一人で向かうのは不安しかなかった。

 しかし生き延びるためにと向かった国で、こんなにも信頼できる優しい人たちに出会えるなんて、思ってもみなかった。とても幸運なことだ。



 改めてそんなことをしみじみと思いながら、エミリーはこれからのことを考える。


 オルティス領とハワード領は隣接しているため、オルティス領へはそう時間もかからない。

 しかし、移動中に何が起こるかはわからない。正確で詳しい情報を得ることは、これから旅の安全にも繋がる。



(ハワード侯爵家は国防を担う重臣だものね。聞けることは聞いておかないと……魔物の出現のことも気になるけど、さっきの言葉も気になっていたのよね……)



「イーサン、さっきそろそろ来る頃だからハワード領を離れられないって言っていたけれど、この魔物の騒動が起きている時に来客があるの? 差し支えなければ誰だか聞いてもいいかしら?」


「ああ。その事は話しておかなければと私も思っていた」



 イーサンの真剣な表情に、エミリーは嫌な予感に表情を固くする。



「エミリーは今、ヴァージル王国の王宮がどういう状態かは知っているか?」


「どういう状態って……以前と同じで、マチルダ様の言葉にジェームズ殿下と宰相子息、高位貴族がいいなりになっているのではないの?」


「半分正解だ」



 イーサンの含みのある言い方に、エミリーは首を傾げる。イーサンは眉を寄せ険しい表情をし、ため息をついた。



「ここ最近、殿下と連絡が取れていない」


「それは……マチルダ様がジェームズ殿下とイーサンを接触させないようにしているの?」


「いや、確かにマチルダ嬢は私と殿下を接触させたくはないのだろうが、そうではない。おそらく殿下はこちらに連絡が取れない状況に(おちい)っているのではないかと考えている」


「どういうこと? 殿下はマチルダ様の言うことは何でも聞いていたじゃない。その殿下がマチルダ様に反抗するような態度を取るなんて考えられないし、仮にも殿下を閉じ込めることなどできないでしょう?」



 エミリーは以前のジェームズとマチルダの様子を思い出し、眉を寄せる。

 あの時のように精神操作をされている状態であるならば、もしマチルダがイーサンと会うなと言うのであれば、ジェームズはイーサンとは会わないはずだ。

 それに今、ジェームズは伏せっている陛下の代理をしている。そんな彼まで姿を見せなくなれば、さすがに大きな騒ぎになるはずだ。



「実はエミリーから餞別(せんべつ)でもらった魔石を殿下に預けていたんだ。だから殿下の精神操作の魔法は解けかかっていた」


「え!? 殿下に渡したの? よく殿下が受け取ったわね……」


 イーサンの行動も意外だが、ジェームズが受け取ったのも意外だった。

 魔石は使い方次第では呪いにもなる。

 ジェームズは王太子であり、そういった物にも慎重になっていた。

 さらにマチルダからの精神操作でマチルダ以外の人間への不信感でいっぱいだったはずだ。たとえイーサンから渡されたものであっても、受け取るとは考えにくい。



「もう一つまだ言っていなかったが、私は今王宮への出入りを禁止されている」


「え?……イーサンは国防を担っているでしょう!? いったいどういうこと?」



 次々とあり得ないような驚くべき情報にエミリーはくらりとする。



「そうだな……エミリーが追放された後のことを順を追って話そうか」

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