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アーノルドの獣化

「驚いた……本当に獣化できるなんて……」


 アーノルドは美しく輝く金色の瞳を大きく見開き、自分の体を確認する。


「なるほど……アドルフたちが言っていた体が軽いという感覚がよくわかりました。そうですね、これなら余裕で二人を抱えることができそうです」


 アドルフがバサリと翼を広げると、いつもの倍ぐらいまで翼が広がる。



「翼自体が大きくなっているようだな……」


 ルーカスがじっくり観察するように見つめていると、後ろでバタンと炎で焼かれた木が落ちる。



「いや、今は観察している場合ではないな。アーノルド早速頼む」


「わかりました。それではエミリーさん失礼しますね」


 アーノルドはエミリーに声かけると、エミリーを横抱きに抱え上げた。

 びっくりしたエミリーが首に手を回すと、ルーカスがむっとした表情でアーノルドをジロリと見つめる。



「エミリーは私が抱える」


「それでどうやって私に運ばせるつもりですか? ルーカスが抱えたら運べないでしょう? エミリーさんは私が抱えて、ルーカスが私に掴まるしかないでしょうが!」


「くっ……だが……」


「他に何か方法がありますか?」


「……わかった……」



 ルーカスは仕方がないと諦めながらも、悔し気な表情でアーノルドの背中にしがみつく。



「ちょっと待ってください! 背中を掴まないでください! 翼を動かしにくくなります」


「それじゃあどこに掴まれと言うんだ?」


 ルーカスが不満げにジト目でアーノルドを見つめる。



「そうですね……足とかですか?」


「お前……仮にも主人に足を掴ます気か?」


「それじゃあ他にどこならいいんですか!」



 二人の言い合いが続く中、エミリーはチラリと後ろを見つめる。

 炎はすぐそこまで来ていて、早く脱出しなければ危ない。



(今はそんな場合ではないのだけれど……でもルーカス様は王族だものね……ならやっぱり私が!)


 エミリーは二人の終わらない言い合いに「よし!」と気合いを入れて提案する。



「でしたら、私がアーノルドさんの足に掴まりますから、ルーカス様を抱えてください! 少しの間なら掴まれると思います!」



「「嫌だ(です)」」



 二人の綺麗にピッタリ揃った返事に、エミリーは目を丸くすると、苦笑を浮かべる。


(ここは意見が揃うのですね……)



「ですが他に方法はありませんし……」


「アーノルドに横抱きにされるなんてごめんだ!」


「私もルーカスを横抱きにするなんて嫌ですよ!」


「それにもしエミリーが落ちたりしたら大変だろう?」


「そうですよ。飛ぶということは強い風が巻き起こりますから、人間のそれも女性が自力で掴まるのは無理があります」


「でも……もうそこまで火が……」



 エミリーが後ろに迫り来る炎を指差すと、ルーカスがため息をついた。



「くっ……仕方ない……」



 結局、エミリーはアーノルドに横抱きに抱えられ、ルーカスがアーノルドの足に掴まった。

 アーノルドがバサリと翼を広げ飛び立つと同時にエミリーたちが今まで立っていた場所も炎に包まれる。

 何とかギリギリのところで脱出に成功した三人は鐘塔から少し離れた位置に着地した。




「何とか無事、脱出はできたな……」


「アーノルドさんありがとうございます」


「いいえ。怖くはなかったですか?」


 アーノルドはそっとエミリーを下ろすと、心配気に尋ねる。

 すでにアーノルドの瞳は元の暗い金色の瞳に戻っており、翼もいつものサイズに戻っている。


「はい! 空を好きに飛べるのはとても気持ちがいいですね! アーノルドさんが羨ましいです!」


「それならよかったです。もしエミリーさんがまた空を飛んでみたいのであれば、獣王国に戻ったらいつでもお連れいたしますよ。獣化しなくてもエミリーさん一人ぐらいなら抱えて飛ぶことはできますから」



 褒められたことが嬉しかったのか、アーノルドが優し気に微笑む。


「ありがとうございます! 体のほうは大丈夫ですか?」


「そういえば全然疲れていませんね……バーナードからエミリーさんの力を借りれば、そんなに疲れないと聞いていましたが……本当に獣化したとは思えないくらいですね……エミリーさんの力はやはりすごいですね! ありがとうございました」


 素直な賞賛にエミリーは薄ら頬を染め、いいえと首を振った。

 そんな二人の様子にルーカスはジト目でアーノルドを見つめると、二人の間に割り込んだ。



「今はとりあえず、ここから離れるぞ。流石にあれだけの火事だ。すぐ人が来るだろう」


「あっ……そうですね」


 火事のせいで、すっかり自分たちが追われていたことを忘れていた。


 幼い頃の思い出の鐘塔が燃え、しかもこのまま離れなければいけないのは胸が痛い。

 しかし、ルーカスの言う通りずっとここにいる訳にはいかない。

 エミリーが頷き、歩き出そうとしたところで、ルーカスとアーノルドが厳しい表情で後ろを振り返った。

 二人はエミリーを守るように前に進み出る。



「ルーカス様? アーノルドさん?」


「誰か来る」



 ルーカスが答えるとすぐ、一人の男性が走ってくる。

 彼はエミリーの姿を捉えると、目を見開き固まる。そして眉を寄せ、悔やむように唇を噛み締めた。


「エミリー、やっぱ君だったんだな」



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