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情報収集と別行動

『ふふっ……』


「レイラ? なんだか楽しそうね?」


『ええ。私の配下を向かわせて、ちょっと挨拶して来たの』


「挨拶?」


『ええ。予想通り、やっぱりオルティス領に向かっているようね』


「そうなのね。よかった! やっぱりレイラはすごいわね! 全部レイラの予想通りだわ!」


 マチルダは嬉しそうに鏡に向かって話かけると、鏡の中のマチルダも口元を微かに釣り上げた。


『もう少し、もう少しよ……もう少しで邪魔者はいなくなる。そして全て私の…………』






「今日はこの町で宿をとるのか?」


「そうだな。次の町からはハワード領だし、それがいいだろう」


 先日のファハドの獣化から、数日。

 無事に何個かの町を経由し、エミリーたちはハワード領に隣接する町に到着した。



「でもこの町ってさ……泊まれるとこあるのか……?」


 アドルフの含みのある言葉に、エミリーも心の中で同意する。

 この町は今まで見てきた町の中で一番荒れている。


 今までの町では路上生活をする者はいなかった。

 しかし、この町では家の間や、軒下で身を寄せ合って座り込んでいる者が多くいる。



(そう言えば、この町は貧富の差が激しい町だって以前聞いたことがあったわ……)


 もともと貧しい者たちは魔物の出現により高騰(こうとう)する物価で、生活できなくなり、路上生活をするほかになかったのだろう。




「とにかくもう少し町の奥を見に行こう」


 町の中心に近づくほど大きな家が増え、路上生活するものの姿も見られない。

 町の中心は安全性もあり、店などが近く便利だ。

 富裕層は町の中心部分に集まっているのだろう。


 エミリーたちは町の中心近くで見つけた宿に泊まることになった。




「この町は貧富の差が激しい町のようだな。あまり長くいたい町ではないが、仕方ないな……悪いがエミリーたちは二、三日ここで泊まってくれるか?」


 ルーカスの言葉にエミリーは首をかしげる。


「ルーカス様はここには泊まられないのですか?」


「ハワード領は今まで行ったことがない。だから先に少し情報を集めておきたくてな……先行して私とアーノルドで情報を集めに行こうと思っている」


「え? もう隣町なんだし、みんなで行ったほうが早くないか? それに魔石に関してはエミリーが一番詳しいだろうし。パッパと行って目的だけ済まして、すぐ帰ればいいじゃん!」


「はー……アドルフ、エミリーさんの話を覚えていないのですか? ハワード侯爵はエミリーさんの追放に賛成した一人ですよ? エミリーさんの力で精神操作は弱まったとはいえ、今どのような状態かもわかりません」


 アーノルドがモノクルを押し上げ、呆れたという表情でアドルフを見つめる。



「私のせいで申し訳ありません……」


「エミリーのせいじゃねーよ! だがもし、まだ精神操作が完全に解けていないなら、エミリーの目撃情報などを集めているという可能性もあるからな……」


 バーナードの言葉にルーカスは頷くと、チラリとアドルフとファハドを見る。



「それにファハドは獣化からゆっくり休める日もなかったし、結局アドルフもそんなゆっくり休めていない。二人の休息も考えて、私とアーノルドでハワード領へ行き、バーナードにはその間エミリーの護衛をしてもらおうと思う」


「俺は平気だ!」

「僕も大丈夫!」


 二人は声を揃えて答えるが、バーナードが二人の頭に手を乗せると、押さえつけ椅子に座らせた。


「お前らな、いつも一緒にいる俺らが気づかないと思うか? 二人とも疲れが残ってるのはわかるんだよ! 今はルーカスの言葉に甘えて、休める時に休んどけ! いざという時動けなきゃ意味ねーんだから」


 二人はグッと申し訳なさそうに押し黙る。



「あの……それではこれをお持ちください。この魔石だけでは獣化を制御できるほどの力はありませんが、光属性の力が込めてあるので、簡単な結界くらいは張れるはずです」


 エミリーが魔石を差し出すと、ルーカスがいやっと首を振る。



「今回はバーナードに渡してもらえるか? 私たちはあくまで情報収集に行くだけだ」


「そうですね。目立つわけにはいきませんし、何かあったとしても戦闘になる前に退散しますよ」


「ですが……」


「むしろバーナードのほうが、いざとなれば戦わねばならないでしょう。エミリーさんも近くにいるなら、もし獣化した時は遠隔でエミリーさんの力を届けられるか試すこともできるでしょうし」


 ルーカスがアーノルドに同意するように頷く。

 エミリーの不安気な様子に、二人は安心させるように微笑んだ。


「すぐに調べて戻りますから」


「エミリー、私たちは大丈夫だから心配するな。あと、それから……」

 

 ルーカスはエミリーから視線を外すと、凄みのある笑みをアドルフとファハドに向ける。



「もちろん、休めとは言ったが……わかっているよな? もしバーナードが獣化するようなことがあってエミリーに危険が及ぶ場合は死んでも止めろよ?」


 アドルフとファハドはルーカスの圧に若干引き気味で数歩後退する。

 そしてふたりは素早く背を向けると顔を寄せ合い話し合う。


「元からエミリーのことは守るつもりだけどさ……これはエミリーがちょっとでも怪我したら、めっちゃキレられるぞ……そんなことにはさせないけどさ」


「うん……あの顔をしてる時のルーカスは危険。きっと自分が残ってエミリーを守りたいけど、それができないから八つ当たりだ」


「だよな……バーナードは図体がでかいから情報収集に向かないし。いつもなら基本ファハドとアーノルドだもんな……」


 アドルフとファハドが部屋の隅でコソコソ話していると、威圧感のある声でルーカスが問いかける。



「アドルフ、ファハド返事はどうした? わかったな?」


 顔に笑みを貼り付けてはいるが、全く笑っていない目でルーカスは二人を見つめる。


「お、おう! もちろんだ!」

「わ、わかった!」



 二人はビクッと体を震わせると、勢い良く何度も首を縦に振り続けた。

 

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